──うおおぉぉぉっ!?死んだ!はいオレ死んだよ!!?
強烈な死のイメージに跳ね起きる。…起きる?
慌てて両手で自分の身体を確かめる。
首、ついてる。
胸、心臓動いてる。
腹、穴空いてない。
足、ちゃんとある…
「…あれ?」
「やれやれ、よーやっと起きやがったか」
気が付くとそこはついさっき出ていったハズの勇者ギルドで、ひっくり返ったオレを、鬼娘のキリクが養豚場の豚を見るような目つきで見下ろしていた。誰が肉だコラ。
「ったく、いくら死んだからっていつまで寝こけてやがんだよ。ウールよか寝汚いやつ初めて見たぜ…」
「しーんーがーいー。わたし、寝汚くなんてないよぅ…」
「…塔の中で魔物を前にして爆睡してたヤツが言うことかよ」
ぷぅ、とふくれっ面を浮かべるウールに、キリクが肩をすくめる。
「ま、聞いての通りだ。アタシらは確かにあの時死んでるぜ。あの後、女王様の力で生き返ったんだよ」
彼女によると、死んだオレたちの魂は女王に呼び戻され、気づいたときには謁見の間にいたという。
「復活の秘術っていうんだとさ。なんか、この秘術にはアタシらにさらなる恩恵があるらしい。よくわかんないけど」
死んだ勇者も生き返らせてコキ使うのか…女王っつかブラック企業の社長だなオイ。
「あんだよ、ブラック企業って?」
「さーな」
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「さて、オッサンも起きたことだし、次の探索の話すっぞー」
「は?いやまてまてまてまて。なんでオレが参加するのが前提みてーな話になってんだ?」
「そりゃ、アンタもアタシたちの仲間だからな」
「いやそれこそ待て!オレはお前らの仲間になんぞ加わった覚えはねえぞ!?」
そもそもオレは女王に謁見するための数合わせで加わっただけのはずだ。それはキリクだって承知の上だろう。
塔に入っちまったのは事故のようなもんだし、なんでそれでもう一度同じメンツで入ろうって話になるんだ?
「しょーがねえだろ。もうアンタしか残ってねーんだし」
「だからってなぁ…」
「…なに、アンタ怖いの?大の大人が?」
「…あん?」
キリクがうぷぷ…と口に手を当てて嗤って見せる。
「そーだよなー、こわいよなー。なにせいっぺん死んじゃってるしなー。いくら生き返るっつっても死ぬのって怖いもんな―?」
こいつ…煽ってるつもりか?
「悪いがそんなんでオレが奮起すると思ったら大間違いだ。死ぬ死なねー以前に、オレは女王のいいなりで塔に潜るのがイヤなんだっつの」
「…ちっ」
…今舌打ちしたなこの鬼。
「だめよ~、キリクちゃあん。お願いしたいときは~、もっと真摯にならなきゃ~」
ぬるりとディーネがキリクの頭をなでる。と、袖を引っ張られる感触に振り返ると、塔の時のようにナナシがちょこんと傍らに立っていた。
「…お願い。私たちには、それぞれここで果たしたい目的がある」
それは女王から課せられた使命以上に、自分たちには大切なことなのだ…と、びっくりするほど冷たい手の持ち主が小さな声で熱っぽく語る。
ナナシの言葉に顔を上げると、ほかの少女たちもめいめいに頷いた。
「…初めて塔に入ったとき、結局は全滅しちまったけどさ。アンタの指示は悔しいくらい的確だった。多分、アタシらだけで塔に潜っても、何度全滅したって目的を果たすことはできないって思うんだ」
キリクがそらしていた視線をこっちに向ける。
「…頼む。女王のためとかじゃなくていい。アタシたちのために…力を貸してくれないか?」
…そんな目でオレを見るんじゃねえ。オレは…誰かに信頼されるような…そんな人のいいタマじゃあねえんだ…
「…仲間にはならねえ」
「アンタ、まだそんなこと…!」
「ならねえ。だが…“協力”ならしてやってもいい」
キリクたちにどうしても果たしたい目的があるというなら、オレにだって目的はある。っていうか、今できた。
「オレの目的は…一刻も早くこんなしみったれた国から出ていくことだ。女王は何も言わねえが、あの塔の中になら、その方法にたどり着くことができるかもしれねえ」
結局、女王の意に沿っちまうカタチになるのは気に食わねえが、な。
「これは取引だ。オレは自分の目的のためにおまえらを利用する。だから、おまえらはせいぜいオレを利用してみろ。てめーの目的とやらのためにな」
「オッサン…!」
「…あともう一つ、オッサン呼ばわりはやめろ。そいつが条件だ」
「…おう!」
感極まりかけたのか、キリクが目じりを力いっぱいぬぐっていた。
──まあ、帰る前に返しときたい借りもあるからな。
「なんか言った?」
「…いや、なんも。」
「ふーん…ま、いいや。んじゃさっそく出発しようぜ!」
「待て…!」
「あんだよ、まだなんかあんのか?」
ああ、あるとも。
「…飯食わしてくれ」
──ぐぎゅるるるるる…
盛大に鳴ったオレの腹の虫に、その場にいた全員が破顔した。
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食事と簡単な自己紹介を経て、再び塔へと潜る。
最初に入るのは、竜王の塔の最下層たる<デミヘイム>というセクター…らしい。
「で、まずどうすんだ?」
「そうだな…とりあえず自分たちの現在位置の把握だ。いざって時に脱出できねえのはまずいからな」
ギルドでチュッケから譲ってもらった羊皮紙を開く。
「こうやって…左回りに壁に沿って進む。で、その壁の流れを地図に書き込んでいくって寸法だな」
いわゆる“左手の法則”というやつだ。
「マッピングは俺がやっとく。お前らは周りを警戒しつつ進んでくれ」
「あいわかったでござる」
ギルドではほとんど無口だったイヅナが率先して前に立つ。戦場では人が変わるタイプなんだろうか。
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魔物を倒しつつ、地図を粗方埋めていく。
「あらあら~、お上手ですねぇ~」
後ろからのぞき込んだディーネが手をたたく。
「どれどれ…って、まだ空いてるとこあるぞ、ほら」
そう言ってキリクが羊皮紙の真ん中あたりを指し示す。
「ああ…それはほれ、この先だ」
目の前の扉を顎でしゃくる。それまでの扉とは見た目こそ同じだが、妙な圧迫感を感じていたのだ。
「あんだよ、入ればすぐじゃねえか。行こうぜ」
「あ、コラまて──」
キリクが力任せに扉を蹴飛ばし開ける。果たしてそこには、圧迫感の主がいた。
「…うっ」
さすがに気づいたのか、キリクも思わず踏みとどまっている。
「な、なんだよあいつ…さっきまで戦ってた魔物とはふいんき違うぞ…」
「ふんいき、な。まぁ、並の魔物じゃねえのは間違いねえだろ。ここは一旦退いて…」
「いーや、ここは攻め時だッ!」
ふるえる足を踏ん張って止め、剣を握りなおしたキリクがとびかかる。
「アホかっ!? 戦力差見てから戦い挑みやがれッ!」
慌てて引き留めようとするが時すでに遅し、敵はすでに俺たちを認識して臨戦態勢だ。
「ああっ、クソ!しゃあねえ、とりあえずこのまま押し通す!」
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改めて対峙するに、相手の強大さを感じる。見た目はただのゴブリンのくせして、圧力が半端ない。
「たぶんだけどー、まおうのー、えいきょうー」
ウールの推測に、なるほどとうなづく。確証があるわけではないが、魔王によって支配されたのがこの竜王の塔なのであれば、その影響下にある魔物がいたって不思議じゃあない。
「どうすりゃいい?」
「いやてめーで突っ込んどいて今更指示仰ぐなよ!?とにかく全力でゴリ押せ!」
「あいよ、そーいうのは大得意だ!」
この脳筋が…と内心毒づきながら、他のメンバーにも指示を飛ばす。
「ウールとディーネはいつでも魔法を打てる準備だ、ナナシは陰からシュリケンなげまくっとけ!」
「…うん」
言うが早いか、ナナシの姿が掻き消える。すばやいさすがにんじゃすばやい。
「イヅナは…」
声をかける間もなく、普段以上に目つきの鋭くなったイヅナが、不可視の斬撃を魔物に浴びせる。…こいつは自主性に任せた方がいいかもしれん。
「正直、勝てるかどうかは怪しい!死んでもいいからとりあえず全力で行け!!!」
我ながらなんてオーダーだ、とは思う。
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「こいつで…とどめだぁぁぁっ!!!」
キリクの渾身の振り下ろしがゴブリンの脳天に叩き込まれ、断末魔とともに倒れ伏す。
「アカブ!オカブ!アト、タノム…!」
同族の名前らしきものをつぶやきながら、ゴブリンは消滅した。
「へっへへ…どーよ!」
「…大したもんだ」
傷だらけになりながら笑い飛ばすキリクに、オレは肩をすくめるしかないのだった。
-つづく-
初回のボス戦。
このゲーム、各階層でレベル制限があるみたいで、このデミヘイムでは3が上限(難易度による)。
この時点で全員2どまりだったのでちょっと不安だったんですが、どーにかあぶなげなくクリア。
で、このタイミングでレベルアップしましたとさ。
さて、序盤でマッピングの話をしてますが、このゲーム、同メーカーの他作品と異なり最初の段階ではオートマッピングが利かないという(これも難易度による)。
説明書によるとなんか虫を捕まえるとかなんとか…?
なので地図の虫を捕まえるまでは自力でマッピングしないと現在地がつかめないという状況下なので、今回初めて自力マッピングに挑戦してみましたw
タイミング的にはボス部屋入る直前くらいのとこですねー。
Excel使ったんですがちょっと罫線引くのがめんどくさいなぁ…💧
一応、マップ画面に切り替えたら現在地の座標はわかるのは助かりました。
まぁ、古き良き時代ではこれがデフォだったと聞くので、これを極めたとき、わたしもいっぱしのゲーマーになるのやもしれませんねw