それから二人が体育倉庫を脱出するまでには10分とかからなかった。
『どうしたんですですかぁ?』
格子のかかった窓越しに顔を覗かせた、すずりのなんとも間延びした声に、二人は安堵と同時に含み笑いを浮かべた。
*
数日前、
『何かあったらこれでわたしのこと呼んでくださいね♪』
と康助に渡されていた簡易狼煙の竹筒が役にったのだ。
…正確には、要らないと断った康助のポケットにすずりがムリヤリ突っ込んでいたのだが。
「いやぁ、助かった助かった。サンキュ、すず」
「お役に立ててなによりなのですよ~。っとと、それではわたしはまだやり残したことがありますのでこれで失礼いたしますのですです!」
新しい竹筒を握らせて、すずりは一瞬で夜の闇に消えていった。
*
「…ねぇ」
「ん?」
帰り道。
康助から少し離れた縁が、背中に声をかける。
「さっきの…体育倉庫での話、だけど…」
「ああ…杠葉さんとのことか?」
「や、じゃなくてさ」
逡巡。
「ちっちゃかった頃の…あの日の、コト」
「ああ…」
―――なんて言ったか、覚えてる?
と言いかけたのを飲み込む。
なんか、顔が熱い。
「…憶えてる」
「!」
いきなり核心を疲れて、縁の顔はさらに熱くなった。
「あの時、お前が俺に言った言葉。全部…憶えてる」
「ふ、ふうん…」
憶えて…るんだ。
「じゃあ、さ。
…あたしの言葉に、あんたは…なんて答えたっけ?」
その言葉に。
ふと、康助の足が止まる。あわせて縁の足も止まる。
・
・
・
しばしののち。
「…さぁ? それは忘れたかな」
そう言って、康助は再び歩き出した。
(…嘘)
康助は多分、いや確実に覚えてる。
(嘘つくとき右耳をかく癖、まだ治ってないみたいね)
その右耳が、心なしか紅く染まって見えた。
平静を装ってるつもりで、かなり照れてるのかもしれない。
昔からそうだ。ものすごくシャイで、照れ屋。
「…ふふっ」
「? なんだよ?」
こぼれた笑い声に、康助が振り返って怪訝そうに見る。
「んーん、なんでも。…変わってないなぁって」
「はぁ?」
間抜けな声をあげる康助を、縁が笑いながら追い越していく。
「なーんでもないって!」
「何がだよ?」
ケラケラと笑う縁。
珍しくはしゃぎ、くるくると回る彼女の姿に、康助は溜息混じりに呟いた。
「…変なヤツ」
かのくの/そのに→おわり
ねくすと:かのくの/そのさん→苦悩するお嬢様。
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いやぁ、ちょっと時間かかった(汗
やっぱ幼なじみを扱うのはちょっと苦手だな(滝汗
さて、次回にていよいよ康助の想い人、杠葉瑞樹のエピソード。
お嬢様の苦悩のわけとは…?
また、読んでくださいまし~
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