炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【#ポケモンSV】ぼくの冒険レポート:キタカミ旅行に行こう!⑫~結構なお手前で【番外編】

サザレさんとの約束をした日の昼間のこと━━

 

「ねぇ、お茶にしない?」

公民館で調べ物をしていると、ゼイユが声をかけてきた。ちょうどひと段落したところだったので資料を片付けて彼女についていく。

「モモワロウ…だっけ?例のポケモンのこと、なんかわかった?」

「ううん…いまのところ全然。戦ったときに繰り出してきた鎖がともっこの身体についてるのとそっくりだから、何か関係あると思ってそっち方面から探ってみたんだけどね…」

もともとともっこを英雄として祀っていたキタカミの里だけれど、モモワロウについての伝承はさっぱり見つからない。

「そういえばモモワロウの殻?みたいなのを、前に桃沢商店で見たことあるんだよね…」
「でしょ?確か、【不腐くさらずの桃】って名前の置物があったのよ。例の騒動が起こった頃くらいに無くなっちゃったみたいで、おばちゃんが探してたわ」

まさか…ね?

 

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「おーう、こっちだこっち!」

フジが原まで行くと、ペパーが大きく手を振っているのが見えた。ピクニックするの?

「違うわよ。今回はキタカミ流のおもてなしってのを見せてあげるの」

いつものイスやテーブルの代わりに、紅い傘の下に紅い敷物。スグリたちはその上に思い思いに腰掛けている。

野点のだてって言うの。こうやって外でお茶を点てておもてなしする、キタカミの文化よ」

促されるままに敷物に座り、ゼイユも静かに正座する。容器から取り出した緑色の粉…これが抹茶というものらしい。丁寧な動作でお茶を点てる姿に、思わずぼくの背筋も伸びて。

「はい、じゃあまずは…ネモに」
「うん、ありがとう。茶道については聞いたことあるけど、実際にやるのは初めてだね…こう、でいいのかな?」
野点だからね。そんな堅苦しく考えなくていいわよ」

じゃあ遠慮なく…と言いつつ、それでもこれまた丁寧な所作でネモが一口。

「ん…結構なお手前で…だっけ?」
「あら、よく知ってるわね?」

ふふっと二人が顔を見合わせて微笑む。絵になるなぁ…

「ねーちゃん、お茶についてはばーちゃんからめっちゃシゴかれてんだ。学園でもたまに点ててるよ」

こそっと隣のスグリが耳打ち。どおりで色々綺麗なわけだ。

「なー。普段っからあれくらいおしとやかならいいのに」
「聞こえてるわよスグ…?」

いつもの大げさなリアクションがない分、静かな怒りにぼくたちの背中が冷えた。

 

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「め…めっちゃ苦かった…あ、でもその分お菓子あまーい」

舌に残った苦みを忘れようとボタンがお茶菓子を頬張る。

「なるほど…お茶の葉っぱを粉末ちゃんにしてんだな。料理にも合いそうだぜ」

興味津々で茶筒の中身を観察するのはペパーだ。にがスパイスと合わせてみるか…とか怖いセリフが聞こえてきた気がする。ネモはというと早々に敷物から離れて野生のポケモンを追いかけている。さっきまで正座してたはずなのにえらい元気だ。ぼくなんかいまだにしびれて立てないというのに。

「あれは一種の才能ね…」

同じく足をしびれさせたゼイユが匍匐前進みたいにぼくの方へ寄ってきた。急にいたずら心が湧いて、彼女の足をちょんとつつくと、まるでコイキングのように飛び跳ねて。

「んぎゃっ!?」
「あははっ!」
「あーんーたーねー!お返しよ…おりゃっ!」
「わぎゃっ!?」

当然の如く逆襲されて、二人して敷物の上を転がった。スグリが「仲いーな二人とも」と笑いながら、ネモに誘われてポケモン勝負に向かっていった。

「ふぁ…あ」

と、ゼイユが大きくあくび。どうやら今日の野点のために朝早くから色々準備してたらしい。

「そんなに頻繁にやらないからねー。倉庫で埃被ってた道具を引っ張り出して、使えるように洗ったりとかしてて」

あふ…とあくびをかみ殺しながらしょぼしょぼと目を擦る。ぼくたちのために…ありがとね。

「いーのよ…あたしがやりたかったんだから…」

そう言いながら投げ出したぼくの足…ふとももをひっつかみ…ぐいっと引き寄せて頭を乗せる。ちょうど膝枕の格好…前とは逆だ。

「お、意外と寝心地いいわねー。そのまま借りるわよ?」
「わ!?ちょ、ちょっとゼイユ…!?」

ちょっとしびれは残っているけど、それ以上にゼイユの頭…というかほっぺの感触や体温が伝わってきて、別の意味で動けなくなる。

「ちょっと…寝させて…」

声が小さくなり、代わりに寝息が聞こえてくる。上半身を起こすと、ゼイユの緩み切った寝顔が見えて…

「…おやすみ」

無防備に揺れるつややかな髪を、ぼくはそっと撫でるのだった。

 

 

   -つづく-

 

 


久々に更新できた気がする…今回は主ゼイ回。時系列的には前回のサザレさんイベント前後編の間ですわよ!

チャデス系統を相方にしてるってのもあって、茶道の心得は持ってそうな気はするんですよね彼女。多分ヒエばーちゃんがスパルタで教えた(確信

ちなみに、「結構なお手前で」ってよくネタにされるフレーズなんですが、リアルでやるとちょっとアレらしいですね。上から目線的な感じになるとか。京都弁ニュアンス?

キタカミ旅行編はもうちょっとだけ続きます。具体的にはペパー回とボタン回をやりたいんです。前者は言わずもがなあのイベントをちょっとね…(ニチャア