シーン12~並び立つ紅と朱~
「ぐぅ…っ!」
苦悶の表情を浮かべながら、斬は握り締めていた魔導火のライターを灯し、爪のついた触手を焼こうとする。が、爪は瞬時に引き抜かれ、体のバランスを崩した斬は、続いて飛んできた触手を防ぎきれず、殴り飛ばされた。
「ぐはっ」
受身も取れず地面に叩きつけられ、斬はそのまま動かなくなる。
『斬…斬!?』
「心配、するな…」
小さく呻くような声で、斬が応える。まだ揺らめいていた魔導火を傷口に近づける。紅い炎が傷口に滑り込み、傷を少しずつ癒していく。
「この程度…大した怪我じゃない」
そう言いながら上体を起こす。しかし、まだ体に受けたダメージが回復していないらしく、完全に立ち上がるにはまだしばしの時間を要した。
―――きゃはははっ☆ 危ない危ない~
グロテスクな風貌には似つかわしくない可愛らしい声が響く。
―――油断も隙も無いんだもん。…じゃ、私も万全を期さないとだめかな~?
エウルディーテの声がそう言うと、祭壇から短剣がふわりと浮かび上がる。
全部で12本。先日まで斬が封じてきたホラーのものだ。
『まさか…!』
ヴィスタが絶句する。それを裏付けるかのように、短剣の先端が全てエウルディーテを向き…。
一斉に突き刺さる。
開放された12のホラーが、全てエウルディーテに取り込まれ、醜悪な巨体を顕にした。
―――さぁ、今度こそ殺してあげるね…
ひときわ大きな触手が伸び、その先端が巨大な剣と化す。
―――ばいばい♪
勢いよく振り下ろされる切先に、斬はなす術も無く…
(万事休すか…ッ)
『斬…ッ!』
死を覚悟しかける斬。刹那、その眼前に人影が躍り出た。
「おらぁっ!」
気合とともに、エウルディーテの攻撃を金属音が阻む。
「…!」
斬の視界に見覚えのある武器が飛び込んだ。
「朱い…槍?」
「やぁれやれ…状況の整理に苦労するな、こりゃ?」
頭をかく大男は、斬も良く知る人物だった。
「暁…紅牙?」
「よぉ。久しぶりだな、紅蓮の」
にんまりと笑う紅牙。と、その背後から別の触手が襲い掛かる!
―――邪魔、しないでよっ!!!
が、それはさらに別方向からの攻撃によって阻まれた。
「コラ紅牙! ぼさっとしてないの!」
強気な光を帯びた瞳が印象的な女性が、筆を構えて仁王立ちしていた。
『魔戒法師?』
「そう、魔戒法師。一橋天翔よ」
ヴィスタの問いに、女魔戒法師…天翔が不敵な笑みで答えた。
『自己紹介なぞしとる場合か! くるぞ!!』
紅牙の胸元で髑髏の魔導具・シヴァが嗄れ声で叫ぶ。刹那、飛び込んでくる刃つきの触手を、紅牙は斬の襟首を引っ掴んで避わす。
「っとぉ。…ところで、なんなんだありゃあよ?」
「…エウルディーテだ。13体のホラーを取り込んでる」
斬の言葉に、紅牙は目を丸くする。
「マジか?! 滅茶苦茶にも程があるなオイ」
『無茶振りに関してはお前さんに言われたくは無かろうがな』
「うるせぇ」
軽口を叩くシヴァを小突き、紅牙は指を鳴らしてエウルディーテと対峙する。
「へっ、これだけのデカブツ相手にするのは久々だぜ。腕が鳴らぁな」
ぐるぐると腕を振り回し、挑もうとする紅牙を、斬がコートの裾を掴んで制した。
「…待ってくれ…!」
よろよろと立ち上がる。
「あれには…エウルディーテの中には…」
「…ああ、知ってる」
「!」
思いがけない紅牙の言葉に驚く斬。
「悪いな。ちょいとばかり気になって調べさせてもらったんだ」
次々と襲い掛かる触手や毒液を槍でいなしながら説明する。
「調べたのはあたしだけどね。…陳腐な言い回ししか出来ないけど、色々あったのね、あんたにもさ」
天翔が続ける。
「惚れた女の為に魔戒騎士になるたぁ、粋じゃねえか。俺ぁ好きだぜ、そーいうのはよ」
だからなぁッ! と、大声を張り上げて触手を切り裂く。満面の笑みを浮かべ、紅牙が振り返った。
「俺たちが助太刀してやる」
「あんたはお嬢ちゃんを助けることだけ考えな」
大見得を切る二人。斬の胸に熱いものがこみ上げてくる。
『赤銅騎士、あんた…』
「暁、一橋…!」
「気にすんな。いけるか、紅蓮の?」
「ああ…!」
力強く大地を踏みしめ、斬が頷く。
「いくぞ!」
「おおよ!」
魔戒槍と魔戒斧が空に召喚円を描く。
刹那、赤銅と灼熱の鎧を纏った二人の魔戒騎士が降臨した。
-つづく-
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いよいよ紅牙&天翔、本格参戦!
お待たせしました、小笠原さん、緋摺さん!(←mixiで知り合った人たち)
さぁ、反撃開始だ!
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