炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】紅蓮の剛刃:シーン5【紅蓮騎士篇】

シーン5~目的~


 着地と同時に、鎧の戒めを解く。その顔には、僅かな疲れと確かな充実が混在していた。
『斬、血は採れていて?』
「ああ…大丈夫だ」
 手にした瓶をヴィスタに見せる。
『さっきのホラーの血…? 何に使うの?』
「“染まりし者”でも作ろうってのか?」
 瓶を眺める零とシルヴァが口々に問いかける。
「まさか。…第一、こいつの血を使っても“染まりし者”は生まれない」
『毒と病を司るホラー・バイアラァスの血は特殊なの。この血を浴びたものは、地上のありとあらゆる毒と病に冒され、10分と経たずに死んでしまうのよ』
 つまりそういうことさ。と呟き、斬は瓶を懐にしまう。
「じゃあ、何に使うんだよ」
「…毒は、使い方次第で薬にもなりうる。特に、バイアラァスによってもたらされた病には…な」
『血清を造る、ということね?』
 シルヴァの声に斬は頷いた。
「その通りだ。…さて、阿門法師の所へ行こう。薬の精製は魔戒法師にしかできないからな」
「…阿門法師なら死んだぜ?」
「!?」
 零の言葉に、斬は目を丸くした。
「この間の闇黒騎士の一件でな。…初耳?」
『どうやらそのようね。管轄間の横の連絡、なっちゃいないわねぇ…』
 斬の反応を見て、シルヴァが溜息をつく。
『まさかあの阿門法師が亡くなられていただなんて…』
 ヴィスタも驚きを隠せないようだ。
「その代わり…っちゃなんだけどさ。閑岱に弟子の邪美ってのがいるぜ。腕も確かだ」
 零の進言に、斬の表情が晴れた。
「閑岱か…。確か、我雷法師もいた筈だな。力を貸してもらえるやも知れん」
『斬…!』
「ああ、急ごう。一刻たりとも惜しい」
 斬は大きく頷くと、零に向かって深々と頭を下げた。
「涼邑、短い間だったが世話になった。西の神官にもよろしく言っておいてくれ」
「あ…あぁ。あんまり力になってない気もするけどな」
 急に畏まられ、うろたえる零に、斬は柔らかく笑い掛けた。
「そうでもないさ」
 そう言ってもう一度頭を下げてから、踵を返し、斬は闇の中へと走り去っていった…。




「…ふうっ。なんか、堅ッ苦しいヤツだったな」
『礼儀正しい、って言うのよ。ゼロも少しはみならったらどう?』
「うるさいよ」
 説教をするシルヴァに、零は大げさに溜息をついてみせた。
「…じゃ、俺たちも番犬所に戻ろうぜ。神官に報告しなくちゃならないしな」
『そうね』
 バイクのエンジンを響かせ、零もまた、夜の闇へと向かって行った。





 残されたのは、真夜中の静寂のみ…のはずだった。



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 明確にはしていないですが、ここいらで、「第1場」の終わりってことで。
 ちなみに、閑岱でのシーンはありません。
 邪美やりん、翼の登場を期待していた皆さん、ごめんなさいね~(ぉ