炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのいち/しーん3

「あのっ」
 校門に滑り込んだ康助が少女に声をかける。気付いた少女が視線を彼に向けると、その表情は瞬時にぱぁっと明るくなった。
「えっと、昨日の…」
「伊賀野さんですよねっ!?」
 康助の声をさえぎって少女が飛び込むように近づく。互いの吐息が感じられるくらいの距離にまで近づき、康助は慌ててのけぞった。
「な、何で名前…」
「あ、その…書いてましたから」
 彼女も近づきすぎたことを自覚したのか、少々顔を赤らめながらあとずさる。
「あ、そうか」
 自分へのラブレターと勘違いしたのだ、中身はちゃんと見ているだろう。
 そして、それが誤解であることも。
「それで、ですね…」
 少女は小さく咳払いして、それから深呼吸をひとつした。




「…ふつつかものですが、こんなわたしでよろしければ、よろしくおねがいいたしますです♡」




 次の瞬間、康助が完全にフリーズした。

「…え、あ…な…?????」
「おーい、戻ってこーい」
 体を揺らして意識を取り戻させた辰平は、たはは…と苦笑しながら少女へ声をかけた。
「ま、こんなとこで立ち話ってのもなんだしさ、ダックにでも行こうぜ。…俺たちも一緒でよければ、だけど」
「えっ、そ、そんな…いきなり二人っきりっていうのも…恥ずかしいので…一緒に来ていただけますですか?」
 全力で赤面する少女に、辰平は頷いて肯定の意を示した。

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「わたし、綾瀬すずりと申します。私立くノ一女学院・高等部1年椿組ですっ」
 ボックス席にちょこんと腰掛けた少女…すずり…は、軽やかに自己紹介する。
「くの…なんだって?」
「くノ一、です。女の人の忍者のことですね~」
「つまり、くノ一を育てる学校、ってこと?」
「はい、そうです♪」
 信じられないことをあっさりと言ってのける。
「…あ」
「どしたの?」
 急に目を点にしたすずりに康助が問いかける。
「…これ、機密事項でした……」
 とたんにしゅんとなるすずりに、辰平たちがぷっ、とふきだす。
「ははは…いいんじゃね? 別にばらしたりとか、そーいうのはしねーしさ」
 なっ、と仲間達に同意を求める辰平に、思い思いに頷く面々。
「そうですか…ありがとうございますです」
 すずりが深々と頭を下げる。
「あの、せっかくお知り合いになったことですし、それに…その、好きな人には、ちゃんと私のこととか、知って欲しかったですので…」
 もじもじと照れくさそうに微笑む。
「わたし、生まれてこの方ずっと忍者としての修行にあけくれてて…初めてなんですよ、告白とか…されたのって。だから、とっても…とっても嬉しくって」
 柔らかな笑みに、康助の胸がチクリと痛む。
 どうやら完全に誤解しているようである。
 ひょっとしたら宛名を書くのを忘れていたかもしれない。でなければここまで勘違いはしないだろう。
(参ったなぁ…)
 すずりと向かい合って座る康助が困惑しきる中、隣に座る縁は複雑な面持ちでその様子を見ていた。


  -つづく-


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 余談ではあるが、ダック(劇中で登場するファーストフード店)のモデルはもちろんアレなわけで。
 多分関西方面の人たちはダクドと略すんです。

 今回、例の「一番最初の読者さん」に、「すずりはツインテールに違いない」といわれました。
 …違いますよ(汗
 現時点のイメージとしては短めのおさげです。
 ボブカットくらいの長さの髪を後ろで束ねているんですよ。
 そんなかんじ。