炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ボウケンSS】最初のプレシャス【掌編】

 しん、と静まり返った夜の山は、神秘さを通り越して、僅かに恐ろしさすら感じる。

 そんな山の中腹にて野営する、二人の男女。

 ひとりは……トレジャーハンターの青年。

 そしてもうひとりは……記憶の無い少女。


   轟轟戦隊ボウケンジャー Task:0
   PRE EPISODE-最初のプレシャス-


「…なぁ、本っ当に何も憶えてないのかよ?」
 男の問いに、少女は、一瞬びくっと肩を震わせ…しばしののち、小さく頷いた。
「……まいったな」
 短髪をわしわしとかき、溜息混じりに呟く。


 ことの起こりは、秘宝目当てに訪れたとある遺跡。
 めぼしいものも見つからず、収穫なしと早々に切り上げようとした男の目に飛び込んだのは、気を失い倒れていた少女の姿だった。
 ほぼ一糸纏わぬ姿の彼女に自分の着替えを着せ…というより、かぶせ、介抱しているうちに目覚めたが、彼女は自身にまつわる全ての記憶をなくしていたのだ。


「……わたし、なんであんなところにいたんだろう…?」
 それはこっちが聞きたい。
 頭を抱える男。

「唯一の手掛りは、その腕輪か」
 少女の左腕を飾る、それを見やる。
「なんとなくだけど……懐かしいって、かんじがする」
 少女の指が、いとおしそうに腕輪を撫でた。
「見た事無いデザインだな。どっかのブランドモノってわけでもなさそうだし」
 腕輪から身元を割り出すのは、困難に思えた。

「……あの、これからどうなるの?」
「あん?」
 少女は、自分の今後を問うているのだろう。
 普通ならば、然るべき組織、然るべき施設に預けるのが賢明だろう。何らかの事件に巻き込まれている可能性だって否定は出来ない。
 もとより自分は根無し草だ。連れまわして、彼女が幸せになるとは思えない。
「そうだな…」
「……良ければ、あなたについていっても……いいかな?」
 思わぬ言葉に、男は思わず絶句した。

「…は、はぁ!?」
「あなた、いろいろなところを旅してるって、さっき言ってたでしょ? だから、あなたについていけば、わたしのこと知ってる人に会えるかもしれない…って、思ったん…だけど………」

 だめ、かな?


 そう上目遣いに問いかける少女に、男はやれやれと溜息をついた。
「…俺はトレジャーハンターだ。旅人とは違う」
「うん、聞いた」
「つまり、とんでもなく危険なトコロにも行くぞ」
「うん、なんとなく…わかる」
「いや、わかってねえだろ。危ないっつってんだ」
「だから、教えて。トレジャーハンターのいろいろなこと」
「~~~~~~~っ」

 少女の目を見る。
 この上ない、真っ直ぐな瞳だった。

 俺がかつてトレジャーハンターを志したときも、こんな目をしていただろうか。
 そう、ひとり思う。

「…………わかったよ」
「ホント!?」
「ただし! 弱音吐いたらそこで置いていくからそのつもりでいろよ」
「うんうんうんうんっ!」

 ぱぁっと、満面の笑顔で少女が何度も頷いた。

「やれやれ。………じゃあ、名前決めないとな」
「なまえ?」
「お前の名前だよ。自分の名前知らないんだろ? これから一緒にいるんだ。名前呼べなきゃ不便じゃねえか」
 ああそうか、と思い出したように少女が呟く。
「…ったく。そうだな……」
 そういったものの、男所帯で暮らし、独りでずっと旅して来た彼に、女性の名前をつける技量は皆無に近かった。
「ん~…」
 考えあぐねているうち、ふっと夜空に光が差した。

「?」
 厚い雲に隠れていた月が、その姿を数時間ぶりに顕したのだ。
「うわぁ…きれい」
 と、少女の声。視線を向ける。
「あれ、あれっ」
 彼女が指差す先には、月明かりに照らされた草花たち。
「菜の花…か」

 夜露にぬれた黄色く小さな花が、風に揺られ、神秘的な佇まいをみせた。

「…菜……月…………」

「?」
 男の口からこぼれた単語に、少女が首をかしげる

「なつき?」
「菜月。…“菜月”でどうだ? お前の名前」


「“菜月”…かぁ」
 父親からのプレゼントを貰った娘のように、届けられた“名前”を、そっと胸に抱きしめる。

「…どうだ?」
「うん…うんっ。“菜月”……うん。私の名前、今日から“菜月”」
 心の底から嬉しそうに、少女…菜月が笑った。

「ま、名字はおいおい付けるとして…とりあえず、これからよろしくな、菜月」
「うんっ。…ええと、ところで、あなたのおなまえは?」
 言われて気付く。
 そういえば、まだ名乗っていなかった。

「……真墨だ。伊能真墨」
「“ますみ”だね。…よろしく、ますみ」
 菜月が右手を差し出し、真墨がその手を握る。首をかしげる菜月に、真墨は握手という言葉と、その意味を教えてやった。



   * * *




「あのねさくらさんっ、菜月はね~」

 あれから、2年と少し。
 2人はサージェス財団の秘密組織に所属し、新たな日常を送っていた。
 菜月の記憶は戻る気配はなく、その手掛りはなかなかつかめなかったが、彼女の底抜けな明るさは、仲間たちの心を和ませていた。

「おい菜月。いい加減その自分のこと名前で呼ぶのやめたらどうだ? ガキっぽいぜ」
 からかうように言う真墨に、菜月がぷぅ、と頬を膨らませる。
「いーのっ。菜月は、この“菜月”って名前気に入ってるんだもん。だから自分で自分の名前、呼んでるんだよ」
 そう言って、屈託なく笑う。




 ―――間宮 菜月。

 それは、かけがえの無い仲間に貰った名前。

 それは、彼女が初めて得たであろう……彼女だけの、最初のプレシャス。



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えー、2年前の作品のネタを今更持ち込む俺、参上(何

ふと見かけたウィキペディアボウケンジャー登場人物の記事にて、こんな記述を発見したのがそもそも。

“どのような経緯で現在の名前を得るに至ったかは不明”(菜月の項目より)

確かに劇中ではそれを知る術は無かった。


無いなら作ればいい! …ってサッ○ロビールも言ってたし!(何


てなわけで完全に脳内補完&妄想です。黒×黄。
当然ながらオフィシャルじゃないので信じないように(いや信じないだろ
…てゆーか既出ネタじゃないことを祈る(爆


さて、これでようやくキバSSに着手できるかな…。


…いや、多分ムリかもだけど(ぉ