炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

Chapter:1/Scene:3

「ボーンゴーレム! なんだってヤツまで地上に?!」
 愕然とする通之介に、おずおずとまひるが声をかける。
「ね、ねぇ…なんなのアレ…?」
「話は後だ。…三人とも、ここを一歩も出るな。…いいねっ」
 有無を言わせぬ迫力に、三姉妹はそれぞれ頷く。通之介は開いた窓に足をかけ、勢いをつけて飛び降りた!
「ちょっ、ここ二階…!」
 まひるの声が飛ぶも、通之介は表情ひとつかえず空に躍り出る。その体は向かいの家の屋根へと降り立ち、そのまま他の家の屋根や屋上伝いに、骸骨の巨体を目指し近づいて行く。
「すごぃ…」
 思わず感嘆の声をあげる咲夜。
「あらあらぁ。しばらく見ない間に、随分とワイルドに育っちゃったみたいねぇ~」
「いや、そーいうレベルじゃないわよおねーちゃん」
 素でボケる姉に突っ込みつつ、まひるはみるみる小さくなっていく幼なじみの姿を目で追っていた。
「…いったい何があったって言うのよ、今まで…」


「…肩にキズが残ってる。間違いないな。さっきまで俺が戦ってたヤツだ。俺と一緒に地上に出ちまったってところか…くそっ、厄介な!」
 通之介が大剣の鞘に手を添える。と、鞘は一瞬の内に消えうせ、白銀色の刃を露にした。
「っは…やああああああああッ!!!」
 ビルの屋上から跳躍し、ボーンゴーレムに肉迫する。振り上げた大剣を化物の顔面に叩きつけるが…ボーンゴーレムは一瞬バランスを崩しただけで、すぐに体勢を取り戻すと、巨大な拳で反撃に出た。
「ンなろっ!」
 とっさに剣を持ち替え、刀身で攻撃を受け止める。が、勢いまで殺すことは出来ず、弾かれた体はそのままアスファルトの地面に叩きつけられた。
「がぁ…っは」
 全身を強かに打ちつけられた通之介だったが、すぐに体を起こし、大剣を振りかざした。
「おあいにくと…こう見えて結構鍛えてるんでねっ!」
 口の中にたまった血を吐き出した通之介は、視線を自身の掌に向ける。やがて、うすぼんやりと光のヴェールが手を包み込んでいるのが見えた。
(魔力光が見える…地上でも魔力を行使(つか)うことが出来るってコトだ…なら!)
 通之介があおもむろに腰の皮袋に手を突っ込んだ。その中から、幾つかのビー玉を抜き取り、指に挟む。
「目にモノ…見せてやるぜ!」
 通之介の全身から光が溢れる。それはやがて収束し、左手のビー玉に集まってゆく。
「っせーのぉ…せっ!!」
 輝きを秘めたビー玉を、ボーンゴーレムに向けて投げつける。
霧雨(ミスティト)!
 通之介が叫ぶと、ビー玉のいくつかがはじけた。それと同時に、濃い霧が立ち込める。通之介が指を鳴らすと、また数個がはじけた。
雷電(ボルツァ)!」
 今度は小規模の電撃が霧の中を縫うように走る。やがて、霧に目に見えない変化が訪れる。そのタイミングを見計らったかのように、再び通之介が指を鳴らした。
炎華(ブレズス)!
 ビー玉がはじけ、炎が煌く…その瞬間。


   ドガアァン!!!


 ボーンゴーレムを中心に強烈な爆発が起こる。
連鎖爆砕(トリニティ・ブラスト)だッ!!!」
 勝どきの声を上げる通之介。しかし、爆風が収まったあとに現れたボーンゴーレムの姿は…
「…無傷だと!?」
 肩に残っていたキズ以外、ダメージはまったく受けていなかった。
(ちぃ…こっちじゃ大気中の魔素が薄い…だからなのか?)
 舌打ちをしつつ、この状況を打破する手段を思案する通之介。その視線は、右手に握られた大剣に注がれた。
「…召喚(よ)べるのか? 地上でなんて…いや」
 仮に召喚できたとしても…
「俺“だけ”の力で…」
 躊躇う通之介。と、大剣が光を帯び、意思を持つかのように輝いた。
「…! 召喚(よ)べ、って言うのか…?」
 大剣越しに問いかける通之介、向こう側の何かが、頷いたような気がした。
「判った。…いくぞッ!」

 柄を握り締め、意識を切先に集中させる。魔力の光が刀身に満ち、それに刻まれていた魔導文字が浮かび上がっていく。

“ウラドゥ・ナルイェディ・ウルト・ノムカルモ・ネマ・アビラ・クスーケ”
 通之介の口から紡がれる言霊が更なる力を生み、魔導文字が更に輝きを増す。そしてそれが臨海に達したとき、通之介は大剣を振り上げ、その切先を天に掲げた。

「来たれ剣神…“シュ・ヴェルト”!!!」



  -つづく-