炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのいち/しーん4

「あ、これおいしい♪」
 口にしたイチゴシェイクにすずりがとろけた笑顔を浮かべる。
「…えーと、あのさ」
 康助が声をかけると再びストローを口にくわえたすずりがきょとんとした顔でこちらを見た。
「手紙の…コト、なんだけど」
 ラブレターの話題を出した途端、すずりの頬が瞬時に桜色に染まる。
「や、照れてるところ申し訳ないんだけどね。…アレ、君あてじゃないんだ」
「…え?」
 目が点になる。
「手紙…ひょっとしたら俺、宛名書いてなかったかもしれないんだけど…昨日、別のコに渡すつもりだったんだよ」
 ポケットから手紙を引っ張り出して確認する。目をきょろきょろと数度動かした後、すずりはおずおずと手紙を康助に手渡した。
「…書いて、ないですね…」
 その声は明らかに落胆の色を帯びていた。
「ま、まぁ…本人かどうかもロクに確認せずに渡した俺も悪かったんだし…その…」
「あーっ、もぅじれったいわねっ」
 謝罪の言葉を伝えようとした康助をさえぎるように縁が口を開いた。
「いい? 要するにあなたの勘違い。ってゆーか、お互い会ったことも無いのにいきなりラブレターとかって、おかしいと思わないの? 大体、康助にはちゃんと好きな人がいるんだから。あなたじゃない、もっといいコの、ね!」
 矢継ぎ早にまくしたてる縁に、呆然となる康助ら男性陣。すずりはというと、完全に色を失った表情で呆然と縁を見つめていた。
「ちょ、ちょいと風間、言い過ぎ言い過ぎ…」
 声をかける辰平だが、縁にギロリと睨みつけられ、黙りこくる。
「どうしたんだよ縁…なんかヘンだぜ?」
「変じゃない!」
 康助の言葉にも噛み付く始末だ。
「な、何イラついてるんだよ?」
「イラついてないってば、あたしはいたって冷静よっ! …大体ね、あんたがそんな風だからあたしまでやきもきしなきゃならないんじゃない! それに…」
 縁の怒りの矛先が康助に向けられる。と、その康助の肩をちょんちょんと淳がつついた。
「?」
「伊賀野…彼女、いなくなってるんだけど?」
 えっ? と康助が向かいの席を見ると、そこに座っていたはずのすずりの姿が消えていた。
「いつの間に…?」
 首をかしげる辰平。康助は周囲に視線を向けた後、やおら立ち上がった。
「俺、探してくるっ」
 そう言いながらサイフから1000円札を取り出して「これ俺とあのコの分な」と机に放り出す。
「ちょっ、待ちなさいよ康助!?」
 縁の抗議の声をよそに、康助は店を飛び出した。


「…って、何処いったんだろ…?」
 昨日の猛烈なスピードで走り去ったすずりを思い出す。いなくなったのはついぞ1分前のことだが、彼女の身体能力を持ってすれば、あっという間にこの町内を脱するのはたやすいだろう。
「でも、今度はちゃんと見つけないと…見つけて、謝らないと……」

「…あら、伊賀野君?」
 と、背後で聞き覚えのある声がした。
「あ…杠葉、さん」
 腰まで伸びた柔らかな髪の毛がふわりと揺れる。級友に気付いた美少女は軽やかな足取りで康助に近づいた。
「どうしたの? 帰り道?」
「あ、いや…まぁ、似たようなもの…かな?」
 口を濁す康助に少し首をかしげるしぐさをする瑞樹。が、すぐに姿勢を戻すと
「ね、一緒に帰らない?」
 と康助を誘った。
「え…?」
 初めての申し出に、康助は耳を疑う。
「一人で帰るのも、ちょっと味気なくてね~」
 ころころと笑う瑞樹。
「…いや、ごめん。今日は遠慮しとく」
 康助にしてみれば、願っても無い事態だっただろう。ひょっとしたら、二度とない一大イベントかもしれない。
 だが、それ以上に…
 あの時の…最後に見た、泣きそうな表情のすずりが脳裏をよぎった。
「…そっか。それじゃあしょうがないね」
「ごめんね。この埋め合わせは、いずれするからさ」
「いいのいいの。単に私のワガママだったんだし」
 少し残念そうな笑みを浮かべながら、瑞樹がそう言った。
「じゃ、また明日ね♪」
 ひらひらと手を振って、瑞樹は帰路につく。
「ああ。また…」
 康助もそう応えて、雑踏の中へと駆け出した。


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 縁は悪い子じゃないんですよ。つーか康助が全面的に悪い(ぇ

 彼女は所謂ところの世話焼き系幼なじみというやつです。それに少々ツンデレが入ってますが(何