炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのさん/しーん1

「こーすけさーんっ」
 昼休みにぴょこりと顔を出すすずりの姿は、クラスメイトの間でも既に日常と化していた。
 それがたとえ、3階の外側の窓からであろうとも。

 まったく、慣れというものは恐ろしいということである。

「お昼、もういただいちゃいました?」
「いや、まだだけど」
 問いかけられた康助が手をひらひら振って肯える。
「今日は珍しく風間が弁当作るの忘れちまったんだよなー」
 メロンパンをパクつきながら辰平が口を開く。

 康助の昼食は、もっぱら縁の手製の弁当である。
 料理を趣味とする彼女の腕はなかなかのものであり、時折つまんでいくクラスメイトたちの間でも評判だ。
「あたしとしたことが寝過ごすなんてね…一生の不覚だわ」
 大げさに悔しがる縁。
「まぁ、いつもいつも縁に頼ってばっかってのも悪いし。今日は食堂にでもって思ってたトコ」
「それなら丁度よかったですです!」
 窓枠をひらりと飛び越えて、すずりがハイ、と風呂敷包みを机に置いた。
「うお、でかっ…」
 風呂敷を解くと、重箱が三段。
「ってか、そんなおっきいのどこにしまってたのすずっち…?」
「それは乙女の秘密なのです♪」
 にぱっと笑って、すずりがそう言った。
「ささ、遠慮しないで食べてくださいませ♪」
「あ、うん…」
 恐る恐る蓋を開く。と、中身は思いのほかマトモだった。
「へぇ…なかなかじゃない。見た目もイイし、栄養バランスもよさそうよ」
 縁が太鼓判をおす。
 いただきますと手を合わせ、康助は箸を動かす。目に止まった玉子焼きを選んで、口に運ぶ。


「…あ、おいしい」
 康助のその言葉に、すずりが満面の笑みを浮かべる。
「へー、意外だねぇ」
 淳がそう言いながら、タコさんウィンナーを拝借する。
「こーゆーのってギャルゲーじゃよくあるけど、得てしてマズかったりするのがお約束なんだけどなァ」
「えへへ。これでもくのいちですからっ」
 すずりが控えめな胸を張る。
「なるほどね。状況によっちゃサバイバルを強いられることもあるからな。調理技術は必須科目ってワケだ」
 メロンパンを平らげた辰平がサラダの中のプチトマトをクチに放り込んだ。
「って、あんたら自重しなさい。すずっちは康助の為に作ってきてるんだから」
「構わないよ。ちょっとこの量は俺一人で食べるには多いしさ」
 そう言う康助を、縁はジト目で睨みつける。
「あんたねぇ、女心ってもんを…!」
「縁ちゃんも、食べてもらっていいですよ?」
 声を荒げかけた縁に、すずりが声をかける。
「え? いいの?」
「アドバイスとかいただけたら…その…嬉しいな…なんて」
 誰かの為にお料理作ったの初めてですから。
 そう言って、すずりは恥ずかしそうに目を伏せた。
「あーもー、いちいち可愛いわね。いいわよ。…ただし、私は厳しいので悪しからず」
 言いながらおにぎりに手を伸ばすゆかりだったが、目標物は先に康助の手に収まっていた。
「あ、こら取るな」
「早い者勝ち~」
 なんだかんだで美味しそうに食べている康助。頬に食べかすをつけたままのその姿に、縁とすずりは顔を見合わせてくすっと笑った。
「さて、中身は…っと」
 大振りのおにぎりに歯を立てる。


   ボムッ!!


「「!!?」」

 突然、教室の喧騒が吹き飛ぶような爆音が響いた。
 音の発生源は近い。
「…って、康助!?」
 辰平が素っ頓狂な声をあげ、一同が康助の方を向いた。

「…ぶはっ」
 まるで一昔前のコントの爆発オチのような煙を口から吐き、顔面を煤だらけにした康助がいた。
「す…すず、なんだこれは?」
 つとめて穏便に問いかける康助だったが、声は静かな怒りに包まれている。

「え、えとと…“かやくおにぎり”を…」
「“火薬”違いだおバカッ!!!」
「ごごごご、ごめんなさーいっ!!!」

 吼える康助と平謝りするすずり。
 その様子を、別グループで昼食をとっていた瑞樹がこみ上げる笑いを抑えながら見ていた。
「いつも楽しそうね、ゆかたちは」
 …それにしても…
 すずりに向けるまなざしに、羨望の色が混じる。
(すずりちゃんも、お料理得意なのかぁ)

「私も、やっぱり頑張らないとだめよね…」
 こぼれた呟き声は、誰にも届くことなく騒動の中に消えていった。


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今日はちょっと長め。
スタート直後からやりたかったネタ(かやく違い)が今回やっ
と消化できて一安心。
…改めて書くとちょっとしょーもないネタのような気もするけ
ど(汗

http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
 ↑人それを、「web拍手」と言う…! お前達に名乗る名前はないッ!(イミフ