探索行から戻ってくると、竜姫亭の前が何だか騒がしい。
「あ!おかえりなさいませ!」
対応をしていたのは館のメイド・ピーネだ。僕を見つけて声をかけると、彼女に迫っていたらしいずんぐりとした大男がこちらを振り返った。
「わぬし、この館の住人か?」
え?あ、はい…
「丁度良い。ここの主人に取り次いで貰えぬか?ここで仕事をしたいのだが、そこのネイの小娘が聞かん坊でのぉ…」
「で、でーすーかーらー!契約希望でしたらアポをとってくださいと!」
「オヤカタ、今日は出直すのが吉じゃあないかな?ここで言い合っていても建設的なやりとりにはならなそうだ」
ふと、大男の傍にいた黒衣の青年が彼を嗜めた。銀色の髪から覗くのは尖った耳だ。
「エルフとドワーフのコンビですか…珍しい組み合わせですね」
そうなの、マイコ?
「ええ、この2種族は古来からあまり仲良くないんですよ」
ふぅん…というか、この人ドワーフだったのか。館には同じ種族の人が居ないから気づかなかったよ。
「むぅ…し、しかしだなノアルよ、ここに来るまでにそれなりに出費が嵩んどるのだ。出直したところで泊まるところなどないぞ。野宿は嫌だと毎回宿に泊まらせたのはわぬしじゃろうて」
オヤカタ、と呼ばれたドワーフが渋面を見せる。一方散財を指摘されたノアルなるエルフはどこ吹く風で肩を竦めた。
「ねぇピーネちゃん、一晩くらいは泊めてあげられないかな?客室くらいはあるでしょ?」
「ダメよ」
ビアンカの提案を、フランの声が蹴っ飛ばした。
「さっき聞こえたわ。悪いけれど文無しに泊めてやれる場所なんて、軒下にだって無いんだから。諦めて出直してらっしゃい」
なんとも彼女らしい、取りつく島もない発言である。
「そ、そこをなんとか!ここらでは滅多に手に入らんという魔界産の珍しい武具が手に入ると聞いた。一介の鍛治師として、それらをこの手にしてみたいのだ!」
「まぁ…そういうわけなんで、ぼくたちも退けないんだ。どうですご主人、ここはこのぼくの顔に免じて、どうにか融通をきかせてくれないかい?」
「…あんた誰よ知らないわよ」
フランの辛辣な一言に、ノアルが絶句した。
あの根拠のない自信…道具屋を思い出すなぁ…
(…多かれ少なかれ、エルフってああいうもんですよ)
マイコがこそっと呟いた。
…あのさ、フラン。
「なぁに?あ、家賃なら受け取るわよ」
いやそうじゃなく…払うけどさ。この2人の事、僕に預けさせてくれない?
「それって…」
うん。部屋貸してよ。
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そこからのフランの動きは素早かった。即座に契約書を書き上げ、オヤカタとノアルの鼻先に突きつける。両者のサインを受け取り、今度は僕がフランに契約料を支払う。
「相変わらず、気持ちの良い払いっぷりね。他の連中にも見習って欲しいくらい♪」
はは…
「でもいいの?あなただって借金持ちの状況には変わりないのだし」
「なんと!わぬしも無一文なのに、ワシらに部屋を用意してくれたというのか!?若いのに太っ腹じゃのぉ…気に入った!」
オヤカタがばしばしと背中を叩いてくる。痛い。
まぁ僕にも得はあると思ったからね。あと、別に無一文じゃないです。
「なるほど、住むところを確保する代わりに見返りを要求するってことか」
そういうこと。二人とも、竜姫亭まで来れたってことはそれなりに腕に覚えがあるってことでしょ?だったら僕と一緒に、周辺の廃墟探索とデモン退治をやってくれないかな?
「デモン退治とな?また面妖なことをやっておるのじゃな…」
一緒に探索すれば、魔界産の武器とか取り放題だよ?
「なるほど、ワシらにとっても都合がいいということか」
「Win-Winってやつだねぇ…まぁ、ここまでお膳立てしてもらっちゃあ断るのも気が引ける。いいよ、協力しようじゃないか」
じゃあ、決まりね。よろしく、二人とも!
「…案外ちゃっかりしてるわねぇ」
フランが後ろでくすくす笑っていた。
−つづく−
溜まった武器一気売りしたら2人分部屋代確保できたので、コンビということにしましたw
「円卓の生徒」におけるミンツとバーゴのような関係性が割と好きです。
ゲイザーくんが気前いいのは、前に同じようなことをローナにしてもらったからっていうのもひとつ。
一応フルメンバーが出揃ったので、次回は番外編予定。