シーン3~毒と病~
ドクン…!
「「!!!」」
ホラーの気配が瞬時に肥大化、凶悪化した。その波動にアテられ、斬は一瞬足を緩めた。
『斬…!?』
「…大丈夫だ」
額にじわりと脂汗が浮かぶ。コートの袖でそれを拭い、再び足を速める。
「ただのホラーにしちゃ、ちょっと規格外、ってところか?」
「ちょっとどころじゃ、ないんだがな」
いつしか険しい顔つきになる零に、斬がそう言った。
やがて、闇になれた視界に、人影が映りこむ。その顔は恐怖で歪み、腕は闇色の異形に捕らわれていた。
「いや…嫌ァァ!!!」
人影が女性の金切り声を上げた。斬は手にしていた戦斧の柄を握り締め、筋肉に全力を注ぎこむ。
「さ、せ、る、かぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
渾身を込めて投げられた戦斧は唸りを上げて飛び、異形の腕を裂いた。
―――オォヲォォォ!!?
思わず腕を放し、女性の誡めが解かれる。戦斧は弧を描き、ブーメランのように斬の手元に戻った。
「…動けるか?」
女性のもとに駆けつけ、声をかける。女性は恐怖に顔を引きつらせながらも、どうにか頷いた。
「なら逃げろ…今すぐにだ!」
斬の怒号のような声に、女性はビクンと体を震わせ、とるものもとりあえずほうほうのていで走り去っていった。
「…ようやく、だな」
心の底から吐き捨てるように、斬は異形…ホラーを睨みつけて言った。
「7年…7年待った……キサマをこの手で斬る…この日をッ!」
噛み締めた歯が軋み、悲鳴をあげる。
「ふぅん、結構因縁の相手だったりするんだ?」
零が魔戒剣を抜き、臨戦態勢をとる。
「…手を出すな鈴邑ッ。こいつは…こいつだけは…!」
『申し訳ないけど、ここは退がって貰えないかしら。これは紅蓮騎士…いえ、斬の…やるべきことだから』
憤る斬と、加勢を断るヴィスタに、零は魔戒剣を収めることで応えた。
「OK。じゃ、オレは立会人になってやるよ」
「すまん…」
「なぁに、いいってことさ」
零は微笑み、景気付けに斬の肩を軽く叩いた。
「……」
斬は目を閉じ、深呼吸を一つした。
「はッ!」
戦斧を振りかざし、その軌跡で光の輪を生み出す。頭上に輝く輪の中央を戦斧で突いた刹那、赤銅の鎧が降臨し、斬を包み込んだ。
「ホラー・バイアラァス…キサマの陰我…」
熱き炎の如き闘気を漲らせ…
「紅蓮騎士“紅牙”(ベガ)の名の下に…俺が断つッ!!!」
紅き狼が雄々しく吼えた。
-つづく-
----------------------------------------------
トマホォォォォォォク・ブゥメラァァァァァンッ!!!(違
ちなみに、ベガの名前は当初カタカナのみだったんですが、mixiにて募集したところとってもいいのを頂いちゃいました♪
わーい、ありがと~w
なお、サブタイの「毒と病」ですが、今回のホラー・バイアラァスが司る陰我を指しています。