「…起きてる?」
2日目の塔攻略を切り上げたその夜。武器のメンテナンスをしているオレに声をかけてきたのはナナシだった。
「まだ起きてたのか。早く寝ないと明日に響くぞ」
「…わたし、眠れないの。アンデッドだからだと思う」
他の不死族に知り合いがいないからわからんが、まあ本人がそう言うならそうなんだろう。
「…キリクのこと、悪く思わないであげて」
「うん?」
唐突に出てきた名前に思わず銃のパーツを取り落としそうになった。
「あの子は、優しい子。名前もわからないわたしにナナシって付けてくれたし、人間の勇者に相手にされなかったわたしや他の子たちに声かけてくれて…」
「そう、だな」
こいつらがあぶれていた主な原因は、(イヅナはともかく)その容姿の異質さだ。こうやって話せば、普通の人間とさして変わらないというのに。
「…あなたもそう思ってくれるから、助かっている」
まぁオレの場合は…いや、なんでもない。
「多分、勇者になりたいって思いが強すぎて、ちょっと行きすぎちゃったんじゃないかなって。わたしだって…自分の記憶を取り戻せるかもしれないってなったら、きっと同じようにするかもしれない」
「かもな。でも、あいつはとどまってくれた。オレなんぞの言葉でもな。謝ってくれた。それができる強さを持ってる」
人間だって、己が非を認めて謝れる奴はそう多くないしな。
「それは、ナナシだって同じだろ?」
「…多分」
「多分て」
オレのボヤきに、ナナシがくすっと笑って見せる。それは一度死んだ身体だとは思えないほどに血の通ったそれで…
「どうしたの?」
「な、なんでもねえ」
思わず見とれてしまうなどした。
・
・
・
一夜明け、今日も塔へと向かう。
妖精の国の中央に鎮座するその塔は…文字通りドラゴンの姿をかたどっている。
…否、ドラゴンであったものなのだ。
女王曰く、竜王と呼ばれるドラゴンの神が、この地で脱皮をしたその抜け殻こそが竜王の塔なのだという。
ドラゴンの抜け殻ってだけでもとんでもねえってのに、その中に迷宮が存在するとまでなるとどんなファンタジーだ。
…いやファンタジーだったわ。
「みんな、昨日はごめんな」
入り口前で、キリクが俺たちに頭を下げる。
「ちょっと頭に血ぃのぼってた。その結果、みんなを危険にさらしてしまうことにも気づかずに…ほんとにごめん」
「もう頭をあげてキリクちゃん~。ここにいるみんなは~、もう気にしてないから~」
「でも…」
ディーネがなだめるも、キリクは頭を下げたままだ。まったく両極端な…
「…キリク」
「…っ」
オレが近づくと、キリクがびくっと肩を震わせた。そんな怖がられてる、オレ…?
「悪いと思ってるなら、こっから先は行動で示してくれ。オレらのリーダー、なんだろ?」
「…あ、ああ…そうだな。おう、アタシに任せてくれ!ぜってーにアタシが、魔王にも、みんなの夢にも導いてやる!」
…ま、こんなもんかな。
ふとナナシを見ると、小さくサムズアップをしてきたので、オレもそれに応えるのだった。
・
・
・
デミヘイムの中は相変わらず魔物の巣だ。
やることは変わらず、自分たちの強化を優先。ボスゴブリンの相手は、もう少し後にする。
これはオレの提案ではなく、キリクのそれだ。
「ヤツらの前に立つまでに、どうしたって魔物を相手にすることになる。だったら逆に魔物を蹴散らしまくって少しでもアタシたちが強くなればいい。多少魔物を相手にしても消耗しなくなったら、ボスでも魔王でも怖くねー!」
まぁそれについては同感だ。まずは地図を頼りに魔物を追っていこうか。
・
・
・
「…奇妙でござるな」
それに最初に気が付いたのはイヅナだった。
「どうした?」
「いや…あれから幾度となく魔物を斬り伏せているはずなのに、それが糧として力になっている気がしないのでござるよ」
言われて見れば…戦いの密度は先日のボスゴブリンほどではないにせよ、もう1レベルくらい上がっててもおかしくないはずだ。
「魔王の呪い…みたいなのとか~?」
「呪いって?」
「魔王さんだって~、やられたくはないでしょうから~。自分を狙うものに~、成長を阻む呪いのようなものをかけているの~…かも~?」
かもかよ。
「あーるーいーはー…地図とーいっしょでー、塔がーみとめーないとー、せいちょうーさせてーくれないとかー…かもー?」
こっちもかもかよ。
まぁ、ディーネやウールの推測にも一理あるか。とすれば、俺たちは今のレベルのままで魔王はもとより、ボスに挑まなければならないわけだ。
「どうする、キリク?」
「どうするって…」
「お前がリーダーだろ?どっちにしろこれ以上の成長は望めねえ可能性が高い。あとはどのタイミングで挑みに行くか、だ」
キリクが少し考え込む。
「…うん、このまま、もう少し鍛錬を続けよう」
「いいのか?」
「ああ。急がば回れってやつさ。それに、成長はできなくても熟すことはできると思うぜ。例えば…武器の扱いとかな」
確かに、支給されただけの簡単な武器でも、ずっと使い続けてきたことで効率のいいダメージの与え方ができるようになっている。もちろん、強い武器を持てるに越したことはないが…その強い武器を早めに見つけて使いこなすせるようにするには、やはり魔物との戦いは必須だろう。
「…よし、じゃあその方向でもうちょい粘るとするか」
「おう!みんな、力を貸してくれな!」
キリクが大きく腕を振り上げた。
-つづく-
今回、難易度は「タイプC」を採用しています。
これは地図の虫入手まで地図が記録されない他、各セクターごとの成長限界がかなり低めに設定されてします。
つまり僕のRPG基本攻略スタイルたる、”レベルを上げて物理で殴る”が使えない!(汗
システム上は貴重アイテムの「勇者の証」にレベル制限についての記載がありますが、さすがに作中で説明がないんでディーネとウールの推測という形で仮説を語らせてもらっています。
一方、レベル制限はありますが、スキルポイントは定期的にもらえたり、武器そのものに熟練度があるんで、スキルビルドや戦力強化が不可能ではないのがありがたいですね。
現状、スキルはともかく武器があんまり手に入らないのでその辺がちょっとネックですね…この3回のアタックでメインで手に入るのがシュリケン系ばっかり…銃は!?w