しん、と静まり返った空間に、鈍い打撃音が連続して響く。
「おーい! 誰かいないのか!? 開けてくれってー!」
あらん限りの大声で叫ぶ康助だったが、返事は一向に返ってこない。
格子の嵌められた窓からの光は既に消えうせ、外は夜になりつつあった。
「…そうだ。縁、ケータイケータイ」
「あ、そっか」
ここへきてようやくその存在を思い出される文明の利器。
辰平か淳にでも連絡すれば助けてくれるハズだ。
「…あっちゃぁ」
「何?」
「…ごめん、バッテリー切れ」
そう言って縁が手の中の携帯電話を見せる。真っ暗なディスプレイはまるでブラックホールだ。
「マジかよ? …まいったなァ」
「ってゆーか、アンタのは?」
「…いやその…教室に置きっぱ」
沈黙。
「…っ使えない!」
「しょーがないだろ!?」
縁の非難に、康助は情けない声で返した。
*
「…ねぇ、なんか喋ってよ」
「なんかって言われてもな」
結局、警備員が見回りに来るのを待つことにした。
それでも、何時ごろに来るのかわからないのだが。
薄く月明かりが入り込むだけの薄暗い倉庫内では出来ることも限られ、二人はマットの上に腰掛けて時を過ごしていた。
「…あ、そーいや」
「何?」
思い出したように、康助が呟く。
「昔、似た様なことあったな」
そう言われて、縁の記憶が掘り起こされる。
「ああ、あの時ね」
いつもより鮮明に思い出せる。
昨夜夢に見た、あの日のことだ。
「二人して廃車置場のトラックのコンテナに閉じ込められてさ」
「うん。二人で大声で助け呼んだけど誰も来てくれなくて」
寂しくて、不安で、暗くて怖くて…
子供だった二人はわんわん泣いた。
ひとしきり泣き終わったあと、今みたいに、二人でいろいろ話をして。
隣のクラスのたかぎくんが新しいゲーム機を買ってもらった、とか。
イトコのおねーちゃんがもうすぐ結婚するんだって、とか。
「ああ、それってその頃だっけ。元気してるかな、お姉ちゃん」
「うん。この間も電話あったよ」
―――結婚、かぁ
そういえば。
夢で見たあの思い出は、その一言から始まったっけ。
縁が記憶を掘り起こす。
―――結婚って、恋人同士がするんだよ、って話になって。
―――あたしと康助は、その恋人同士、なのかなって。
「…あ、あのさ」
「ん?」
「そのとき話してた…ことでさ」
―――大人になったら、結婚するんだ・って。
「あんたあのとき…なんて言ったか…」
胸がドキドキする。息苦しい。
しっかりと康助の顔をを見ようとして、近づく。康助が後ずさる。縁はさらに近づく。
「憶えて…」
カラン…
妙な雰囲気は、唐突に訪れた物音で吹き飛んだ。
互いの息が掛かる距離に顔があることに気付いて、二人は慌てて離れる。
「な、何…今の音?」
取り繕うように、言葉を紡いだ。
「なんか落ちて転がってったような……あっ!」
それはリレー用のバトンくらいの大きさの竹筒だった。
「…やったぜ。これで俺たち、ここ出れるよ!」
竹筒を握り締め、康助は小さくガッツポーズをして見せた。
-つづく-
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