今朝のミーティングにもしっかり寝坊して遅刻するキリクであった。
「いや、オメーのせいだろーが!ガチのマジで寝かせなかったくせによーっ!」
「…えっ、キリクちゃんとアノンちゃんが一晩中~? あらあらまぁまぁ~♪」
とりあえずディーネが想像しているようなことは一切ないから安心しやがれください。
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デミヘイムへと向かい、最後の調整として周りの魔物を倒していく。
武器の取り回し方も、スキルについてもだいぶん熟せてきたはずだ。
「…そろそろ行くぜ。準備はいいかお前ら?」
オレがそう言うと、キリクたちは表情を引き締めて小さく頷いた。
ボスフロアの扉を蹴破り飛び込む。即座に先日も感じた強烈なプレッシャーを感じた。
「確実に葬り去ったと思ったが…なるほど、女王の加護を持つ者どもか。厄介な…」
大きな羽音とともに、獣人の王たる魔王・フレイが降り立つ。
「よう、手羽先野郎。二日ぶりだな?今度こそ…借りを返しに来たぜ」
「借り…だと?」
「とぼけんなよ。あの日…オレたちが初めてデミヘイムに入った日、オレたちを一瞬で全滅させていったのは…お前だろ?」
オレの言葉に、キリクたちが驚いた顔でこちらを見る。一方のフレイは、にやけた顔をさらに享楽にゆがめて見せた。
「ほう…気づいていたのか」
「確信が持てたのはこの間殺された時だがな。勝手に殺してくれた責任は、きっちり取ってもらうぜ…フレイ!」
「フフフ…みたび殺されることになるだけだがね。それでも挑むというのなら、このフレイ、お相手しようではないか!」
ひときわ強い羽ばたきとともに、圧力がさらに増す。
「性懲りもなく、我が庭を何度も土足で踏み荒らす痴れ者どもめ…今一度、大地の肥やしと!なるがいい!!」
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「くるぜ…とりあえずみんな、手筈通りに!」
「楽しい石投げのはじまりだぜ!」
まずはフレイの機動力を削ぎつつ、取り巻きのハーピーを落としていく。
イヅナとナナシをメインアタッカーにしてハーピーを狙わせ、オレを含む残りのメンツは状況をみつつ主に“のろのろ石”を投げるのと鈍足の呪文をフレイに叩き込む。
「ふん…何をするかと思えば…その程度の呪文やマジックアイテムで我が双翼を止められると思うな!」
フレイの強烈な足技がイヅナを狙う。ギリギリでかわし切れず、右腕に大きな裂傷を負った。
「ウール!」
「まーかーせーてー!」
特に序盤の、鈍足化の効果が見込めないうちはこうなることは予測済みだ。あらかじめ回復呪文の詠唱を行っていたウールが即座にイヅナを回復させた。
「かたじけのうござる、ウールどの…はあっ!」
全快したイズナが刀を振り下ろす。刹那、陰に隠れていたナナシも同じく小刀を振るって同時にハーピーを斬った。
これまで手裏剣による攻撃を主な手段にしていたナナシだが、今回はアタッカーを増やす目的で刀を持たせている。さすが忍者だけあって、刀の扱いもサムライに引けを取らない。
「良き太刀筋でござる、ナナシどの!」
「…ん」
ひらりと着地したナナシは再び身を隠す。はっきりとした返事をもらえず、イヅナがちょっと寂しそうにしたのは気にしないでおこう。
「今日は魔力不足じゃないからね~、ばんばん撃っちゃうわよ~!」
イキイキとした表情でフレイに鈍足呪文をバラまいていくディーネ。やがて、魔王のスピードが目に見えて落ち込んできた。
「ぐっ…地虫風情が!」
「その地虫とやらに縫い付けられてる気分はどうよ、手羽先野郎!」
「おのれぇぃ!」
フレイが高速化の魔法を唱え、自らにかけられた鈍足効果を打ち消していく。
「アノン!これって昨夜言ってた?」
「ああ、ここまでは予測通りだ。奴の攻撃が減るぞ、今のうちに残りのハーピーを!」
フレイはその機動力に絶対の自信を持っている。ゆえにその機動力を殺される手段は、ヤツにとってはプライドを傷つけられることなのだ。そのために自らに魔法をかけることを優先してしまい、オレたちへの攻撃を後回しにしてしまう。
「おらあっ!」
石投げ係からアタッカーにジョブチェンジしたキリクが、金棒を大きく振り下ろしてハーピーの頭を叩き割る。これで…残るはフレイだけ!
「なめるな…地虫どもがぁっ!!!」
怒り狂うフレイが闇の魔法を繰り出す。だが、魔法は不得手なのか爪による攻撃よりは痛くない。
「ここからは俺も攻撃に参加する!全員、出し惜しみ抜きで行け!」
「承知!」
先の戦いではろくすっぽ当たらなかったキリクの攻撃も当たり始めてきた。ダメージの蓄積もあるだろうが、序盤の作戦はかなりうまいことハマっていたようだ。
「ディーネ!岩の呪文だ!」
「落ちなさぁ~い!」
「ごはあっ!?」
砕けた岩がフレイを苦悶させる。フレイの眷属であるボスゴブリンたちが雷の魔力を帯びていたから、よもやと思ったが、やはりこいつも土属性の魔法に弱い!
「ば、ばかな…このフレイが…獣人の…王…が…」
「トドメだ、キリク!」
「おうよぉっ!」
オレの肩を踏み台に、キリクが大きく跳ぶ。
「こいつで終わりだ…フレイ!」
渾身の一撃が、フレイの額を打ち抜き…
「しんじ…られ…ぬ…」
デミヘイムで猛威を振るった双翼は、遂にかの地に墜ちた。
-つづく-
後ほど評価は貼り出しますが、わちゃわちゃしつつ気が付いたら5ターンで終わってました。
S評価を得るには14ターン以内ということだったので、半分以下でのクリアになったのはまぁよかったよかった。
ほぼフルメンバーで石投げた甲斐があったな!
あと、ウールの先読みヒールが割かし効いてくれたのは助かった。後衛にはほぼ直接攻撃してこなかったってのもあるかな。
なお、序盤のメインアタッカーがナナシになったのは、キリクの攻撃が当たらないのと、アイテムを使うと「隠れる」状態が切れちゃうから。
ここで手に入るシュリケン系はどうしても火力不足なので、せっかく前衛にいるから二刀で無双してもらいました。何度か落ちかけましたが(汗
さて、次回リザルトを経て、モン勇リプレイSSはいったんの区切り。
もう少しお付き合いください。