炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】-盤 戦-<中編>


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 パァン、と乾いた音が響き、盤面に木製の駒が叩きつけられる。

 先攻は零だ。

 すかさず、後攻をとった男が白い駒を前進させる。

『ねぇ、ゼロ? 本当に寿命を賭けるつもりなの? いくらなんでも…』
「賭けるさ。向こうが賭けてきたなら、こっちだって賭けなきゃ勝負にならないだろう?」
 そういいながら、次いで駒を動かす零。
『でも…』
 心配そうな口調のシルヴァ。

 ただでさえ、明日を知れない身の魔戒騎士である。魔道具との“契約”で、月に一日分の寿命を提供もしている。
 今ここで敗北し、20年の寿命を削られてしまえば、今日明日にでも寿命に達してしまう可能性も決して低くはないのだ。

「大丈夫さ。俺だってバルチャスをなんどもやってきた……っと。そう簡単に負けはしないさ」
 にやり、と笑みを浮かべ、相手の白い駒に自陣の赤い駒を重ねる。

「さぁ、行くぜ!」
 重ねられた二つの駒を立たせ、両者が目を閉じ、念を込める。
 駒を中心に浮かび上がった念のヴィジョンが、二人の騎士の影を生み出し、剣を交える。

「……んっ!」
「っは…!」

 二度、三度。騎士のヴィジョンが剣を振るい、火花を散らせる。
 刹那、わずかに乱れた片方の影の隙を突き、もう片方の影が剣を大きく振るった。

 一閃、軌跡が煌き、斬られた側の影が霧散した。

「……ちぃっ」
 白い駒が跳ねとび、男の頬を掠めて破裂した。

「……な?」
 零が、シルヴァに軽くウィンクしてみせた。


   *


 ―――数刻。

 文字通り一進一退の攻防が続く。

「…なぁ」
 ふと、零が口を開く。パチリ、と静かに駒を置いた男が、眉を動かした。
「あんた、なんでバルチャス打ちなんてことやってるんだ? そのカッコ、あんたもともと魔戒法師なんだろ?」
 自陣の駒を進め、相手の反応を待つ。…と、男は乾いた笑い声をあげた。

「なんて事ァねえさ。俺はバルチャスを指してるときの、この感覚がたまんなく好きなのさ」

 駒を重ね、何度目かの念戦が始まる。今度は零の駒がはじけとんだ。

「バルチャスは、素の戦いって言っていい。魔戒騎士と魔戒法師だって、こうやってガチでタイマン張れる。そこには、何の制約もねえ。強いか弱いか。…勝つか、負けるかだ」

 にやり、と浮かべた笑顔。その奥に見えたわずかな狂気にも似た雰囲気に、零は思わず息を呑んだ。

『ゼロ!』
 駒を動かす手が止まり、シルヴァが指摘する。慌てて駒に触れようとしたが、時は無常に過ぎ去る。
 今まさに動かそうとしていた駒が跳ね上がり、破裂した。
「…っ」
「はっは。油断大敵ってヤツだぜ、魔戒騎士さんよ」
 からからと笑い、回ってきた手番を有効に使わんと駒を握る。

(…まずいな)

 ある程度の戦術を踏まえて駒を動かしていた零であったが、ここに来て駒をひとつ失ったことが大きな誤算となっていた。
 吹き飛ばされたのは、これからの陣の組み方には必須であった“法師”の駒。
 これなくしては、自陣に穴が開いてしまうのと同義であったのだ

「どうした? 考え込むのは、この戦いじゃ命取りだぜ?」
 男の声にはっと我に返る。
 そうだ、これは<早指しバルチャス>。わずかな迷いが駒の喪失を招き、それはすなわち敗北につながるのだ。

 ひとつ、深呼吸をする。

 そして、駒を運んだ。


「……何?」
 その“手”に、男が訝しげな表情を向ける。

「油断はしない。負ける気もない。……足掻かせてもらうぜ」

 零が、不敵な笑みを浮かべた。


   -つづく-


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 まただよ…また前後編で中編とか入れてるよ俺…orz


 前回のあとがきでのぼやきが現実のものになっちまったw

 …ま、いいけどな(いやダメだろ


 ちなみに、バルチャス打ち(名前はまだない)ですが、ビジュアルイメージがプロットの段階から腑破十臓なんですよねぇw

 性格はあんまり似てない気もするんですがががw

 まぁ、バルチャスという「戦い」に享楽するあたりはちょっと近いのかもしれませんが(ぇ

 次回、決着!


 …いや、ちゃんとしますよ?