「あぁ、ヒダ隊員。それが…」
受付の男が視線を青年に向ける。と、それに気付いたヒダ隊員と呼ばれた男がつかつかと青年に歩み寄った。
「おお、誰かと思えば今年唯一の受験生クンか」
「…知ってるんですか?」
確か彼は試験官としては参加していなかったはず。それを思い出して怪訝そうにヒダの顔を見る。
「そりゃァな。年々受験生が減ってるから受験生の名前と顔は大体憶えてるんだよ。ましてや今年はお前さん1人だけだったからな。忘れようにも忘れられンさ」
がはは…と笑いながらべしべしと青年の肩を叩く。
「で、その受験生が何の用だ…アマツ・ユウキ君?」
大柄な体格とは対照的に穏やかな物腰で語りかけるヒダに、ユウキと呼ばれた青年はずいっと合否判定書と自己採点したペーパーテストの問題用紙を突き出した。
「ペーパーテストの点数が低すぎます。採点ミスじゃないんでしょうか?」
「ふむん…?」
眼前に突きつけられた書類を嘗めるように目を通し、ヒダは大きく頷いた。
「なるほど、こりゃひでぇな」
「採点のやり直しを要求したいんです!」
ここぞとばかりに食って掛かるユウキをヒダは両手を出して制した。
「…だが悪いな、その採点は間違いじゃない」
「そんな! …自己採点では完璧だったんですよ!?」
ヒダの言葉に、ユウキはやはり納得できない。
「ああ。確かにお前さんの答えはほぼ完璧だった。今所属してるD.R.A.G.O.N.のメンバーでだって、アレだけの正解率はそうそう叩き出せねぇ」
「それなら何で…!?」
「ズレてたんだよ」
「…は?」
「いや、だから。ズレてたの。お前さんの答え、解答欄がひとつずつな」
途端にユウキの表情がこわばる。…やがてそのときの状況を思い出したのか、顔が真っ青になった。
「…思い当たるフシ、あったみてぇだな」
「…ぐ」
まさしく、グウの音も出ない。さっきまでの勢いはどこへやら、と言った感じで黙りこくってしまうユウキ。
「まぁ、運が悪かったと思って諦めな。なァに、試験は来年にもあるんだ。そん時にがんばれや」
「…来年じゃ、ダメなんです。今年じゃなきゃ……」
うつむいて唇を噛み締めながら、ユウキが呟く。
「ンなこと言ったってなァ…」
「お願いです! 一度だけ…一度だけでいいですから、僕にチャンスを…!」
すがるように訴えるユウキに、ヒダが真顔でにらみつけた。
「…そう簡単にやり直しが効くならな、誰も苦労なんかしねぇんだよ」
ヒダはユウキの頭をわしゃわしゃと撫で回すと、くるりと回れ右して基地内へと戻っていった。
「来年、またチャレンジしに来いよ~」
背中越しに手をヒラヒラと振って。
「……ッ!」
後に残されたユウキは声に鳴らない憤りを抑えながら、踵を返し支部を後にした…。
-つづく-
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思いのほか進行しない…
こっちはキャライベント重視なのか?
…って書いてるの俺だっての。