ゼイユやネモたちと遊びながら一日を過ごし…夜。
「ヒイロ!」
みんなが寝静まったころにこっそりと公民館を抜け出して、同じく家から出てきたスグリと合流する。
「にへへ…みんなに内緒で夜の冒険かぁ…なんかワクワクする!」
「ふふっ…だよね!」
かつて鬼さま…オーガポンに会いたくて一人で鬼が山を冒険したことがあるスグリでも、さすがに夜の里を冒険したことは無かったようだ。
「あ、いたいた」
原生地域の奥の奥…とこしえの森にたどり着くと、小さなテントの前で野生ポケモンの撮影に夢中になっているサザレさんをみつけた。
「イイね…イイよーイイよー。ねぇねぇ、かわいいとこもっと見せてー…?」
「サザレさん、来ましたよ!」
「そうそう、イイ子だねぇ…あー、かわいいねえー!」
「…サザレさん?」
ぼくとスグリがかわるがわる声をかけるが、被写体に夢中になっていて聞こえてないようだ…サザレさーん!おーい!
「ぐぐふん!」
「え?あっ、助手クンたち!」
相棒のガーディに促され、ようやくぼくたちに気づいた。集中すると周りが見えなくなるタイプなんだなぁ…
「あれ…いつからいたの?もしかして独り言聞いてた?」
顔を真っ赤にして「忘れて!お願い!!」と手を合わせるサザレさんに、ぼくたちは顔を見合わせて噴き出した。
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とこしえの森に霧が立ち込めてきた。いよいよ調査開始だ。
「助手クンたちに手伝ってもらいたいのは、ポケモンの写真撮影!」
夜霧に満ちた森の中にいるポケモンを撮影し、そのデータをリサイクルショップで買ったという【ポケモン探しマシーン】なる機械に転送することで、そのポケモンの反応が除外され、残ったポケモン…つまり赫月の場所が突き止められる…ということらしい。
「わ、わかった?ヒイロ?」
「あんまり…」
「まぁ、ワタシも説明書をそのまま読んだだけだからねぇ」
このエリアに生息しているポケモンは数十種類。ぼくたちは手分けしてポケモンの撮影をすることになった。
「そういえば、スグリってスマホ持ってないんだよね?操作大丈夫?」
「ん、学園でレンタルの使ってるから問題ないべ。てか、使えなかったらBP稼ぎもままなんねーもん」
「それもそっか」
サザレさんから借りたスマホロトムを構え、手慣れた操作で一匹パシャリ。
「つーわけで…どっちが先に10種類撮れるか勝負だ!」
「あ、ズルっこ!」
「ふたりとも、そんな大声出したらみんな逃げちゃうよー?」
はっとなってお互いに「しーっ」と顔を見合わせて、ぼくたちは霧の中へと飛び込んだ。
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ぼくとスグリが集めたポケモンの写真データをマシーンへと転送する。解析完了までの間、サザレさんはぽつりぽつりと自分のことを話してくれた。
「…ワタシ、スランプでさ」
かつては大人たちも一目置くほどの天才カメラ少女だったらしい。でもここ数年は何を撮ってもしっくりこなくなっていたらしい。やがて賞も取れなくなり、認められることも無くなり…なぜ写真を撮っていたのかも見失いかけていたという。赫月の噂を耳にしたのは、そんな時だった。
「すごいポケモンを撮れれば、自分の中で何か変わるのかもって…家、飛び出してきたんだ」
「…なんか、気持ちちょっとわかるな」
スグリが目を伏せる。
「はは、ごめんねー。辛気臭い話しちゃってさ」
取り繕うようにサザレさんが笑顔を見せたところで、マシーンが解析完了のアラームを鳴らした。
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霧の立ち込める森の中、ぼくたちが撮影したポケモン以外の生体反応は…ただ一つ。
「これが…!」
「うん、きっと赫月だ!」
さっそく会いに行くべく、反応のあった場所へと向かう。とこしえの森の中でもひときわ奥まった場所だ。
「もしもの時は…助手クンたち、ボディーガードは任せたよ!」
ぼくたちのうなづきに合わせて「じぶんもいるぞ!」とばかりにガーディが小さく吠えた。
「…静かだな」
「油断しちゃだめだよ、スグリ」
「ん、わかってる…」
何かあってもすぐ相棒をくりだせるようにモンスターボールを握り、先の見えない霧の向こうをにらみつける。やがて…
━━ドスン…ドスン…!
大きな地響きが森全体を揺らし、何かが近づいてくる。音は次第に大きく強くなり、ついに目の前の草むらを揺らしながら、その巨体がぬっと現れた!
「額の赤い月!」
「こいつが、ガチグマ…!」
「赫月!」
本当にいたんだ…と立ち尽くすサザレさんに小声でうながすと「あ、そうだ!」と慌ててカメラを構える。
「いい子だからおとなしくしててね…」
そろりと近づきながら、シャッターを切り…次の瞬間、周りが昼になったかのような光が迸った。
「ご、ごめん!フラッシュ焚いちゃっ…!」
「ワギャアアアアア!!!!」
まぶしさに視界を刺激された赫月が、驚きと怒りに満ちた雄たけびを上げ、サザレさんを睨みつけた。
「ヒイロ!」
「うん!サザレさん、さがって!」
いまにも彼女に襲い掛かろうとする赫月の前に、カミツオロチとエルダが立ちはだかった。
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「いやぁ、二人ともすごかったよ!」
赫月の怒りを鎮め、写真を撮るという目的も果たせたということでぼくたちはスイリョクタウンに戻ってきていた。
「写真、どうでした?」
「いやー、それがさ…」
苦笑いを浮かべながら、サザレさんがカメラの画面を見せてくれた。けど…
「ひどいもんでしょー?赫月はブレてるし、身体は見切れてるしピントも合ってないし…」
「わやー…」
画面を覗き込んだスグリも苦笑いだ。でも、反面サザレさんの表情はどこか晴れやかだ。
「…でもさ。今まで撮ってきた中で、一番のお気に入りになっちゃった!」
何も考えずに、ただファインダー越しに自分の見たものを切り取る。カメラのセオリーも、審査員の受けも、自分が撮りたいものがどうかすら関係なく、ただがむしゃらに。
「助手クンたちが教えてくれたんだよ。大事なこと。ワタシ…カメラが大好きだって!」
ありがとね。と言って、サザレさんがカメラを構えてにこっと笑って見せた。
-つづく-
ちょっと文章長くなったけど、サザレ&アカツキガチグマ編・完!
これでもだいぶセリフとか削ってますがねー。リプレイであってもそのまんまはできるだけやらない。冗長化するだけだし。こういうのを脚色っていうんですかね?(何
※そもそも原作にスグリは同行しない。
スグリはスマホ持ってないのが一種のアイデンティティと化してますが、ブルベにいる関係上授業用に支給ないしレンタルとかはあると思うんですよね…さもないとあきらかに手持ち7匹以上いるのにボックス使えないし、ブルレクもできたもんじゃないし💧
あ、本文中では省略してますが、ちゃんとガチグマは捕まえてるしサザレさんからガーディ託されたりしてます。まさか貰ったガーディ、状況に応じて後編イベントのセリフが変わるとはこのリハクの目をもってしても(ry
さて次回はこの赫月前後編の幕間をば。
↑お前じゃねえよ座ってろ