炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのに/しーん1

「康助ー、起きてるー?」
 呼び鈴と同時に縁の声が響く。
「起きてるからそんな大きな声出すなよ~」
 ドア越しに康助のやや情けない声がした。

 待つこと2分。

「お待たせ」
「じゃ、行こ。…おばさん、いってきまーす」
「いってきます」
 玄関に顔を覗かせた母親に手を振って、二人は学校へと向かった。

 ・
 ・
 ・

「今日の数学、提出物やった?」
「あ、忘れてた~っ。康助…見せて?」
「…あのなぁ」
 他愛のない会話が途切れ途切れで続く。気心の知れた幼なじみならではのいつもの風景だ。

「…っと」
 ふと縁が腕時計を見る。正確にあわせられたアナログの秒針が、刻一刻と刻まれていく。
「5、4、3、2、1…」

 秒針が12の文字盤に達した瞬間、康助の傍の木が揺れ、小さな影が飛び出してきた。
「おはようございますっ、康助さん、縁ちゃんっ」
 ふわり、と
 独特なデザインのセーラー服をはためかせ、すずりが二人の前に立つ。
「おはよ、すず」
「おはよう、すずっち」
 すずりに挨拶を返す二人。すずりの顔がほころび、頬が桜色に染まる。

「さすがに、慣れたものよね…」
「何がですか?」
 溜息混じりに呟く縁に、すずりが問いかける。
「いや、初めて登校中のあたしらの前に飛び出してきたときは、ホント心臓止まるかと思ったわよ」
「あ、あははは…」


 康助たちとすずりが出会ってから、既に一週間が経過していた。
 あの一件の次の日、彼らの前に現れたすずりは、康助に促された縁と仲直りをした。
 元よりさっぱりした性格の縁のこと、わだかまりが解けた途端に今ではすっかり仲良くなっている。


「それにしても毎日毎日きっかり同じ時間に現れるわよね。流石って言うかさ」
「はいっ。一分一秒でも長く、康助さんと一緒に居たいって思ったら、必然的にこうなってました♪」
 康助への好意を、臆面もなくさらりと言ってのける。
「へぇ…康助だけなんだ?」
「あ、いや、その…縁ちゃんも、ですよ?」
 イタズラっぽく微笑む縁に、すずりが慌てて弁解した。
 この3人での“登校”風景も、今では殆ど違和感がなくなってきている。
「ははは。あいからず仲いいね、二人ともさ」
「へっへー、羨ましいだろー?」
「はいはい」
 すずりを抱き寄せて頭をなでる縁に、康助は苦笑しながら応えた。

「あ…」
 すずりの声のトーンが落ちる。いつの間にか校門に到着していたようだ。
「…お名残惜しいですが、ここでお別れですね……」
 目に見えて落ち込むすずり。そんな彼女の頭に、ぽふっと康助の手が乗っかった。
「じゃ、また放課後な」
「あ…」
 声のトーンが半オクターブ戻る。
「はいっ」
 満開の笑顔を咲かせて、すずりが応えた。



「…あんたもわりと罪作りな男よね」
「なにがだよ?」



  -つづく-



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ナチュラルにこーいうことが出来る男、尊敬しますが…

実際にリアルで見たら「けっ、この気障が」って思っちゃうんでしょうねぇ…

ままならんものだ(何