しん、と静まり返った夜の山は、神秘さを通り越して、僅かに恐ろしさすら感じる。
そんな山の中腹にて野営する、二人の男女。
ひとりは……トレジャーハンターの青年。
そしてもうひとりは……記憶の無い少女。
「…なぁ、本っ当に何も憶えてないのかよ?」
男の問いに、少女は、一瞬びくっと肩を震わせ…しばしののち、小さく頷いた。
「……まいったな」
短髪をわしわしとかき、溜息混じりに呟く。
男の問いに、少女は、一瞬びくっと肩を震わせ…しばしののち、小さく頷いた。
「……まいったな」
短髪をわしわしとかき、溜息混じりに呟く。
ことの起こりは、秘宝目当てに訪れたとある遺跡。
めぼしいものも見つからず、収穫なしと早々に切り上げようとした男の目に飛び込んだのは、気を失い倒れていた少女の姿だった。
ほぼ一糸纏わぬ姿の彼女に自分の着替えを着せ…というより、かぶせ、介抱しているうちに目覚めたが、彼女は自身にまつわる全ての記憶をなくしていたのだ。
めぼしいものも見つからず、収穫なしと早々に切り上げようとした男の目に飛び込んだのは、気を失い倒れていた少女の姿だった。
ほぼ一糸纏わぬ姿の彼女に自分の着替えを着せ…というより、かぶせ、介抱しているうちに目覚めたが、彼女は自身にまつわる全ての記憶をなくしていたのだ。
「……わたし、なんであんなところにいたんだろう…?」
それはこっちが聞きたい。
頭を抱える男。
それはこっちが聞きたい。
頭を抱える男。
「唯一の手掛りは、その腕輪か」
少女の左腕を飾る、それを見やる。
「なんとなくだけど……懐かしいって、かんじがする」
少女の指が、いとおしそうに腕輪を撫でた。
「見た事無いデザインだな。どっかのブランドモノってわけでもなさそうだし」
腕輪から身元を割り出すのは、困難に思えた。
少女の左腕を飾る、それを見やる。
「なんとなくだけど……懐かしいって、かんじがする」
少女の指が、いとおしそうに腕輪を撫でた。
「見た事無いデザインだな。どっかのブランドモノってわけでもなさそうだし」
腕輪から身元を割り出すのは、困難に思えた。
「……あの、これからどうなるの?」
「あん?」
少女は、自分の今後を問うているのだろう。
普通ならば、然るべき組織、然るべき施設に預けるのが賢明だろう。何らかの事件に巻き込まれている可能性だって否定は出来ない。
もとより自分は根無し草だ。連れまわして、彼女が幸せになるとは思えない。
「そうだな…」
「……良ければ、あなたについていっても……いいかな?」
思わぬ言葉に、男は思わず絶句した。
「あん?」
少女は、自分の今後を問うているのだろう。
普通ならば、然るべき組織、然るべき施設に預けるのが賢明だろう。何らかの事件に巻き込まれている可能性だって否定は出来ない。
もとより自分は根無し草だ。連れまわして、彼女が幸せになるとは思えない。
「そうだな…」
「……良ければ、あなたについていっても……いいかな?」
思わぬ言葉に、男は思わず絶句した。
「…は、はぁ!?」
「あなた、いろいろなところを旅してるって、さっき言ってたでしょ? だから、あなたについていけば、わたしのこと知ってる人に会えるかもしれない…って、思ったん…だけど………」
「あなた、いろいろなところを旅してるって、さっき言ってたでしょ? だから、あなたについていけば、わたしのこと知ってる人に会えるかもしれない…って、思ったん…だけど………」
だめ、かな?
そう上目遣いに問いかける少女に、男はやれやれと溜息をついた。
「…俺はトレジャーハンターだ。旅人とは違う」
「うん、聞いた」
「つまり、とんでもなく危険なトコロにも行くぞ」
「うん、なんとなく…わかる」
「いや、わかってねえだろ。危ないっつってんだ」
「だから、教えて。トレジャーハンターのいろいろなこと」
「~~~~~~~っ」
「…俺はトレジャーハンターだ。旅人とは違う」
「うん、聞いた」
「つまり、とんでもなく危険なトコロにも行くぞ」
「うん、なんとなく…わかる」
「いや、わかってねえだろ。危ないっつってんだ」
「だから、教えて。トレジャーハンターのいろいろなこと」
「~~~~~~~っ」
少女の目を見る。
この上ない、真っ直ぐな瞳だった。
この上ない、真っ直ぐな瞳だった。
俺がかつてトレジャーハンターを志したときも、こんな目をしていただろうか。
そう、ひとり思う。
そう、ひとり思う。
「…………わかったよ」
「ホント!?」
「ただし! 弱音吐いたらそこで置いていくからそのつもりでいろよ」
「うんうんうんうんっ!」
「ホント!?」
「ただし! 弱音吐いたらそこで置いていくからそのつもりでいろよ」
「うんうんうんうんっ!」
ぱぁっと、満面の笑顔で少女が何度も頷いた。
「やれやれ。………じゃあ、名前決めないとな」
「なまえ?」
「お前の名前だよ。自分の名前知らないんだろ? これから一緒にいるんだ。名前呼べなきゃ不便じゃねえか」
ああそうか、と思い出したように少女が呟く。
「…ったく。そうだな……」
そういったものの、男所帯で暮らし、独りでずっと旅して来た彼に、女性の名前をつける技量は皆無に近かった。
「ん~…」
考えあぐねているうち、ふっと夜空に光が差した。
「なまえ?」
「お前の名前だよ。自分の名前知らないんだろ? これから一緒にいるんだ。名前呼べなきゃ不便じゃねえか」
ああそうか、と思い出したように少女が呟く。
「…ったく。そうだな……」
そういったものの、男所帯で暮らし、独りでずっと旅して来た彼に、女性の名前をつける技量は皆無に近かった。
「ん~…」
考えあぐねているうち、ふっと夜空に光が差した。
「?」
厚い雲に隠れていた月が、その姿を数時間ぶりに顕したのだ。
「うわぁ…きれい」
と、少女の声。視線を向ける。
「あれ、あれっ」
彼女が指差す先には、月明かりに照らされた草花たち。
「菜の花…か」
厚い雲に隠れていた月が、その姿を数時間ぶりに顕したのだ。
「うわぁ…きれい」
と、少女の声。視線を向ける。
「あれ、あれっ」
彼女が指差す先には、月明かりに照らされた草花たち。
「菜の花…か」
夜露にぬれた黄色く小さな花が、風に揺られ、神秘的な佇まいをみせた。
「…菜……月…………」
「なつき?」
「菜月。…“菜月”でどうだ? お前の名前」
「菜月。…“菜月”でどうだ? お前の名前」
「“菜月”…かぁ」
父親からのプレゼントを貰った娘のように、届けられた“名前”を、そっと胸に抱きしめる。
父親からのプレゼントを貰った娘のように、届けられた“名前”を、そっと胸に抱きしめる。
「…どうだ?」
「うん…うんっ。“菜月”……うん。私の名前、今日から“菜月”」
心の底から嬉しそうに、少女…菜月が笑った。
「うん…うんっ。“菜月”……うん。私の名前、今日から“菜月”」
心の底から嬉しそうに、少女…菜月が笑った。
「ま、名字はおいおい付けるとして…とりあえず、これからよろしくな、菜月」
「うんっ。…ええと、ところで、あなたのおなまえは?」
言われて気付く。
そういえば、まだ名乗っていなかった。
「うんっ。…ええと、ところで、あなたのおなまえは?」
言われて気付く。
そういえば、まだ名乗っていなかった。
* * *
「あのねさくらさんっ、菜月はね~」
あれから、2年と少し。
2人はサージェス財団の秘密組織に所属し、新たな日常を送っていた。
菜月の記憶は戻る気配はなく、その手掛りはなかなかつかめなかったが、彼女の底抜けな明るさは、仲間たちの心を和ませていた。
2人はサージェス財団の秘密組織に所属し、新たな日常を送っていた。
菜月の記憶は戻る気配はなく、その手掛りはなかなかつかめなかったが、彼女の底抜けな明るさは、仲間たちの心を和ませていた。
「おい菜月。いい加減その自分のこと名前で呼ぶのやめたらどうだ? ガキっぽいぜ」
からかうように言う真墨に、菜月がぷぅ、と頬を膨らませる。
「いーのっ。菜月は、この“菜月”って名前気に入ってるんだもん。だから自分で自分の名前、呼んでるんだよ」
そう言って、屈託なく笑う。
からかうように言う真墨に、菜月がぷぅ、と頬を膨らませる。
「いーのっ。菜月は、この“菜月”って名前気に入ってるんだもん。だから自分で自分の名前、呼んでるんだよ」
そう言って、屈託なく笑う。
―――間宮 菜月。
それは、かけがえの無い仲間に貰った名前。
それは、彼女が初めて得たであろう……彼女だけの、最初のプレシャス。
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えー、2年前の作品のネタを今更持ち込む俺、参上(何
“どのような経緯で現在の名前を得るに至ったかは不明”(菜月の項目より)
確かに劇中ではそれを知る術は無かった。
無いなら作ればいい! …ってサッ○ロビールも言ってたし!(何
てなわけで完全に脳内補完&妄想です。黒×黄。
当然ながらオフィシャルじゃないので信じないように(いや信じないだろ
…てゆーか既出ネタじゃないことを祈る(爆
当然ながらオフィシャルじゃないので信じないように(いや信じないだろ
…てゆーか既出ネタじゃないことを祈る(爆
さて、これでようやくキバSSに着手できるかな…。
…いや、多分ムリかもだけど(ぉ