炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【SS】天海春香誕生日記念【でーけたっ】

「お疲れ様でした、プロデューサーさんっ」
「ああ、お疲れ」
 今日の営業を終えて、事務所に戻ってきた。
 私はプロデューサーさんのデスクに転がる卓上カレンダーをチラリと見る。探す日付のところには…特にしるしは見受けられない。―――ちょっとがっかり。
「あの、プロデューサーさん?」
「ん? どうした、春香」
 自分からこーゆーこと言うのどうかな…でも、ここは聞いておかないと!
「3日のことなんですけど…」
「3日?…今のところ、入ってるスケジュールに変更は無いけど…何かあったか?」
「え? い、いえ、そうじゃなくてですね…?」
「?」
 ひょっとして…気付いてない…というか忘れられてる!?


 …ん?
 ああ、そうか。
 今日は4月1日。エイプリルフールだっけ。
 もー、プロデューサーさんってば手が込んでるんだから♪
「どうかしたか、春香?」
「あ、いえいえ。なんでもないですよ~。それじゃ、また仕事、がんばりますね。それじゃ!」
 …うふふ、当日が楽しみ…かな?




     Haruka's Birthday Short Story
     春色の音を届けて。




 ―――次の日。
 歌番組の収録に出た私は、司会者さんとのトークで誕生日の話題に触れた。
 もっとも、最近は友達と誕生日パーティとかしにくくなっちゃった…みたいな、当たり障りの無いことを言ってたんだけど。
「二人っきりで祝ってくれるようないい人はいないの? 春香ちゃん」
「えー、いませんよ♪」
 苦笑交じりにそう答えながら、ちらっとプロデューサーさんの方を…って、あれ?
 収録の様子を見ていたはずのプロデューサーの姿が見当たらない。
 いつも一番間近で見守っててくれていたのに…。
「…ん、どしたの春香ちゃん。急に元気なくなったけど?」
「え?! あ、ご、ごめんなさいっ! だ、大丈夫ですよ、元気です元気です!!」
 慌てて両腕を振り上げてちからこぶをつくってみせる。だけど、ちょっとタイミングが悪かったみたいだ。
「OK、ちょっと休憩入れようか」
 司会者さんが軽く声を上げると、スタッフさんからの溜息が合唱のように聞えた。
 うう、何やってるんだろ、私…。



   * * *



「はぁ…昨日は散々だったなぁ…」
「どうしたの春香、溜息なんて珍しいわね」
 …千早ちゃん…。
「聞いたわよ。昨日の収録、トークでミスしたって」
「うん…」
 トークでリテイクするなんて、正直今でも信じられない。
 先に歌を収録していたのが不幸中の幸いかなぁ…。
 プロデューサーさんもフクザツそうな顔してたし…うぅ。
「…あら、そういえばプロデューサーの姿が見えないけど?」
「今日は午後から営業で、それまで外回りだって。私はお留守番」
 語尾が溜息と一緒に出るのが分かった。

 プロデューサーさん…私の誕生日、本当に忘れちゃってるんじゃないのかな…。

「そういえば、今日は春香の誕生日だったわね。…ひょっとして、不調の原因はそのあたり?」
 図星を指されてはっとなる。
「そうね…『プロデューサーさんは私の誕生日のこと覚えてないのかな』…といったところかしら?」
「う、うん…」
 千早ちゃんはふわりと微笑んで、こう言った。
「そんなこと無いと思うわよ。プロデューサーは…ちょっと頼りないところもあるけれど、常に私たちのことを第一に考えているもの」
「千早ちゃん…」
「春香は特に大事にされてるように見えるし。…ちょっと妬けちゃうかな」
 小声でそう呟くと、千早ちゃんは少し顔を赤くして俯いた。


  バタン!


「ただいまっ」
 事務所のドアが勢いよく開いて、プロデューサーさんが飛び込んできた。
「はぁ、はぁ…どうにか今日中に間に合ってよかったよ…」
 肩で息をしながら、プロデューサーさんは小さな包みを私に手渡す。
「誕生日おめでとう、春香」
「憶えてて…くれてたんですか?」
 包みを受け取って、きゅっと抱きしめる。千早ちゃんの方を見ると「ほら、ね」と目配せしていた。
「当たり前だろ。春香のことなんだから」
 額ににじんだ汗をハンカチで拭いながら、そう答える。
「だって、全然誕生日のこと言ってくれないから…」
「プレゼントの準備に手間取ってね。用意もできないのにおめでとうだけ言うのも野暮ってもんだろ?」
 少しおどけながら言うプロデューサーさんに、私と千早ちゃんは顔を見合わせてクスっと笑った。
「開けても…いいですか?」
「どうぞどうぞ」
 包みを解くと、小さな木の箱が顔を覗かせた。
 ゆっくりと蓋を開く。



    ♪…♪…♪…
     ♪~♪~♪~
      ♪…♪…♪…




 箱の中から、聞きなれたメロディがこぼれ出した。
「この曲…『太陽のジェラシー』…?」
 私の一番大好きな曲だ。
 箱の中に仕込まれた銀色の筒と細やかな櫛が、小さくも可憐な音を奏でていく。
「自作キットを買ったはいいけど、なかなかコレが細かい作業で難しくってさ。外回りを口実にして、さっきまで仕上げの作業やってたんだよ」
 あ、これ社長にはナイショな。
 そう言って、プロデューサーさんは小さく舌を出した。


「ありがとうございます! これ…大切にしますね」

 感激に胸がいっぱいになって。

 もっと言いたい事があったはずのに。

 それだけ言うのが精一杯で。

「ああ。そうして貰えると、俺もうれしいよ」

 頭に乗せられた手がとても暖かくて。

 私は、精一杯の笑顔をプロデューサーさんに向けた。





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 あとがき

 僕が手がける二次創作作品にしては珍しく(というか、初?)、ヒロイン側からの視点でのストーリー。
 春香の口調で、文章を書くのはちょっと大変だった…(汗
 ドラマCDのNEW STAGE3・OFF SHOTの春香の語りが結構参考になって助かったw
 さて、来月は伊織と亜美真美だけど…

 伊織は去年書いたからいいよね。ね?


 しかし、千早が妙に性格丸い…や、本来の性格が出ていると言うべきか?
 ちなみに、自作オルゴールキットって実在はしますが…ドラム式じゃなくてカード式のがザラだよなァ…
 ドラムのピン打ちから自分で出来る自作キットってあるんだろうか…あったら是非やってみたいもんだがw