──誰だ?僕を、呼ぶのは…?
ぼんやりした視界の中、僕の名を呼び続ける声に目を向ける。黒く禍々しいシルエットが浮かび上がっていた。
『よう…俺…』
その姿に見覚えはなかったが、はっきりとわかった。こいつは…僕…今は僕の内側にいるはずの…デモン!
『フフ…フフフフ…“あの時”は遅れを取ったが、今度は邪魔は入らせぬ…身体…明け渡させてもらおうか…』
じりじりとデモンが近づいてくる。僕はといえば体が動かない。避けることも逃げることも叶わず、奴の近づくままに任せ…
──おおっと、そうはいかない!
『なに!?』
間も無くデモンの指先が僕に届く、その刹那。間に割って入った影があった。
『こいつはもう、人間だ。お前の入る余地なんか、これっぽっちもありゃしないよ!』
『ぐっ…死に損ないが…まだ邪魔をするのか…ッ!』
僕を助けてくれた…?
姿はデモン以上にハッキリと見えないが、奇妙な懐かしさと優しさをたたえた視線を感じる。
僕は…この人?を知っているのか?
『──』
優しく力強い声が、僕を呼ぶ。
『城に、たどり着いたようだな』
あ、うん…
『お前と一緒に行けなかったのは残念だが…“見て”いたぞ。お前の活躍はな』
強くなったな。と、僕の頭を撫でる。暖かい…
『これから、もっとずっと大変なことにはなるだろう。でも、お前と仲間たちと…あと、フランがいれば、大体のことはなんとかなるさ』
にっと、見えないはずの笑顔を感じる。僕はたぶん、この笑顔を知っている。
『お前の中のデモンのことは心配するな。まぁ、ソルゲイズを受けたら少々ヤバイが…』
ふと、ただでさえハッキリしない視界が急速にぼやけてきた。ま、待って──!
『お前のことは、わたしがいつだって守ってるからな!』
あなた、は…ッ!
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「…大丈夫ですか?」
気がつくと、僕は自室のベッドの中にいた。傍には、ビアンカが心配そうな面持ちで僕を覗き込んでいる。
「す、すみません勝手に入っちゃって。でも、うなされてるようだったので…」
額の汗を拭ってくれて、自分が汗だくだったことに気づく。悪い夢でも?との問いかけに曖昧にうなづいて、シャワーを浴びてくるよと部屋を出た。
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「…はぁ、そのような夢を」
汗を流したあと、ふと思い立って地下室のプロメスに相談してみた。
「確かに、あの時と同じように立て続けにデモンの魂を掌握していますから、あなたのなかのデモンが活性化してもおかしくない状態ではありますね。ですがそれを…何かが抑え込んでいると」
ねえプロメス、あれってもしかしてロー…
「…いえ、断言はできません」
言いかけた僕の口を、彼女の小さな手が制した。
「あの方の魂は、すでにこの世にはありませんから」
葬儀屋が言うなら、やはりそれは間違いないのだろう。
「…自己暗示のようなものかもしれませんね」
自己暗示?
「ええ。あの方が命を賭して守った、貴方という人間の魂。その事実が、だからこそ自分はそう易々乗っ取られはしないと、他ならぬ貴方自身がそう思っているのです」
その無意識が、あのようなヴィジョンとして一種の防衛機構をなしているのではないか。プロメスはそう推測した。
「以前、いつまでも過去にとらわれないでくださいと言いましたが…貴方のローナさんへの思いが貴方の身を守っているのなら、きっとそれは悪くないことなのかもしれないです」
…そう、かもね。
くしゃりと、あの手が撫でてくれた髪に触れる。
まだ、温もりが残っているような気がした。
−つづく−
今回はリプレイではなく、ガチの二次創作の類。
あの時ローナが命がけで邪眼を使った以降、(ソルゲイズを除いて)彼がデモン化する予兆がない理由をふわっと考えてみたり。
実のところ、デモンゲイズ2の「柳生斬魔録」にて、彼女の魂が完全には消滅してなかったことが明らかになってるので、ひょっとしたら…程度の話ですけども。