炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのに/しーん4

「おーい、来たぞ?」
 終業のベルとともにとっとと教室を出て行った縁を追いかけるように、康助が体育館の裏手に顔を出す。
「…ってアレ?」
 呼び出した当人の姿が見えない。
「ったく、どこにいるんだか…っと!」
 ボヤく康助の襟首が急に引っ掴まれて後ろに持って行かれる。
「な、何だ!?」
 振り向くと、縁が鋭い目つきで康助を睨みつけている。
「…場所悪いから移動するわよ」
「は?」
 意図が掴めない康助に縁は前方を指差して示す。女生徒がひとり、そわそわと落ち着かない様子で佇んでいた。
「…なんだあれ?」
「っのニブちん! いいから行くわよっ!」
 掴んだままの襟首をぐっと引っ張って康助を連行する。
「っわ、ちょっと待て!苦しいって!」

 ・
 ・
 ・

「…ここなら当分邪魔は入らないかな」
 空き教室や屋上など、各所を転々とした縁と康助がようやくたどり着いたのは体育倉庫だった。
 マットやボールが無造作に置かれ、校庭とも教室とも違う独特の匂いがあたりを支配している。
 外では部活にいそしむ学生達の声が走り、少々騒がしいくらいだ。

「…何だよ。人に聞かれちゃ困る話なのか?」
「どっちかっていえば、康助が聞かれたく無いだろうケドね」
 縁が溜息混じりに呟く。

「…単刀直入に聞くわよ」
 片眉を吊り上げて、縁が告げる。妙に迫力のある雰囲気に、
康助は思わず気圧されてしまう。
「…あんたが好きなのは、誰?」
「…は?」
 何言ってんだ?
「何を今更…」
「答えなさい!」
 はぐらかす康助にぴしゃりと縁の声が飛ぶ。
「…杠葉。杠葉瑞樹」
 観念して想い人の名を紡ぐ。縁は小さく頷くと、ずいっと詰め寄る。
「そうね。…でもさ、あんた、アレから進展してるの?」
「アレからって?」
「とぼけないっ。この間のラブレターの件からよ」
 1週間前。瑞樹に自らの想いを伝えるべく書いたラブレターは、手違いですずりの手に渡ってしまっていた。
「改めてラブレター書くなり、帰りに一緒に帰ろうとか誘うなりしてるの?」
 答えは聞くまでも無い。新たに友人となったすずりと、仲間達と過ごしているだけで、瑞樹とは朝に二言三言会話するだけで終わっている。進展など臨むべくも無い。
「……」
 黙りこくってしまう康助。
「あたしだって、こんなことあんまり言いたくないわよ。でも、あんたがあたしに協力を頼んだんだからね。だったら、あたしから言うのがスジってもんじゃない」
 自らを納得させるように言う縁。
「大体、あんたがハッキリしないからすずっちもベタベタ絡んでくるんでしょ? あんたが好きなのは瑞樹だってちゃんとバシっと言っちゃえば、もうちょっと距離とってくれるわよ…たぶんだけど」

 そう、憶測でしかない。
 きっと彼女のことだ。たとえ康助がなんと言ったところで好きになった人のことを諦めたりはしないだろう。
 そんなまっすぐさが、嫌になるくらいうらやましく感じて、縁は小さく歯噛みした。

「…だから、そのっ!」
 縁が声を荒げる。
「もーちょっとしっかりしなさいって言うの! あんたがそんなだから、あたしも余計なこと考えて、なんかぐるぐるしちゃうし…っ」
「…は?」
 いつの間にか瑞樹ではなく自分のことの話に変わっていることに気付かず、縁はなおもまくしたてる。
「瑞樹のことだけでも結構いっぱいいっぱいなのに、このうえすずっちまで現れてさ。もうワケわかんないのよ。どうすればいいのかっ!」


「…お前」
 さらに口を開こうとする縁を、康助の声が制した。

「何よ!?」

「…なんで、泣いてんだよ?」


 はっとなる。
 つぅっと、暖かなしずくが頬を伝っていくのが分かった。
「な、泣いてなんか…無いわよ…!」
「いや、泣いてるって」
「泣いてない!」
 ぶんぶんと頭を振って否定する。
 泣いてなんかない。
 何が悲しくて康助のことで自分が泣かなきゃいけないんだ。
 そんな考えが頭の中に渦巻く。
「なんであたしが康助なんかのことで泣かなきゃ…!」
「落ち着けって!」
 康助の手が縁の肩を掴む。一瞬、縁の身体がビクっと硬直し、次の瞬間、腰が抜けたように縁はすとんと床に座り込んでしまった。

 とたんに、しんとなる倉庫内。

  「おーい、倉庫のカギ閉めたかー?」

 遠くで学生の声が聞こえる。
 いつの間にか部活も終わりの時間を迎えていたらしい。

  「ああ、すぐ閉めるー!」

 ん?
 すぐ閉める?

「わ、ちょっと待っ…!」
 康助が口を開きかけた瞬間。ガチャリと鈍い音が響き、カギを閉めた生徒がとっとと走り去っていく足音が聞こえた。


「…う、嘘だろ…?」
 今時マンガでもありえない。

 …閉じ込められてしまった。


  -つづく-


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前回のラストで縁が「体育倉庫に来い」と言っていましたが、
今回のシーンに合わせて変更になりました。
完全版執筆の暁には修正しますのでご了承をば。


しかし、女の子の心理を描くのはやっぱ難しいなぁ…。
何を今更、ですが(汗


「一番最初の読者ちゃん」曰く、ベタな展開が好きだそうですw
こりゃあ、コッテコテにしないとなぁ…♪(ぇ


http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
 ↑web拍手です。あなたはどのヒロインがお好み?(何