──むかしむかし…ここではないあるところに、“妖精の国”がありました。
子供の時分、幾度となく親にせがんで話してもらった御伽噺。
いつか行ってみたい、そう空想を巡らせていたのも今は昔。大人になるにつれ人の後ろ暗いモノを知り、裏切られ、世界に揉まれ擦られていくうちに、それは子供騙しの虚構だと知る。
「…起きて」
あるのはシビアで冷たい“現実”だけなのだと、思い知らされる。
「起きてヨー」
何もかもを失って、御伽噺にすがるには…
「さっさと起きてヨ!! “勇者”様!!」
──ゲシッ!
「いってええええええ!!?」
いきなり頭に強烈な一撃を浴びせられて、オレは文字通り跳ね起きる。
「ブヒブヒブー。おはよーさん、勇者様」
ぼんやりとした寝起きの視界で、水パイプを燻らせるブタが立っていた。
「ブタじゃないヨ!僕はチュッケ。この勇者ギルドの主人だヨ…って、ここにきたとき自己紹介したはずなんだけどネ?」
大袈裟にため息をついて見せるブタ…もといチュッケは、やれこんなところで居眠りするなだの、風邪でも引いたらボクが丸焼けにされるだのグチグチと説教を垂れ流す。
「っと、こんな話をしにきたんじゃないんヨ。今日はとーっても大事な日。勇者様がこの妖精の街をおさめる女王様とお会いになる日だヨ」
ブタが流暢な人語を喋り、勇者だの妖精の街だの女王様だのおおよそ現実離れした単語が飛び交う。
どうやらオレは、自分がいた世界とは異なる場所に来ているらしかった。
かつて夢に描いた世界に、夢なんかクソ喰らえと思ってすらいる現在のオレがやってくるなんざ、ブラックユーモアにもなりはしないが。
「聞いてるかい、勇者様?」
「聞いてるよ…聞いてるけどその勇者様ってのはやめてくれ。ガラでもねぇ」
「そうはいかない。女王様に招かれた者たちは皆等しく勇者様だからネ。さて、こんなところで押し問答してるヒマはないヨ。さっさと他の勇者様たちとパーティ…勇者隊を組んで女王様に謁見するンダ」
そう言われてぐるりと周りを見渡すが、勇者ギルドの中には現状オレとチュッケしか見当たらない。
「キミが居眠りブーこいてる間に、殆どの勇者様たちは隊を組んで出発しちゃったからネ」
なんだ、オレあぶれてんじゃあねーか。じゃあ出なくていいな?おやすみ…
「ダメだヨ!女王様には絶対御目通りさせるんだからネ。それに、キミと同じようにあぶれちゃってる勇者様たちがいる。その子たちと隊を組んでもらうヨ」
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果たしてチュッケに引き摺られながら、ギルドの片隅の卓で辛気くさそうに顔を突き合わせている連中のところへ連れて来られる。
「みんな、お待たせしたネ。6人目を連れてきたヨ」
チュッケの声に、その5人がめいめいに顔を上げる。見るからに只人ならざる風貌に一瞬ギョッとしたが、こーいう世界ならそーいうのもいるんだろうと、妙に納得した。
「…あんだよ、チュッケのおっちゃん。もうヒューマンはいいっつったろ?どいつもこいつもアタシら見るなり尻込みしちまうんだからさァ」
大袈裟にため息をついて見せるのは、赤い肌に、頭から生えた2本のツノが印象的な少女だった。鬼というやつだろうか?
「そう言わないでヨ、キリク。もう残ってるの、この子しかいなかったんだって」
大の大人捕まえて“この子”はねえだろ…
「まぁともかく、組むだけ組んでチョーだい。なんなら女王様に御目通りする間だけでもいいからサ」
「…しょーがねえな。おい、オッサン」
若くねえのは自覚してるがオッサンはねえだろ…
「不満そうな目ェしてんじゃねえよ。そーいうのはお互いサマだろ?とりあえず女王様んとこいかねーとなんだから、とりあえずツラだけ貸しな」
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謁見の間の前で、番兵に「あなたたちが最後になります」と告げられた。
一体何人の勇者とやらがここに集められたかは知らんが、その全てに顔を合わせてるんだから女王様ってのも大変だ。
「ようこそ、勇者隊の皆さん。よくぞいらしてくれました。私の名は<エターニア>。この『妖精の国』を治める女王です」
荘厳ながらやはり妖精らしく小柄な女王は、オレたちをここに招いたのは自分だという。つまりこいつのせいってことだ。
そこから長々と…やれ秘宝が魔王に奪われただの、このままでは国が滅びるからその魔王を倒して秘宝を取り返してくれだのと言ってくる。
「勇者隊の皆さん…どうかか弱き妖精に代わり、竜王の塔へ挑んでください。そして、我らの秘宝を奪った“7つの魔王”を倒してもらえませんか?」
「いやだ」
オレが言い放った拒否の一言は、しんと静まり返った謁見の間に響き渡る。
「…聞き逃したようです。もう一度お尋ねしましょう」
「いやだっつったんだよ女王さんよ」
「…聞き逃しt」
「いやアンタの耳は節穴かなんかか!?いやだっつったらいやモガッ」
どうしてもイエスしか聞きたがらないらしい女王にキレかけたオレの口を赤い手が押さえ込んだ。
「も、もーしわけありません女王様!このキリク以下勇者隊、きっと女王様の期待にお応えしますので!で、では〜っ!!」
そのまま少女とは思えない膂力で引っ張られ、オレたちは謁見の間を後にした。
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「アホかオッサンっ!出会い頭でいきなり女王様の心証損ねてどーすんだ!イヤだイヤだってガキかよ、ったく!」
「あの〜、キリクちゃ〜ん?」
「あん?なんだよディーネ」
「そろそろ〜、はなしてあげないと〜…その人間さん、しんじゃいますよ〜?」
「…あ」
ディーネなる少女に言われて、ようやく鬼娘…キリクが塞いでいたオレの口を離した。新鮮な酸素が恋しい。
「っぜはー…こ、殺す気かコラ!」
「うっせー!アンタが謁見の間で変なこと抜かすからだろーが、このスットコドッコイ!」
「あのなぁ、オレは好き好んでこの国に来たわけじゃねえ。勇者だか何だか知らねーが、ようはこの国の問題じゃねえか。部外者に押し付ける気満々だぞ、あのクソ女王!」
「はぁ?てめー、それでも勇者かよ!?勇者ってのは見返りを求めねえ、高潔な魂をだな…!」
「だれが勇者だ!オレはただの…」
ヒートアップしかけたオレとキリクの言い合いは、不意に引っ張られた袖の感触で留められた。振り返ると、いやに顔色の悪い和装の少女がオレを見上げていた。
「っと、どしたのナナシ?」
「…魔物の、気配」
ナナシと呼ばれた少女の言葉に、ようやく自分達を取り巻くイヤな気配を察知する。っていうか…ここ、どこだ?
「竜王の塔の中でござる。キリクどのはそなたを引っ張ったままここまで勢いで来たようでござるな」
狐耳のサムライ娘が周囲に気を配りながら呟く。塔の中?ってそこは、女王が言ってた魔物の巣じゃねえか。
「おい鬼娘!おめー準備もせずにいきなり塔に突っ込んでんのかよ!?」
「しっ知らねえよ!?ってかイヅナ!気づいてたんなら止めなさいよ!」
「…い、いや…こ、声をかける機を逸してしまって…」
キリクのツッコミに、イヅナなるサムライ少女が申し訳なさそうに縮こまった。いや、魔物居んだから構えを解くな!
「あーもーっ、とりあえずどーにかするわよ!オッサン、アンタも手伝いな!」
不本意だが、訳もわからず殺されるわけにもいかんだろう。手に馴染んだ銃を抜き、気配の方へ向けた。
「ウール!…ウール?」
最後の一人らしい名前をキリクが呼ぶが…返事がない。やられたか?
「縁起でもねーこと言うな!ウール!どこだ!?」
「…すやぁ」
白くまん丸い毛の塊が、キリクの足元で寝息を立てていた。
「寝んなー!!!」
「うにゅ?」
キリクに蹴っ飛ばされた白い塊が転がった先でのそりと起き上がる。キリクより大きな角と、黒い素肌…羊?
「ちょっと荒っぽくいくぞ。回復頼む!」
「まーかーせーてー」
ウールと呼ばれた少女はあくびをしながら答えた。
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襲ってきたのはゴブリンが数体。荒っぽくいく、といったキリクの言葉通りの乱戦になったが、そこまで手もかからず全滅させることには成功した。
「なかなかやるじゃねえか」
「オッサンもな。悔しいけど後ろからの指示がなけりゃ危なかったもん」
銃撃がてら、思わず指示を飛ばしてしまったが、存外文句も言わず応えてくれたのは正直助かった。
「ま、オレだって訳もわからずくたばるわけにもいかねーからな。とりあえずとっととこんなところはおさらばしようぜ。何の準備もなしに入って無事に済む場所じゃね──」
肩をすくめたオレの背後から、新手の魔物が音もなく現れ…
目の前が、真っ暗になった。
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……ああ 死んでしまうとは なんてこと……
……再び勇者隊に、機会を与えましょう……
……さあ、死の世界からお戻りなさい……
……そして……
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安かったので買いました(挨拶
ファンシーな絵柄で騙されそうですが、存外骨太なD・RPGみたいで楽しみですねー。
今ちょうど繁忙期でなかなか進まないのと、ついついパーティーキャラの設定練り込みすぎて続き早速止まってますがw
そういえばこのゲーム、同メーカーD・RPGのお約束、初手でダンジョンに放り込まれて襲撃受けて…ってのがないんですよね。
というわけで今回、ちょっと変則的な形でそのお約束を取り込んでみました。
しっかり全滅させるのはこのゲームならではってことで、どうかひとつ(笑
前回書いた「デモンゲイズエクストラ」、同時進行中(?)の「デモンゲイズ2」と違って、今回はガチの初見プレイ。攻略情報もほぼノータッチで挑戦してみようかと。説明書は見るけどな!w
ともあれ、気長にお付き合いくださいませ。