「納得いきません!」
今日の予定を詰めようと相部屋でミーティングをしていると、ライブラが急に声を荒らげた。
「いったいどうしたんだよライブラ?」
「それです!」
「は?」
席を立ち、ふくれっ面のままのライブラはペガサスとカプリコーンを順に指差す。
「ペガッソちゃんに…リコ」
「うん?」
「どうして…私には何もないんですかっ!?」
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「はー、つまりライブラも、ペガサスたちみたいにアダ名で呼ばれたいと」
通りがかったミュゼは半ベソ状態のライブラから話を聞くと、ラッキーに向き直って「あんたが悪い」と言い放った。
「俺!?」
「3人中2人はアダ名で呼んでおいてライブラだけ呼んでないんじゃあ、そりゃヘソも曲げるってもんよ」
「ええ…つってもリコの場合は禁域っつー戦場で、素早く意思伝達してーから長い名前を短縮してるっつーのがいちばんの理由だからな…」
ライブラは4文字だから不要じゃね?というのがラッキーの言い分ではあるのだが。
「だったらペガサスだって4文字ですけど!?」
「あーいや…ペガッソの場合は自己申請というか…」
「はいはい、言い訳はいいから。さっさとつけてあげたほうが早いわよ?あんたそーいうの得意でしょ?」
ミュゼ曰く、昔は彼女ら姉妹にもアダ名をつけていたという。
「確かアタシがミューで、プリムがリムだっけ?」
「記憶にねえよ…」
「早く思い出しなさいよ使えないわねえ…」
わりかしひどい言い分だが、確かにアダ名をつけないままではライブラもヘソを曲げたままだろう。これでは禁域探索にも支障が出かねない。
「んじゃあ…ええと」
改めてライブラに向き直る。彼女につけるべきアダ名とは…
「…いいんちょ、とか?」
「…なんですそれ?」
「いやなんとなく…“いいんちょ”っぽいっていうか?」
上から下までライブラを見倒した上での命名である。
「却下です。“ぽい”ってなんですか“ぽい”って…っていうか、元の名前より文字数増えてるじゃないですか!」
「音的には4文字だけどな」
「そーいう問題じゃありませんっ!」
ふくれっ面のライブラに「しょーがねぇなあ…」とボヤきつつ、名前を何度かつぶやいてから、ややあってひとつ思いついたアダ名を彼女に言ってみた。
「…イブ、ですか?」
「おぅ、ラ“イブ”ラでイブな。真ん中抜いただけだけど」
「イブ…イブ…」
渡された名前を、ライブラ…あらためイブが繰り返し口にして胸の中へおさめていく。
「ふうん、悪くないんじゃない?ねえ?」
ミュゼが満足げにうなづくと、ライブラも少し照れくさそうに微笑んだ。
「はい…ありがとうございます、ラッキーさん!」
「…ま、気に入ってくれたってんなら考えた甲斐があったかねぇ」
釣られて気恥ずかしくなるラッキーが頭をかく。
「わーい!あらためてよろしくね、イブちゃん!」
「ふふっ…よかったですわね、イブ?」
早速アダ名でよびかけるペガサスとカプリコーンに、ライブラが嬉しそうに応える。
「ほら、ラッキーもしっかり呼んであげなさいよ」
「お、俺もかよ!?」
「名付けた本人が呼ばないで誰が呼ぶっていうのよ?」
「い…いや禁域入ったら嫌でも呼ぶんだし、別に今無理して呼ばんでも…」
躊躇うラッキーを、ライブラがついっと上目遣いに見やって。
「…呼んでくれないんです?」
「〜〜〜っ!」
視線から逃れるように、ラッキーが目深に被ったフードをさらに下げて顔をそらす。
「も、もう決まったんだからいーだろーが!ああもう!とりあえず出発するぞ。今日は神器のジェム使うんだろ?いくぞリコ、ペガッソ!それから…」
フードの隙間から、少しだけ視線を向けて。
「行くぞ…イブ」
「はいっ!」
かわいらしく返事するライブラ…もといイブに、ラッキーはいよいよ背を向けてしまう。
「もう一度呼んでほしいですねえ…?」
「も、もう勘弁してくれーっ!」
その珍妙なやり取りに、肩をすくめるミュゼであった。
−つづく−
ラッキーはアダ名つけ魔という、裏設定。いやもう劇中に出しちゃったし表設定ですが。
もともとライブラはアダ名つけない方針だったんですよ。四文字だしそこまで気にしなくていいかなって思ってたんですが、ボクの中のライブラが「納得いきません!」ってブーたれてきたので急遽。
結果すっごい乙女なライブラが爆誕してしまったような…なんだこのヒロインムーヴわ。
流石に全員分アダ名をつけるつもりはないんですが(レオとかパポは要らんやろ、ですし)、4文字以内ならデモンによっては付けろとか言ってきそう…差し当たりの難所はキグナスあたりか。
一応、5文字以上なら原則付ける方向で。
さて、次回も番外編という名の二次創作枠。リプレイをお楽しみにしているかもしれない読者さんには申し訳ですが、もうすこし当方の自己満足にお付き合いくださいませ。