炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

そのいち/しーん2

 ―――かくて放課後である。

「さて…」
 やおら腰を上げた康助の肩を辰平が叩いた。
「ドコ行くんだ?」
「昨日のコを探しにね。どうにかあの手紙を返してもらわないとさ」
 瑞樹に出す出さない以前に、ラブレターが他人の手にあるのは正直嫌なわけである。
「なるほどね」
「でも、ドコの誰かも分からないんでしょ?どうやって探すの?」
「それは…」
 縁の的確なツッコミに、康助はたちまち口ごもる。
「む~…制服が結構珍しい感じのだったから手がかりになるとは思うんだけど…」
「ふむん。そこでだ、この俺様ちゃんが強力な助っ人を用意した!」
 辰平が廊下に向かって声をかける。と、巨大なアルバムを担いだ少年が顔を覗かせた。
「写真部の狩野淳(かのう・じゅん)。中学来のツレなんだが…」
 と辰平が声のトーンを落とす。
「…病的なまでの制服フェチでな。この近辺の女学生の制服ならこいつに聞けってヤツだ」
「そ、そうなんだ…」
 康助がジト汗を浮かべながら淳を見る。彼は不敵な笑みを浮かべて机にドンっとアルバムを広げる。
「本当はそうおいそれと見せる代物じゃあないんだぜ? だが、俺の知らない制服などない。その証明を今見せてやるよ!」
 どこか間違った方向に力説する淳に、辰平は肩をすくめつつアルバムをめくる。なるほど豪語するだけあって様々な制服を、正面・側面・背面と余すところなく網羅している。
「ていうか、この辺ってこんなに学校あったっけ?」
 思いのほか多い情報量に面食らう康助。
「あぁ、高校だけじゃなくて中学や小学校もフォローしてるからな」
 淳がしれっと言ってのけた。
「そりゃあのコ、見た目中学生っぽかったとも言えなくもないけど…」
 言いつつページをめくる康助だったが、なかなか件の制服にはたどりつかない。
「見つからないなぁ…」
「む、聞き捨てならねぇな…いいぜ、思い出す限りの特徴を言ってくれ。俺が見つけてやる」
 康助からアルバムを取り上げ、尋問するデカよろしく淳が詰め寄る。
「ん…パッと見はセーラー系だったかな。ちょっとふわふわというか…ゆったりとしたような?」
「ていうかそのコ見たのって数秒でしょ? よく憶えてるわね」
 もしかしてアンタも制服フェチ? などと縁が言葉のトゲと飛ばしてくる。
「珍しかったからって言ってるじゃんかぁ。…で、アンダーがハイネックみたいな感じで、でもただのハイネックじゃなくてさ、なんて言ったもんかな…」
 記憶を掘り起こしながらふと目を外に向ける。眼下に広がる校庭とその向こうに鎮座する校門が夕陽に照らされ…
「あ。そうそう、あんな感じ」
 と、校門に立つ制服姿の少女を見つけ、康助が指し示す。
 その言葉に辰平たちも窓から外を覗き込む。
「…なぁる、アレか」
「うわ、俺もまだ見たことないヤツだよ…この俺の目にまだ見ぬ制服があったなんて…ッ」
「ふ~ん…けっこう可愛い制服じゃない」

 ・
 ・
 ・

「…ん?」
 そこではたと気付く。


「「「「ああああ~~~~っ!!!!」」」」


 いた。


  -つづく-


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淳なる人物には実はモデルがいたりしますが、彼は別に制服フェチではありません、念の為。