炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

Before GREEN/シーン4

 ――時間は少しさかのぼる。

『コミューン・グランデに告ぐ! ここに賞金首の海賊どもがもぐりこんでいると言う通報があった! おとなしく引き渡してもらおうか!!?』

 とり囲むザンギャックの艦隊をモニター越しに睨み付けながら、ドクはキセルを咥え一息に吸い込んだ。

「……知らんな」

 紫煙とともに吐き出される返答を、しかしザンギャックの下士官聞く耳を持たない。

『じじい、ここで嘘をついても誰も得をせんぞ。我々は賞金首を捕らえる。貴様らはわれらの庇護の下仕事が続けられる……悪くない取引だとは思わんか?』
「ああ、悪い取引だの」

 軽快にキセルを振るい、火種を捨てるドク。その先端をモニターのザンギャック艦隊に突き詰め、低く声を荒げた。

「わしらはどちらの味方もせんよ。強いて言うのならば、この“宇宙”と言う名の海の味方じゃわい。それが証拠に、あんたらザンギャックの艦の修理も請け負うとるじゃろうが」

 ザンギャックの侵攻が激化して尚、コミューン・グランデは中立を貫いてきた。広大な宇宙の中では非力な存在でしかない人間を守る、艦という揺り篭。それを造り、治し、守ってきた……男たちの矜持であり、美学なのだ。

『頭が固いなじじい。いずれこの宇宙すべてが我らザンギャックのものになる! ならば貴様らコミューン・グランデも我らのものとなる。……それが少しばかり早まると言うだけの話だろう?』
「たとえ宇宙のすべてがあんたらのものになろうが、わしらはわしらじゃ。コミューン・グランデはあんたらの下につく気は毛頭ない」

 両者の間に厭な沈黙が流れる。それを破ったのは、ザンギャックの下士官の方だった。

『全艦に告ぐ! 賞金首の海賊どもを一網打尽にせよ! “障害物は排除しても構わん”ッッッ!』

 覚悟をすべきときか。ドクが奥歯をかみ締めた瞬間、爆音とともに大きな揺れが襲い掛かった。

「ぐっ……!」

 手元の伝声管を一斉に開き、コミューン・グランデ全域に檄を飛ばす。

「野郎ども、迎撃用意――」
『その必要はねえ』

 ドクの言葉を遮る、男の声と砲撃音。グレートホース級が1隻、主翼ビーム砲の餌食となって大破した。

『ようドク。修理が終わったから出てくぜ。ついでに……邪魔者ちょっくら蹴散らしとく』
 そう言って、マーベラスが操舵輪を思い切り回す。側面の砲門がいっせいに艦隊をにらみつけた。

「左舷、ガレオン砲……てぇーっ!!!」


 ・
 ・
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 マーベラスの操るゴーカイガレオンが、獅子奮迅が如く艦隊と渡り合う。
 しかし、多勢に無勢が過ぎる。ただでさえ目立つ真紅の船影はいい的だ。

「ああもう……っ」

 ハラハラしながら戦況を見守るドン。と、そこへ二人分の足音が駆け込んできた。

「ちょっと! 今戦ってるのマーベラス!?」
「なんで行かせた! いくらあいつでもあの数は無茶だ!」

 ドンに詰め寄るジョーとルカ。そのまなざし、その表情が、あの豪放磊落なキャプテンを信頼し、また今まさに心配しているであろうことを覗わせる。
 そんな二人を見て、ドンはあることを思い出す。

「ねえ二人とも!」
「?」

 真剣に目を見開くドンに、二人の視線が集中する。なれない空気に言葉を詰まらせそうになりながら、ドンは力強く口を開いた。

「あいつを……マーベラスを助けるよ!!!」


   * * *


「ちぃっ……」

 背後からの衝撃に、操舵輪を握り締めて堪えながら、マーベラスが歯噛みする。
 大見得を切って出てきたが、流石にこの数を相手取るのは難易度が高い。

「んなろぉっ」

 操舵輪を回す。が、反応が悪い。

「くそ……修理は終わったんじゃなかったかあの野郎」

 少なくとも終わったとは言っていないし、オーバーホールも必要だとドンは言っていたのだが、今のマーベラスにそれを思い出す余裕はない。

『ワハハハ、無様だな海賊! おとなしく潰れろぉ!!!』

 下士官の下卑た笑い声をにらみつけるマーベラス。反撃に転じようにも残された手札はもうない。

『お前がな……!』
『何……うおぉっ!!?』

 爆風に包まれるザンギャック艦隊。マーベラスが砲撃の跳んできた方角を見やると、4機の中型スペースマシンがこちらに進んできていた。

『生きてる? マーベラス!』
「はっ、俺は殺したって死なねえよ!」

 軽口交じりのルカの問いに同じく軽口で応える。次いで通信回線に飛び込んできたドンは、モニターにマーベラスの顔を見るや否や大声を上げた。

『だから無茶だって言ったでしょ!? 修理だって万全じゃなかったのに!』
「あぁ、そうみてえだな。……だがここでお前らが来るってことは……」

 手があるんだろ?

 そう問いかけるマーベラスの瞳に、あきらめの色は欠片も見受けられない。

「……まあね。いいかいマーベラス。ゴーカイガレオンは、それ1隻だけじゃ真の力は発揮できない。今からその力を……解放するよ!」

 緑色のレーシングカーを模したスペースマシン……<ゴーカイレーサー>に乗るドンが、コンソールのキーを恐ろしいまでのスピードで叩く。サブモニターに膨大な量の文字列が並び、やがてすべての工程が終了した。

「システムのセーフティーロック、すべて解除! キーワードインプット……<G・O・K・A・I・O・H>」

『えっ!?』
『こいつは……』
『……ほぅ、おもしれえじゃねえか……!』

 ジョーの乗る<ゴーカイジェット>、ルカの乗る<ゴーカイトレーラー>、そしてガレオンのサブモニターに浮かび上がるプログラムデータに、三人が驚きと興奮の声を漏らす。

マーベラス、合体コードを! ……<海賊合体>だ!」

「ようっし……行くぜ!!!」


 ―――海賊合体!!!


 宇宙に、赤き雄たけびがこだました。


   -つづく-



 なんかいろいろ混ざってる気がするが気にしない。
 シーンを切る部分をどこにするか悩みながら書いてました。結局こうなりましたが。はてさて。