そして、土曜日。
「それじゃ、始めましょ」
「よ、よろしくおねがいします…」
杠葉邸の台所…というより、厨房…に、3人の姿があった。
「えーと、調理実習ってなにやるんだっけ?」
「クッキーよ。普通のプレーンクッキー」
瑞樹が、家庭科の教科書を広げて指し示す。
「まぁ、それならなんとかなりそうね」
「クッキー…ですか」
いつになくまじめな顔のすずり。
「どしたの?」
「作るの…初めてです」
「へえ、意外ね。あれだけの料理作れるのに」
甘いもの、滅多に食べないので。
そう言って、すずりが微苦笑した。
「ま、どっちもビギナーってコトね。1から10まで、きっちり教え込んであげるわ」
「お、お手柔らかに…」
ポキポキと指を鳴らす縁に、瑞樹が僅かに顔を引きつらせた。
*
「これで、生地は完成…ね」
ボールの中のクッキー生地を覗き込んで、瑞樹とすずりが歓喜の声を上げた。
「……まぁ、本当ならもっとサクサクと出来るんだけどね」
溜息交じりに呟いた縁の声に、ハイタッチをしかけた二人が固まる。
厨房は粉だの白身だのが飛び散り、ちょっとした惨劇の後を演出していた。
「いったん生地を冷蔵庫で寝かせるから、そのあいだに軽く掃除しちゃいましょ」
「「はぁい」」
・
・
・
「すずりちゃんは、クッキー作ったら、やっぱり伊賀野君にあげるの?」
雑巾を絞りながら、瑞樹がそう問いかける。
「え? …えと……はい、です…」
恥ずかしそうに頬を染めて、すずりが頷いた。
「ふふ。なんかいいわね、そういうのって。…ゆかちゃんもうかうかしてられないんじゃないの?」
「…な、なんでそこであたしに振るかなぁ!?」
慌てふためく縁。
「ってゆーか、瑞樹こそどうなのよ」
「私?」
「誰かあげる相手いるの?」
今度は瑞樹が泡を食った。
「い、いないよぉ…」
「まぁ、ほんとにいなさそうね」
「…ちょ、少しはフォローしてよ~」
さらりとかわした縁に、瑞樹が抗議の声を上げる。
土曜の午後が、かしましく過ぎていった。
-つづく-
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昔テケトーにクッキー作ろうとしてたらバターが溶けてくれなくて散々だった記憶がorz
てゆーか大体においてレシピにかいてる「常温で溶かす」って表記。
…溶けるわけねー。
今度はマジメにチャレンジしてみるかな。
http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
↑web拍手です。いまさらながら高校の調理実習でクッキーはないかも、と思ってます(ぇ