炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【#ポケモンSV】ぼくの冒険レポート:キタカミ旅行に行こう!⑬~テラパゴスのかがやき!てらす池の再会【番外編】

【注意!】
本エピソードには、「ポケットモンスタースカーレット・バイオレット」「ゼロの秘宝」「藍の円盤」に関するネタバレが含まれています。
ゲームをまだ始めていない人で、これから楽しもうと思ってる方は閲覧をご遠慮いただくことをお勧めします。

問題ない方は、そのままどうぞお進みくださいませ。

 



 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、林間学校でやったオリエンテーリングってどんなのなんだ?」

とペパーに聞かれたので実際に行くことにした。前回、スグリと行ったときと同じルートで巡り、キタカミの里にまつわる伝承が記された看板を巡っていく。

「ふぅん…おまえも大変な人生(?)送ってんだなぁ」
「ぽに?」

ひとやすみしつつサンドウィッチを頬張るぽにこオーガポンに、ペパーは神妙な顔を見せるのだった。

 

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「こっちはなにがあるんだ?」

3枚目の看板へ向かうべく鬼が山を越えていく中で、ペパーが山頂へ向かう階段を指さす。

「あっちには【てらす池】っていうのがあって…」
「へぇ、エリアゼロみてーな結晶体ちゃんが沈んでんのか!行ってみようぜ!」

改めてスカーレットブックを読み返し興味を持っていたらしいペパーに引っ張られ、ぼくたちはさらに山を登る。キタカミ六選の一つに数えられる絶景は、初めて来た時と変わらずぼくたちを迎えた。

「池の光を見ていると、死んだ人に会える…か」

看板の文章を読んでいたペパーが「…母ちゃんにも会えたりすんのかな?」とぽつりとつぶやいて、「や、なんでもねーなんでも!」と笑顔を作って見せた。

「…ぱご?」

気づくと、足元にポラルテラパゴスがいた。いつの間にかモンスターボールからでていたようだ。

「どうしたの?」
「ぱごぉ…」

ぼくの声も聞こえないのかとことこと岸へと近づいていく。

「そのポケモン、大空洞ってとこにいたんだよな?テラスタル結晶が好きなのかな?」
「え、食べるのかな…?」
「や、さすがにそれはねーと思うけど…」

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未知のポケモンの好物について考えを巡らせているうちにテラパゴスがひと鳴きし、身体が輝きはじめた。え、何が起こってるの…?

「うわっ、おいおいなんかめっちゃ光ってねえか…?」

目の前にいるお互いの姿もわからなくなりそうになり、あわてて二人して身を寄せ合う。やがて輝きが最高潮に達し…いつしかその輝きは霧へと姿を変える。そして…その霧の向こうにすらりとした人の形をしたシルエットが浮かび上がった。

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「…おや?ここはいったい…」

毛皮をまとった襟に、コートのように長い白衣…その後姿を、ぼくは、そしてペパーは良く知っていた。

「…か、母ちゃん!?」

ペパーが震える声でつぶやいた言葉に、彼の母…オーリム博士はゆっくりと振り向いた。

「ふむ、確かに私は一人息子を持つ母親ではあるが…君のような大きな子では、まだないよ?」
「えっ…」

改めてぼくたちの前で自己紹介する彼女は、まぎれもなくオーリム博士そのひとではあった。でもどうやら、ぼくやペパーについての記憶はないらしい。

「なるほど…どうやら私は時空を超えてこの地に来ているようだ。つまり、私は君たちにとって、過去の存在なのだろう」

ただ、オーリム博士曰く、無数に存在する時空の可能性のひとつであり、決して今ぼくたちがいる時間とつながっている…とは限らないらしかった。

「おそらくこの出会いも、ひとときの奇跡だろう。時間が許す限り…有益に情報交換といかないかな?」

はじめて見たときと同じ、人懐っこい笑顔で、オーリム博士はそう言った。

 

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「なるほど、ここはキタカミの里のてらす池だったか。私はエリアゼロにいたはずだから…どうやら座標も大きくズレているようだね。大空洞に眠るというポケモンの影響によるものか…ううむ、興味は尽きないが…」

お互いのことを話しながら、博士は頭の中で様々な仮説を組み立てているようだった。

「いや、非常に有意義な時間だ。ここしばらくはずっと研究所にこもりきりだったからね、いい気分転換にもなっているのだろう」
「…あ、あのっ!」

ふと、それまで押し黙っていたペパーが口を開く。

「ええと、君は…ペパーと言ったか…ふふっ、私の息子と同じ名前とは偶然だね」
「その、息子…さんのことについて、聞きたいん…すけど」

言葉を選びながら、ペパーが口から絞り出すように言う。

「おや?私のプライベートに興味があるのかな?」

くすっと笑いながら、博士が目を細めて空を仰ぐ。

「今頃、家で…いや、"今"という言い方は正しくないかもしれないが…きっと寂しい思いをしているだろう」

いつか、ペパーから聞いた昔の話を思い出す。エリアゼロの研究所に長年閉じこもってしまったまま、幼い頃の彼はマフィティフとのたった一人と一匹の暮らしを余儀なくされていたという。エリアゼロでの一件でAIのオーリム博士から「愛していた」と伝えられたけれど…

「研究にひと段落でも付けば、久しぶりに顔を見たいな…ふふっ、なぜだろうね。きみの顔を見ていたら、そんな気になってしまったよ」

良く見たら、どことなく息子によく似た顔立ちをしているね…と微笑むオーリム博士に、ペパーは視線をそらして「そっすか」と小さくつぶやいた。

 

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「おや、また霧が濃くなってきたようだ…そういえば、時間に限りがあるのだったな」
「ギャス!ギャァス!」
「ふふっ、もっときみたちやツバサノオウ…いや、コライドンだったか…と交流をしたかったが…急がないとな」

そう呟くオーリム博士の手の中には、以前ブライア先生からもらった「ゼロの秘宝」の本があった。スカーレットブックの著者であるヘザーの子孫の著作に興味を持った博士に、彼女の持つスカーレットブックと交換という形で手渡したのだ。

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「久しぶりに家に帰って、読書するのも悪くない…かな」

そう言って、博士が本を大事そうに胸元に抱えた。

「あの…オーリム…博士…」
「うん?どうした、ペパーくん」

一歩前に出たペパーがじっと母を…オーリム博士を見る。

「オレ…ペパー…」
「?うん、知っているよ?」
「いや、じゃなくて…ペパーなんだよ…あんたの…息子の…信じてもらえねーかも知れないけど…」

言葉が少しずつ涙でにじんでいくのが聞こえた。

「…オレの知ってるかーちゃんは…もういないんだ」
「…そう、か」

その言葉の真意を、はたして目の前のオーリム博士は気づいているのだろうか、ペパーの背中に隠れて、オーリム博士がどんな表情をしているのかは今のぼくには読み取れない。

「今のあんたみたいに、ずーっと研究所にこもりっきりで、オレがこの年になるまで、マトモに顔も合わせなくてさ…でも」

鼻水をすする音が、いやに低く響く。

「最後に…『愛してた』って言ってくれたんだ。だけどオレ、その言葉になにも返せなくって…だから…」

 

 ━━オレも!愛してるよ!母ちゃんのこと!!

 

目の前の"母親"に、涙声でそう伝えるペパー。震える肩に、オーリム博士はそっと手を重ね…そのまましっかりと抱きしめる。

「…大きくなったんだな、ペパー」
「…ん」

それはまさしく、子を抱く母親のまなざしで。

「オレさ…友達できたんだ。ほら、そこにいる…ヒイロってヤツ。すっげーポケモン強くて…優しくて…オレの最高の親友ダチだ」
「そうか…小さなペパーは引っ込み思案で、それこそオラチフくらいしか友達がいなかったものだが…」
「他にも...ここにはいねーけど、おんなじくらいポケモンつえー生徒会長とか、口悪いけどメカが超得意なやつとか…みんな、大切な…オレのダチだ」
「うん…うん」

どれくらいの時間が経っていたのだろう…二人はどちらからともなく身体を離す。オーリム博士の手がそっとペパーの頭を撫で、そしてまた、一歩後ろに下がる。

「…それでは、お別れだ。時空を超え出会いし、ツバサノオウと冒険者の少年。そして…我が最愛の息子よ」

オーリム博士の手が、ふわりと掲げられる。

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 ━━ボン・ボヤージュ!

 

口癖なのだろう。エリアゼロで聞いたあの言葉を、今度はペパーも一緒に唱えて。

「…フフッ」
「…へへっ」

お互いにそっくりな笑顔で見送りあい…オーリム博士の姿は、霧の中へと消えていった。

 

 

   -つづく-

 

 


DLC後編クリア後のてらす池イベント、どうにかしてペパーを連れて行きたかった…という妄想の産物です。

知らない間に二度と会えなくなっていた母親に、ちゃんと愛してると伝えさせることなんて、リアルでもできないからなぁ…うちも両親いい歳だし、愛してるとまではいかないにしても、感謝や愛情を伝え続けていきたいもんですね。