炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【SS】秋月律子バースデー記念【書いたァ!】

「今日もお疲れ、律子」
「ええ、お疲れ様」
 帰り支度を整えた律子に声をかける。
「いやぁ、毎度のコトながら君の組んだスケジュールどおりにいくとサクサクすすんで助かるよ」
「あのねぇ…プライドってものがないんですか、プロデューサーは?」
 呆れたように呟く律子に、俺は苦笑する。
「ないわけじゃないけどね。効率的に進めて、尚且つ君の負担にならないっていうんなら、君のスケジュールを選ぶさ。そーいう決断も、プロデューサーの務めというものだよ」
「新人プロデューサーが偉そうに言わない」
「お互い様。君だってまだ新人アイドルさ」
 俺がそう言うと、律子は目を瞬かせた。
「ありゃりゃ。言い返されちゃうとわね」
「毎回毎回君に言い負かされっ放しってのも癪だしさ」
 さて―――と。
 せっかくスケジュールが滞りなく進んで時間が空いたんだ。有効に使わんとね。

「律子。これから時間、あるかい?」
「え? そりゃ、なくはないけど…」
 思いもよらない俺からの言葉に、訝しげな視線を向ける律子。
「じゃあ、ちょいとばかり俺に付き合ってくれないかな?」




   Ritsuko’s Birthday Short Story
   飾り気無しの想いを




「…驚きました」
「褒め言葉として受け取っておこう」
 俺たちが来たのは、高級ホテルの展望レストランだ。予約した本人の俺はともかく、律子は少々落ち着かないようである。
「なんか、場違いみたいなんですけど…。って言うか、何かありましたっけ今日?」
「…本気で言ってるか、律子」
「…まぁ、心当たりがないわけじゃないですけどね…」
「それを聞いて安心したよ」
 安堵の息を漏らし、俺は改めて律子に向き直る。タイミングよくノンアルコール・シャンパンが注がれたグラスを軽く持ち上げ、俺は本題の言葉を届ける。

「誕生日おめでとう、律子」

「プロデューサー…」
 律子が言葉を失う。うんうん。喜んでもらえてなにより…

「…安月給なのにムリしてません?」

 ・
 ・
 ・

 台無しだぁ。


     * * *


「あ、これ美味しいですね」
 メインディッシュに舌鼓を打つ律子。やれやれ、楽しんでくれててよかったよ。

 食事は滞りなく進み、いよいよデザートのタイミングだ。
 そろそろ、だな。
 俺はすっと右手を上げて合図をする。と、今の今まで弦楽カルテットが奏でていた厳かなメロディがぱたりと止み、やがて聞き覚えのある旋律が踊り出す。

「あれ?」
 曲に気付いて、律子が目を丸くする。ごぞんじ彼女の代表曲『魔法をかけて!』だ。
 …もっとも、弦楽用に多分のアレンジを加えているけれど。

 それと同時に、律子の前にある空のお皿に代わり、ケーキが滑り込んでくる。
 もちろん、誕生日仕様だ。
「さ。火、消して」
「も、もう…そんなのして喜ぶトシでもないんだからね…」
 と言いつつ、律子はふうっ、と18本のロウソクに息を吹きかけた。
「じゃあ改めて、誕生日おめでとう。…これ、俺からね」
 細身のカートンボックスを手渡す。
「まさかプレゼントまでもらえるとは思ってなかったわねぇ」
 こころなしか頬を桜色に染めながら、律子は包みを解く。
「…あ」
 彼女の手に握られるのは、どっしりとした黒が印象的な万年筆。
「今まで使ってたの、ガタが来たって言ってたからさ」
「…以外に見てるんですね、私のこと」
「そりゃ、プロデューサーだしね」
 不器用にウィンクしてみせる。
「…まったく、時々プロデューサーって侮れませんね」
「ははは」
 万年筆をいとおしそうに抱きしめ、律子は顔を伏せて上目遣いに俺を見た。
 いつもの眼鏡越しじゃない、素のままの瞳で見つめられ、少しドキドキする。
「ありがとうございます。ずっと、大事にしますね。プロデューサー…」


 控えめに、けれど柔らかく広がる6月のアジサイのような笑顔を、律子は見せてくれた。






----------------------------------------------

 あとがき

 こう言うとファンの方には申し訳ないのですが、彼女への思いいれって他のコに比べるとちょいと低いんですよね。
 ゆえに、今回は難産中の難産でした。
 結局、ネタとしてはスタンダードな展開に落ち着いてしまったし…ダメだなぁ俺(トオイメ

 さて次回、七月はあずささんですよ~


 19日か…近ぇなぁ(汗