炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのよん/しーん1

 太陽が控えめな光と熱をふわりと地上に届ける。
 天気は快晴。暑すぎず寒すぎず、丁度いい塩梅。
 つまりは、行楽日和というやつである。

「…………」

 待ち合わせ場所にと指定した駅前の矢ネコ像の傍で、康助がふぅ、と溜息をつく。
「早く来過ぎ、たな」
 約束の時間は10時半。現時刻は10時少し前。ついてからやっと30分ほどが経過した。
「…まあ、さすがに1時間半前に来てもなァ……」
 浮かれすぎだ、と苦笑する。

 誘いを受けてくれたことに、嬉しさ思う反面、すこしばかりの疑問も浮かぶ、
 彼女は社交的ではあるが、この手の誘いはほぼ全て断っていたことを知っているからだ。
 遊園地然り、動物園然り。おおよそ世間一般で言うところの「デート」と言うものに関してはやんわりとはぐらかしてスルーしていた。他の男子生徒からの誘いがあるやいなや速攻で聞き耳を立てていた康助である。その情報は揺ぎ無く歪み無い。

 そんな彼女が、である。
 彼等となんら変わらない“男子生徒A”に過ぎない―――いやまぁ、縁の力添えもあって最近言葉を交わすことが多くなってきたから一応“友人”とは思ってもらっているだろうが―――康助が、なぜ誘いを受けてもらえたのか。

(ひょっとして、杠葉さんも俺のこと…)
 そう思いかけて、首を大きく振る。
「まっさかね~……」
「何が?」
「え?…ってうおっちゃ!?」
 いつの間にか背後にいた瑞希に驚き、ありえないくらいに声がひっくり返る。

「わ、びっくりした」
「……ごめんそれこっちのセリフ」
 口から飛び出そうになった心臓を慌てて飲み込み、平静を装ってみせる。
「っていうか、まだ約束の時間じゃないはずだけど?」
 康助がそう言うと、瑞希は照れくさそうに微笑った。
「ん……ちょっとね、待ちきれなかったって言うか」

 ……うおお、可愛い…

「そ、そっか……」
 強烈なまでの可愛らしさに、康助は正視できずに視線を逸らす。
「うん、まぁ…。…あ、バス来たよ」
「あ。ほんとだ。どうする? 予定してたのよか1本早い便だけど」
「乗っちゃいましょ。楽しいことは早い方がいいもの」
 それもそうだ、と康助が頷き、瑞希と連れ立ってバスに乗り込んだ。

 ・
 ・
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「……むぅ、1本先のバスに乗るとは想定外だったぜ」
 目つきの悪い矢ネコ像の陰で辰平が苦い顔で呟いた。
「やっぱ俺たち、現地集合の方が良かったんでない?」
 その顔の下で、淳が声をかける。
「ねぇ、もうやめない? 悪趣味だよこんなの」
 辰平の頭上からは縁の声。
「そうはいかねえよ風間。こんな面白いイベントそうはねえからな」
 きしし…とイヤな笑い方をする辰平に、縁、ドン引きする。
「…ところで、一番乗り気だったくのいち嬢はまだ来ないのん?」
 淳の声に、そういえば…と縁が顔をあげる。ここにいるのは辰平、淳、縁の三人だけだ。
「一足先に現地行ったとか?」
「いや、一応ここ集合って言ったんだけどな…」




「来てますよ?」




「うお!」
 気付くと、背後にくのいち嬢ことすずりの姿。
「い、いつの間に…」
「…えとと…“むろん、きでんのきづかぬうちに”…ですですよ♪」
 どこかで聞いたようなセリフを棒読みで言ってみる。
「さ、それじゃ行きましょう!」
 全員集合を確かめるのもそこそこに、すずりが勇んで歩き始める。




「…………ってちょっと待て」
 と、そのすずりを辰平が呼び止める。
「?」
「……なんだその恰好は?」

 そう辰平が指摘するすずりの姿は……

「はい、忍装束です」
「……なんで?」
「や、目立たないようにと言われたですから」
 確かに忍装束は、目立たないようにと造られた物ではある。
 …だがそれは、あくまで夜間等における忍としての任務においてのみであろう。


「余計目立っとるわ! さっさと着替えてらっしゃい!!」

 辰平の激昂が晴天に響いた。


  -つづく-


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 忍装束は、夜間目立たないことを目的にしていることから、色は黒だと思われがちだけど、実は黒だと輪郭が見えたりして逆に目立つんだよね。だから実際は紺や茶系の色(柿色とか)が主に使われていたようです。ん、トリビアトリビア

 とりあえず、すずりでやりたかったネタ第2弾、無事消化(ぇ