「おんやぁ?何やら見た顔がおると思うたら…ザジじゃあないかね」
「んげっ!?…その声は」
人探しの依頼を請け負い、準備の為にと商会に立ち寄ったストークス。
「んげ、とは何ぞ…かような美女を捕まえて出す声ではないぞよ?」
「…えっ、何知り合い?」
いやに馴れ馴れしい商会の女主人とザジに、リコリスが怪訝な視線を向ける。
「昔、海都…アーモロードで世話になった道具屋の店主だよ」
『まぁ色々…殊にカネ絡みで少々面倒な人物でな…よく無茶を聞かされたものだ』
「なんじゃ、ベテ公もおったのか。相変わらずけったいな筆談やっておるのかえ?変わらんのう」
ケラケラと少女のように笑う一方で、妙に古臭い口調で話す彼女の年齢はなんとも窺い知れない。
「いや、つかなんでマギニアにいんの?」
「そりゃあ、おヌシを追っかけてのう…は、まあ冗談じゃが」
「だいたい見当はつくけどな…アンタのことだ。マギニアに、“ゼニの香りを嗅ぎつけた”ってトコだろ?」
「はっは!さすがは我のザジよ。我のことをよーく解っておるのぅ」
誰がアンタのだ…とボヤきつつ、ザジが頭を掻いた。
「まぁこんな感じだが、商売人としての腕は確かだ。売り買いはここ…“ネイピア商会”でしといて間違いはないだろーぜ」
「ほほぅ…存外評価はしてくれとるんじゃのう?アーモロードにおった頃から我には塩対応じゃったのに」
さて、それじゃあ商売の話をしようかの?と女主人ことネイピアがソロバンを手にした。
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件の薬師少女…ビルギッタが姿を消したと言う北の森に入る。
木漏れ日すら通さない鬱蒼と生い茂る緑は、永らく人の手が入らなかったのだろうと伺えよう。
「こんなとこ入り込んだら一瞬で迷子だぜ…ちょっとした迷宮じゃあねーか」
「レアちゃん、はぐれないように私と手を繋ぎましょうね!」
ふんす!と鼻息荒く、ノノが小さな手を握って。
「お前ね物見遊山で来てんじゃ…」
──きゃあああっ!!
少女と思しき悲鳴と、おおよそ人間のそれとは思えない咆哮が、はるか前方で轟いた。
「…!」
それを聞きつけるや否や、レアが繋いでいたノノの手を振り解いて駆け出す!
小柄な身体ゆえの身軽さですいすいと樹海を駆け抜けるレアにようやく追いついた先では、先の悲鳴の主らしき少女が杖を構えて魔物と対峙しているさなかだった。
「ザジ!たすける!」
「おう!おめーら、配置につけ!」
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やたら筋骨隆々な羽虫の魔物を片付けたザジたちは、改めて少女に向き直った。
「み、皆さん、ありがとうございました。私はメディックのビルギッタといいます」
「あらら、いきなり本命にあたっちゃったわね」
首を傾げる少女に、「あなた、捜索依頼が出てたのよ?」と手傷を負った彼女に回復術式をかけながらリコリスが教える。
「そ、そうでしたか…すみません、お手を煩わせてしまったみたいで」
薬草採取の依頼を請けたはいいものの、駆け出しも駆け出しの彼女には荷が重かったのかもしれない。
「まぁ、前人未踏の場所にメディック一人でってのも無茶な話だわな。せめて護衛に剣士とか居りゃ違ったかも知れねーが…」
「ああ、いえ一緒に来ている子が…ああああっ!!?」
突然の大きな声がザジの鼓膜をつんざく…
「うおっ!?な、なんじゃい急にっ!」
ビルギッタが慌てて当たりを見回すと、みるみるうちにその顔が青ざめていく。
「あ、あの…一緒にいたはずのライカがいなくなっているんです!!」
同行者がいたらしい。しかし酒場ではそんな話は聞いた覚えがないが…
「あの子は私の妹のような存在なんです。この辺りなら危険は少ないと思って連れてきたんですが…」
「…随分と危機意識の薄い子ですねぇ」
ため息混じりにつぶやくのはノノだ。
「とりあえず近くにはいねーみたいだが…うん?」
ザジが自分の袖を引っ張るベテルギウスが顎でしゃくる先を見ると、茂みが明らかに乱れた形跡があった。
『獣道にしては真新しい。おそらく件の妹分はあの先だろう』
「なるほどな…しゃあねえ、乗り掛かった船だ。おい嬢ちゃん」
「は、はひっ!」
「そのライカって子も捜してやるよ」
そう言った途端、ビルギッタの表情が見る間に明るくなる。
「あ、ありがとうございます!」
「つーわけで、悪いがついて来てもらうぜ。あんたの妹分がどんなツラしてるか俺らは知らんからな」
「も、もちろんです!」
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茂みをかき分けた先で、果たしてザジ達ストークスの面々は奇妙な場所に出た。
「ここは…遺跡か?」
「みたい、ね…?」
警戒を怠るなよ、と告げて、ゆっくりと遺跡の中に足を踏み入れる。少し小道を歩くと、開けた場所に出た。
近くに件の妹分が隠れているかも知れないと周囲を見渡すが、とりあえず人の気配はない。
「必死で逃げ回って奥に行っちゃった、ってところでしょうかね…」
「なら、奥に進んでみるしかねえか」
心配そうな面持ちのビルギッタをレアが背伸びをしながら頭を撫でて慰める。
「ふふっ、ありがとうね?」
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「ふーむ、闇雲に歩き回るのもちょいとキツいな。地図でも持ってくりゃ良かったぜ」
「あれ?みなさん地図をお持ちでないんですか?」
ビルギッタの言葉に、「こんなとこ入るなんて想定してなかったからねえ」とリコリスがぼやく。
「す、すみません…あ、じゃあこれを使ってください」
そう言ってビルギッタが地図をザジに手渡す。
「ありがてえが…いいのか?」
迷宮探索の必需品とも言うべき地図は、冒険特需の今、非常に品薄だ。ネイピアの商会でもそうそう出回らないと主人がぼやいていたのを思い出す。
「わ、私は予備がありますので…」
「まぁ、なら借りとくわ」
「い、いえ!差し上げますよ!」
「…じゃあ妹分捜しの追加報酬としてなら貰ってやるよ」
今は未だ見つかっていないから、借りるだけだ。とザジがおどけて肩をすくめてみせた。
「さて、じゃあ現在地は…このへんだな。全容がわかんねえし、とりあえず壁伝いに行ってみるかね」
「そうね。じゃあ地図書きはザジ、アンタに任せるわ」
「ハイ・ラガードでも俺に押し付けてたろお前よー…まあいいけど」
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地図を書きながら遺跡を巡り、魔物と戦いながらライカを探していくが、手がかりらしい手がかりも見つからぬまま、時間だけが過ぎていく。
「…日が暮れてきやがったな」
「まずいわね…」
地図を書いているとはいえ、自分たちにとって未知の領域と言える遺跡の只中で、視界が狭まるのは危険極まりない。かといって要救助者を放っておくわけにもいかない。暗くなれば危険、という状況は、ザジたち以上に件の妹分も同様なのだ。
「ええ…まずいです」
「ああ、早いとこ見つけねーと…」
「レアちゃんがおねむの時間ですからね!」
「そっちじゃねーよ!?」
思わず突っ込むザジだが、ノノは真剣そのものの表情だ。
「…いやまあ、実際そうか…そろそろ電池が切れかねねー…レア、いけるか?」
「んー…」
頷きはするが、どことなく力無い。
「ビルギッタ、眠気覚ましとか持ってねえか?」
「す、すみません…滋養強壮系の薬草しか…」
謝る薬師の少女だが、その薬草が何度か彼らの窮地を救っているので強くは言えない。
「まぁ、とにかく早く…うん?」
小道を壁伝いに歩いていくと、中央のそれよりは少しこじんまりとした広場に出た。その中央には、夜の闇に紛れて何かの影が蠢き…
「魔物か!?」
「…あああっ!」
身構えたザジの横をすり抜け、最後尾にいたビルギッタが飛び出す。
「ちょっ!急に前に出ちゃあぶな──」
「よかった!ライカッ!」
「…へっ?」
ビルギッタが飛びついた影が、闇に目の慣れてきたザジたちにもその正体を顕す。
「…犬?」
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「ストークスのみなさん、本当にありがとうございました!お陰でライカと再会できました!」
「お、おう…まぁ、無事で何よりだ」
街に戻ると、どっと疲れが増した感覚を覚えるザジたちである。
「…考えてみれば、“妹のように可愛がってる”ってだけで、妹だなんて一言も言ってませんでしたね…」
『まぁ、何を以て妹のようと称するかは人それぞれだからな…』
ともあれ、彼女たちを無事に送り届けて、酒場に報告すれば、それで今回のクエストは完了だ。
「オッサンから追加報酬ふんだくってやらねーとな…」
「そういえば、なんですけど」
ぼやくザジに、ビルギッタがふと声をかける。
「あの遺跡について、マギニアは把握してるんでしょうか…?」
「あん?」
言われてみれば、今回のクエスト内容としては、森で行方不明になったビルギッタの捜索だけだ。森の中に遺跡があるならば、事前情報として共有されていてもおかしくはないはずだが…
「司令部に報告した方がいいかも知れませんねぇ…」
「…そうさな。未発見の遺跡なら、なんか報酬もらえるかも?」
「がめついわねぇ…」
リコリスが肩をすくめてみせた。
−つづく−
とりあえず本作における最初のダンジョンへ。
ライカの正体は正直リアルでツッコミ入れました。ノノの発言は概ね僕のツッコミですねーw
まぁ、お使いクエストこなすだけで世界樹の探索許可降りるとは思ってませんでしたが、これまでとはまた毛色の違うチュートリアルイベントでなんだか新鮮ですね。これも(作中設定的にも)ほぼ未踏破なゆえの展開でしょうか。
街の人間として、商会の店主・ネイピアが登場。事前情報で出てくるとは知ってましたが、初出の「III」と違って声がつくのはいいですねー。概ね想像通りの声でした。個人的には好きなキャラですが、僕のアバターたるザジはちょっと苦手にしてるっぽい?
ほんのり憎からず思ってるような描写も挟んでますが、どうするかは別に考えてません。モン勇リプレイと違ってハーレムやるつもりもあんまりないので(あんまりとは
さて、流石にレアがおねむなので一晩休んで、続きと洒落込みましょう。