遺跡の奥を守るように居座る巨大な魔物の存在を確認してから一夜明け、ストークスは再び遺跡へと赴く。
探索中に見つけた壁の隙間を駆使しつつ、最短ルートで奥の小部屋へと向かうと、あいも変わらず植物の魔物はそこに佇んでいた。
「よーしお前ら、準備はいいな?」
全員がうなづくのを確認したザジは、開戦の狼煙とばかりに矢を射かける。
「いきなりで悪ぃが、道を開けて貰うぜッ!」
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「ザジ!相手の眼、狙えそう?」
「どこに眼があんのかわかんねぇが…やってみるか」
「頼むわね。こっちでも巫術がうまく効いてくれれば…!」
後衛組が戦術を練る中、前衛のレアが素早い動きでツタを切り裂いていく。その剣圧と恐るべきスピードが新たな人影を生み出す…レアの得意技、残像の形成だ。
「丙午の天より…爆ぜよ、九紫火星!」
普段の無口ぶりからは想像もつかないほどの大声を張り上げて、ベテルギウスが炎の星術を放つ。表皮を焼く音と、内部の水分が蒸発する音が嫌に響いた。
「よし、予想通り火気に弱い…続けて放つ」
「その前に…大気に漂う炎の残滓、お借りしますっ!」
ノノが槍を振り回し、その穂先が赤く煌めいた。
「灼けつく霊気よ、我が槍となれ…スピアインボルブ!」
火気を帯びた槍の一撃に、花獣が大きくよろめく。
「…いま!」
レアの残像が駆け出し、本人もそれに合わせて斬撃を見舞った。ダメージの蓄積が目に見えて魔獣の動きを鈍くしていく。
「やれそうね!」
「いや、まだ油断すん──!」
不意に花獣の腕と思しき器官が跳ね上がり、リコリスを狙った。
「危ねえっ!」
咄嗟に飛び込んだザジの足に、植物の蔦が鋭く巻き付く。
「ってぇ…いや、痛みはそんなでもねえか?」
よろよろと立ち上がる。足にわずかな違和感を感じた。
(足が思うように動かねー…)
「大丈夫なの、ザジ?」
「腕じゃなかったからセーフだな。それに…」
重みを感じる足で思い切り踏ん張り、ザジは花獣の頭部に狙いを定める。
「むしろ狙いやすくなったかもな…くらいやがれっ!」
敵の視界を奪う<ブラインドショット>が放たれ、花獣の眼を塞いだ。
「…ジャックポット!おら、なんか手ェあんだろ?やっちまえリコリス!」
「あ、うん!任せなさい!」
新調した剣を構え、リコリスが巫力を高める。
「執刀術式…霊防衰斬!」
振り下ろした太刀筋が、太い幹のような体躯を薙ぎ、血のように赤い樹液を撒き散らす。
「医者ってのはね、治し方もだけど…患わせ方も知っててナンボなのよ♪」
もんどりうって倒れる花獣を横目に、リコリスは大きく見栄を切ってみせた。
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「さて…そんじゃあ…」
最大の障害たる魔物を倒し、その背後にある扉に向かう。
──ふーん、ゆうかんなんだね。それに…やさしいところもあるみたい。
扉に手をかけようとした刹那、不意に聞こえた声にザジが手を止めた。
「レア、なんか言ったか?」
「ううん?」
レアの声に似ているような気がしたが、当の本人が首を横に振っている。こんな所でイタズラをしかけるような事はしないと知っているザジは、改めて先ほどの声が第三者のものだと察する。
「…誰だ?」
──イヌはたすけてたみたいだけど…それがヒトでもたすけるの?
ザジの問いかけには答えず、少女と思しき声は逆に問いを返してくる。
「…何が言いたい?」
再びザジが問いかけるが、声はもう返ってこなかった。
「…なんだったんだ…今の?」
『今、遺跡の中に我々以外の人間がいるとは到底思えぬが…』
「…遺跡の原住民とか、かも?ほら、ハイラガの世界樹にも翼人とかいたじゃあないですか」
他の街の世界樹にも存在した例を挙げるノノだが、いずれにせよ判断するには情報が足りない。
「ま、考えてもしゃあねえ。まずはすぐにわかる事…この扉の先に行こうぜ」
ザジの言葉に面々もうなづき、改めて扉を開く。簡単な封印術が施されていたらしく、刻まれた方陣が解けると、その先には…
「こいつぁ…!?」
小部屋の中央に、天に聳えるように光の柱が伸びていた。
「これって…“樹海磁軸”よね?」
エトリアをはじめとする各地の世界樹には、一定間隔で光の柱が存在しており、それらは樹海磁軸と呼ばれていた。それに触れる事で、エトリアやハイ・ラガード…つまり最寄りの街と行き来できるという代物だ。ザジも各地の世界樹を訪れた際に幾度となく利用したものだが…
「これ、触ったらどこ行くんだ?マギニアじゃあないことは間違いねーだろうが…」
ザジたちにとって最寄りの街は間違いなくマギニアであるが、レムリアという土地にあってマギニアはいわば異物だ。であればこの磁軸は、どこに通じているのだろうか?
「んー…ほい」
「え?」
ザジたちが思索する中、レアがしれっと磁軸に触れる。
「わ!なにやって──!」
転瞬、視界が光に遮られ…
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気がつくと、見慣れぬ場所にストークスはいた。
「な、なんだぁ…ここは?」
「む…ザジ」
ベテルギウスに袖を引かれて視線をよこすと、遠くにマギニアの機影が見えた。
「えっ、あんな遠いとこに…?」
「ってことは…ここは別の島か!」
「べつのしまー?」
絶海の孤島と称されるレムリアは、世界樹を中心にいくつかの島が連なっている群島なのだ。この地の樹海磁軸は、島と島を繋ぐものなのかも知れない。
「こいつぁでけえ収穫だぜ…お手柄だぞレア!」
「ほえ?」
やはり事態を把握しきれていないレアが首を傾げた。
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「ふむ…なるほど。遺跡の奥に樹海磁軸らしき光の柱、か…」
ストークスから提出された地図を一瞥し、ペルセフォネは大きく息を吐いた。
「司令部では、ここの島々が断層により隔絶した形状にあると認識している」
ストークスが磁軸を介して辿り着いた島は、すでに司令部にて調査が始まっており、<幽寂ノ孤島>と名付けられていた。
「報告によれば、衛兵や冒険者の手でベースキャンプが構築されたという。疲れを癒したら行ってみるといい」
「それって…!」
「ああ。司令部は諸君らの働きを認める。よって、以後各地の探索を進めてもらおう」
ペルセフォネ直々の言葉に、ザジは「っしゃあ!」と拳を握り締める。
「こらこら、お姫様の御前よ?嬉しいのはわかるけど自重しなさいな」
「はは…よい。特に赦す」
リコリスの嗜めもどこ吹く風と、子供のようにはしゃぐザジにペルセフォネが改めて声をかけ、我らがギルドマスターは慌てて居住まいを直した。
「ストークス。こたびの働き、見事であった。今後も期待しているぞ」
姫の激励に、ザジは再度大声で応えるのだった。
−つづく−
というわけでボス戦クリアして、ミッションもコンプリート!
本当ならここいらで区切って他のゲームのリプレイへ…と思ったけど、GW進行でゲーム触れなくなるかもだし、もう少し進めようかな…?
今回はちょっと戦闘描写を書き込み。
ベテルギウスの術式詠唱は、少し前にも披露してますが、占いでお馴染み「九星気学」というやつがネタ元です。占星術師ということもあってちょっと個性出してみたかった(すでにコミュ障という個性あるやろがい)。
クラス名的には西洋の占星術だろうに、なんで九星気学なのかは一応理由があったりなかったりしますが、いずれどっかで言及したりしなかったりどっちやねん。
他のメンツのバトルスタイルも、もーちょい踏み込みたいんですが…まぁそれはおいおい。