炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのに/しーん2

 かくて、疾風の様に時は過ぎ―――放課後。

「そーいや、俺ら結構帰る時間決まってないけど、その割にはいつの間にか来てるよな、すずっちってばさ」
 辰平が思い出したように言った。
「ああ、それなら…」
 言葉を濁す康助に、首をかしげる辰平と康助。やがて、幾分声のトーンを落として答えた。
「…俺の匂いでわかるんだって」
 辰平と淳が固まる。
「ど、どんだけわんこなんだよ」
「実は霊長類イヌ科なんじゃねぇの?」
 随分と失礼な言葉を口にする二人。
「はいはい、アホばっか言ってないの男子どもっ」
 縁が呆れ声で言った。

「康助さーん」
「あ、来た来た」
 ぴこぴこと小さな体がこちらに向かって駆けて来る。康助も手を振って応えた。
「うーむ、こうやって見てるだけだと、とてもくのいち…忍者には見えないよな…」
「それは…同感かも」
 辰平の言葉に、苦笑しながら康助が同意する。セーラー服と短めのお下げ髪を跳ねさせる様は、ちょっと小柄なただの女子高生だ。

  ギィン!

「危ないっ、避けてくださーい!」
「…え?」
 突然、背後からの声。康助が振り返ると野球のボールらしき白球が猛烈なスピードで飛んでくるのが見えた。
 …しかも、自分の眼前に。
「わ、わわっ」
 とっさのことで身動きが取れない康助。焦っている間に、どんどん白球が近づいてくる。
「…康助さんっ!」
 康助の危機を察したすずりが飛び出す。瞬時に康助の前に躍り出た彼女は、
「はっ!」
 と気合一閃、白球に何かをぶつける。ぶつけられた白球はあらぬ方向に弾かれ、すぐに地面に突き刺さった。

「「「おお~っ」」」
 縁、辰平、淳が感嘆の声をあげる。
「大丈夫ですかっ、康助さん!?」
 康助に向き直り、安否を気遣うすずり。はっと我に返った康助は、弾かれたように頷いた。
「う、うん。…ありがとな、すず」
「いえいえっ。康助さんが無事で、なによりなのですですよ♪

 ころころと、すずりが笑った。
「…うわ、これって確か“苦無(くない)”だろ? すっげぇ、硬球ど真ん中貫いてるぜ」
 野球の硬球ごと地面に突き刺さっている苦無を拾い上げ、辰平は目を丸くする。
「おーい、すまねぇな。ボールだめにしちまった!」
 苦無を抜き、穴が開いたボールを投げる。少年野球のチームだろうか。受け取ったボールを見て、口々に驚きの言葉を発している。

「…いやぁ、このあいだの変わり身にもビックリしたけど、ホントにすごいんだな、すずってさ」
 感心する康助に、すずりは恥ずかしそうにあたふたする。
「そ、そんな…これくらいふつーですよ、ふつー」
「いや、普通の女の子は忍術使わないから」
 縁の突っ込みに、一同はからからと笑う。
「うーん…でも俺は、すずって普通の女の子だとも思うよ。ただちょっと、こっち側のこと知らないだけでさ」
 康助がそう言うと、すずりの顔がぱぁっと明るくなった。
「折角友達になったんだ。もっといろんな事やいろんなとこ、教えてあげたいじゃん。ね」
「あ、ありがとうございますですっ」
「……」
 すずりに笑顔を向ける康助の姿を、縁は複雑な表情で見ていた。

 口元で小さく「…何やってんだか」と呟いて。


  -つづく-


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 苦無、とは忍者の小道具の一つで、主に地面を掘るなどの役割。今回使ったのは手裏剣代わりに使う小振りな「投げ苦無」というヤツね。
 勿論金属製ですが、フツーに投げて硬球を貫けるかって言うと…多分ムリw

しかし、一応縁のメイン話なのに、出番少ねぇな(汗


あとがき追記>
「一番最初の読者ちゃん」曰く、すずりより縁の方が好きとのこと。
「メインヒロインよりサブヒロインがウケるの法則」が俺作品にも…っ!(ぇ

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http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
web拍手です。どのヒロインがお好みかとか教えていただけると多分参考になります(ぇ