炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのさん/しーん2

「ゆ・か・ちゃ・ん」
 背後から猫なで声をひっかけられ、縁の背筋が一瞬震える。
「な、なによ瑞樹?」
 振り返ると、親友の姿。
 瑞樹が自分のことをちゃん付けするとき、何かしら頼みごと
を聞かされてしまう。
 いままでの経験上それを理解していた縁は、身構えながらあとずさる。

「ゆかちゃん、ゆかさま、いえ縁さま~ん」
「って、ちょ! いきなり抱きつかない! 何事? ナニゴトなのよ?」
 大慌てでひっぺがす。
 ちなみに今は放課後、教室には縁と瑞樹しかいない。
 …それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだが。
「ったく、アンタのそんなとこ見たらファンが泣くわよ?」
 ジト汗をかきながら、縁は机に腰掛けて「で?」と問いかける。

「お願いっ! 私にお料理教えて欲しいの!」
 両の手を合わせ、頭を下げて懇願する。
「…却下」
「躊躇なし!?」
 取り付く島もない縁に、瑞樹が涙目になる。
「あのねぇ…いつだったか同じことあたしに頼んで挫折しなかったっけ?」
「あ…あはは…それは、そのぉ…」
「あの時、“もー二度とお料理なんかするもんかー!”って、そう言ってたわよ?」
 そのときの惨状は、思い出したくもない。
 記憶の奥底に封印していた悪夢をうっかり掘り起こしてしまい、縁は頭を抱えた。
「…でもお願い。ほら、今度調理実習あるじゃない? せめて人並みにはなっておきたいの」
「アンタの場合、人並み以下だもんねぇ…」
 かつて教えようとしただけに、彼女の実力(?)は既に知るところである。
 それを矯正しようというのだから、生半では済まない。

「…東亜堂の」
「え?」
「東亜堂。ケーキバイキングで手を打つって言ったの」
 この近辺でもっとも人気のある老舗洋菓子店だ。味に見合った、ちょっと高めな値段が、世の女学生たちの懐事情をひっ迫させているとかなんとか。
「う…ちょっと苦しいかも…」
 お嬢様とはいえ、貰っている小遣いは普通なのだ。
「まぁ、無理にとは言わな…」
「わかった! わかりました! 東亜堂でも仏蘭西堂でも連れてったげるわよーもー」
 …勝った。
 にやり、と縁がほくそ笑む。
「じゃ、商談成立ね。いつやる?」
「なるべく早い方が…明後日。土曜日でどうかな?」
「ん、OK」
 それじゃあ、と話を切り上げようとしたその時―――

「わ、わたしも参加させてくださいですですーっ!」

 窓から小さなくのいち娘が飛び込んできた。


  -つづく-


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 なんか瑞樹のキャラが崩壊してきたような(汗

 んで、「いちばん最初の読者ちゃん」。
 最近は瑞樹がお気に入りらしいです。
 …まぁ、当面のヒロインだから、それはそれでよし、なのですが。



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↑ちょっとしたweb拍手だなっ