「ゆ・か・ちゃ・ん」
背後から猫なで声をひっかけられ、縁の背筋が一瞬震える。
「な、なによ瑞樹?」
振り返ると、親友の姿。
瑞樹が自分のことをちゃん付けするとき、何かしら頼みごと
を聞かされてしまう。
いままでの経験上それを理解していた縁は、身構えながらあとずさる。
「ゆかちゃん、ゆかさま、いえ縁さま~ん」
「って、ちょ! いきなり抱きつかない! 何事? ナニゴトなのよ?」
大慌てでひっぺがす。
ちなみに今は放課後、教室には縁と瑞樹しかいない。
…それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだが。
「ったく、アンタのそんなとこ見たらファンが泣くわよ?」
ジト汗をかきながら、縁は机に腰掛けて「で?」と問いかける。
「お願いっ! 私にお料理教えて欲しいの!」
両の手を合わせ、頭を下げて懇願する。
「…却下」
「躊躇なし!?」
取り付く島もない縁に、瑞樹が涙目になる。
「あのねぇ…いつだったか同じことあたしに頼んで挫折しなかったっけ?」
「あ…あはは…それは、そのぉ…」
「あの時、“もー二度とお料理なんかするもんかー!”って、そう言ってたわよ?」
そのときの惨状は、思い出したくもない。
記憶の奥底に封印していた悪夢をうっかり掘り起こしてしまい、縁は頭を抱えた。
「…でもお願い。ほら、今度調理実習あるじゃない? せめて人並みにはなっておきたいの」
「アンタの場合、人並み以下だもんねぇ…」
かつて教えようとしただけに、彼女の実力(?)は既に知るところである。
それを矯正しようというのだから、生半では済まない。
「…東亜堂の」
「え?」
「東亜堂。ケーキバイキングで手を打つって言ったの」
この近辺でもっとも人気のある老舗洋菓子店だ。味に見合った、ちょっと高めな値段が、世の女学生たちの懐事情をひっ迫させているとかなんとか。
「う…ちょっと苦しいかも…」
お嬢様とはいえ、貰っている小遣いは普通なのだ。
「まぁ、無理にとは言わな…」
「わかった! わかりました! 東亜堂でも仏蘭西堂でも連れてったげるわよーもー」
…勝った。
にやり、と縁がほくそ笑む。
「じゃ、商談成立ね。いつやる?」
「なるべく早い方が…明後日。土曜日でどうかな?」
「ん、OK」
それじゃあ、と話を切り上げようとしたその時―――
「わ、わたしも参加させてくださいですですーっ!」
窓から小さなくのいち娘が飛び込んできた。
-つづく-
----------------------------------------------
なんか瑞樹のキャラが崩壊してきたような(汗
んで、「いちばん最初の読者ちゃん」。
最近は瑞樹がお気に入りらしいです。
…まぁ、当面のヒロインだから、それはそれでよし、なのですが。
http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
↑ちょっとしたweb拍手だなっ