炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【オリジナル】かのくの

そのよん/しーん3

「ふぅん、なかなかいいふいんきじゃね?」 「なぜか変換できない…」 「……なにやってんのあんたら」 遊園地のマスコットキャラの着ぐるみの陰から二人の様子を伺う辰平と淳に、ジト目を向ける縁。 「わあっ、ありがとうございます~」 「ってこっちはこっち…

そのよん/しーん2

バスでの移動から、康助は既に舞い上がっていた。 いつも学校では二言三言会話できればいいほうで。 だが、今日はかなりの頻度で会話をしている。 …と言っても、瑞希からの質問に応えているのが主なのだが。 (それでも、メアドとか誕生日とか聞いて来たのは…

そのよん/しーん1

太陽が控えめな光と熱をふわりと地上に届ける。 天気は快晴。暑すぎず寒すぎず、丁度いい塩梅。 つまりは、行楽日和というやつである。 「…………」 待ち合わせ場所にと指定した駅前の矢ネコ像の傍で、康助がふぅ、と溜息をつく。 「早く来過ぎ、たな」 約束の…

そのよん/あばんたいとる

―――待ちに待った放課後が来た。 大急ぎで飛び出した私は、いつもどおりに康助さんのところへ向かう。 今日も一緒に帰って…そ、そろそろ手くらい繋いじゃってもいいかな…な、なんて思ってみたり。えへへ……。 …あ、康助さんいた! 丁度教室から出るところだっ…

そのさん/しーん5

授業が終わり、家庭科室から生徒達が出てくる。 クラスメイトたちから少し遅れて歩く瑞樹の足取りは重く、表情は沈んでいた。 「あーあ…」 溜息を零しながら、紙袋の中に入ったカップケーキを眺める。 何度見直したところで、黒焦げになったそれは黒焦げのま…

そのさん/しーん4

そして、月曜日。 家庭科・調理実習の当日である。 「おはー、瑞…きっ!?」 いつものように声をかけた縁の顔が凍りついた。 「あ~…おはー、ゆか」 振り返った瑞樹は、傍目でもすぐ判るほどにやつれ、形容しがたいオーラを身に纏っていた。 「ど、どうした…

そのさん/しーん3

そして、土曜日。 「それじゃ、始めましょ」 「よ、よろしくおねがいします…」 杠葉邸の台所…というより、厨房…に、3人の姿があった。 「えーと、調理実習ってなにやるんだっけ?」 「クッキーよ。普通のプレーンクッキー」 瑞樹が、家庭科の教科書を広げて…

そのさん/しーん2

「ゆ・か・ちゃ・ん」 背後から猫なで声をひっかけられ、縁の背筋が一瞬震える。 「な、なによ瑞樹?」 振り返ると、親友の姿。 瑞樹が自分のことをちゃん付けするとき、何かしら頼みごと を聞かされてしまう。 いままでの経験上それを理解していた縁は、身…

そのさん/しーん1

「こーすけさーんっ」 昼休みにぴょこりと顔を出すすずりの姿は、クラスメイトの間でも既に日常と化していた。 それがたとえ、3階の外側の窓からであろうとも。 まったく、慣れというものは恐ろしいということである。 「お昼、もういただいちゃいました?…

そのさん/あばんたいとる

「…ふぅ」 お風呂上りでほてった肌に、夜風が心地よく流れていく。 コンポの電源を入れて、いつものラジオ番組を聴く。 DJのトークと洋楽が大好きで、時々ハガキも送ったりしてる。 ゆかに話したら、「そんなのお嬢様のやることじゃないわよ」って言ってい…

そのに/しーん6

それから二人が体育倉庫を脱出するまでには10分とかからなかった。 『どうしたんですですかぁ?』 格子のかかった窓越しに顔を覗かせた、すずりのなんとも間延びした声に、二人は安堵と同時に含み笑いを浮かべた。 * 数日前、 『何かあったらこれでわたし…

そのに/しーん5

しん、と静まり返った空間に、鈍い打撃音が連続して響く。 「おーい! 誰かいないのか!? 開けてくれってー!」 あらん限りの大声で叫ぶ康助だったが、返事は一向に返ってこない。 格子の嵌められた窓からの光は既に消えうせ、外は夜になりつつあった。 「……

そのに/しーん4

「おーい、来たぞ?」 終業のベルとともにとっとと教室を出て行った縁を追いかけるように、康助が体育館の裏手に顔を出す。 「…ってアレ?」 呼び出した当人の姿が見えない。 「ったく、どこにいるんだか…っと!」 ボヤく康助の襟首が急に引っ掴まれて後ろに…

そのに/しーん3

―――翌日。 「…ゆか、伊賀野君。おはよう」 いつもどおり3人で登校する康助たちに、瑞樹が声をかけた 。 「あら、瑞樹じゃない。珍しいわね。いつもならもう教室に居る時間じゃない?」 「ふふ。ちょっとお寝坊さんしちゃって」 舌をちろりと出してくすっと…

そのに/しーん2

かくて、疾風の様に時は過ぎ―――放課後。 「そーいや、俺ら結構帰る時間決まってないけど、その割にはいつの間にか来てるよな、すずっちってばさ」 辰平が思い出したように言った。 「ああ、それなら…」 言葉を濁す康助に、首をかしげる辰平と康助。やがて、…

そのに/しーん1

「康助ー、起きてるー?」 呼び鈴と同時に縁の声が響く。 「起きてるからそんな大きな声出すなよ~」 ドア越しに康助のやや情けない声がした。 待つこと2分。 「お待たせ」 「じゃ、行こ。…おばさん、いってきまーす」 「いってきます」 玄関に顔を覗かせた…

そのに/あばんたいとる

2007年7月。 飽きてないよね?まだ飽きてないよね? ---------------------------------------------- ―――それは、遠い日のこと。 憶えてなくても、別にいいハズの記憶。 でも…ずっと憶えていたい記憶。 幼か…

そのいち/しーん5

少し寂れた商店街を、ひとり歩くすずりの姿があった。 「…はぁ」 時折漏れる溜息は、限りなく寂しく、軽やかなはずの足取りは、限りなく重かった。 勘違いで浮かれて、間違いを指摘されて。 彼女の心は暗く沈む。 「…どこだ…?」 雑踏を抜け、人通りがまばら…

そのいち/しーん4

「あ、これおいしい♪」 口にしたイチゴシェイクにすずりがとろけた笑顔を浮かべる。 「…えーと、あのさ」 康助が声をかけると再びストローを口にくわえたすずりがきょとんとした顔でこちらを見た。 「手紙の…コト、なんだけど」 ラブレターの話題を出した途…

そのいち/しーん3

「あのっ」 校門に滑り込んだ康助が少女に声をかける。気付いた少女が視線を彼に向けると、その表情は瞬時にぱぁっと明るくなった。 「えっと、昨日の…」 「伊賀野さんですよねっ!?」 康助の声をさえぎって少女が飛び込むように近づく。互いの吐息が感じら…

そのいち/しーん2

―――かくて放課後である。 「さて…」 やおら腰を上げた康助の肩を辰平が叩いた。 「ドコ行くんだ?」 「昨日のコを探しにね。どうにかあの手紙を返してもらわないとさ」 瑞樹に出す出さない以前に、ラブレターが他人の手にあるのは正直嫌なわけである。 「な…

そのいち/しーん1

朝。 校庭に涼やかな風が舞い、木漏れ日が教室を照らす。 「うぉい~っす」 軽快なステップとともに教室に入る少年に、既に室内に居た面々が挨拶を返す。 「はよっ、辰平」 「おぅ、風間。今日も地味に可愛いな♪」 「地味は余計だっつーのっ」 跳ねた後ろ髪…

そのいち/あばんたいとる

2007年2月。 我が想い人に捧ぐ。 ----------------------------------------------- 「あっ、あのっ…!」 落ち着け…落ち着け俺… 目を閉じて…深呼吸して… 「ごめんなさい、突然呼び止めたりして…」 渡す…