炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】紅蓮の剛刃:シーン10【紅蓮騎士篇】

シーン10~その愛と狂気と~


「あ~、やっと帰ってきたっ」
 南の番犬所につくなり、エウルディーテが口を尖らせる。いつもどおりの笑顔だが、目が笑っていない。

「…アレ、使おうとしたでしょ」
 少女の声が1オクターブ下がった。同時に、番犬所の空気が冷え、研ぎ澄まされたような感覚を憶える。
「言ったでしょ…私は若い女の子がいいって。あんな使い古し、私使う気なんかないからね」
 北の管轄で斬が探していた人形のことを言っている。どうやら自分の行動は完全に筒抜けだったようだ。
「だから、代わりの人間を使えと?」
「ええ」
「…それはできない」
 低く呟くように言った斬に、エウルディーテは驚きの表情を向ける。
「どうして? やっとの思いでその血清を手に入れたっていうのに?」
「…俺は魔戒騎士。“守りし者”だ。その魔戒騎士たる俺が、誰かの命を縛る…奪うなんてことができるわけがない。それに…」
「それに?」
 大きく息を吐いて、斬はしっかりとエウルディーテを見据えてこう言った。
「…かなみだって、それを望んじゃいない」


「……!」
 エウルディーテはかっと目を見開き、やがてうつむいた。
「…なんで」
「?」
「なんで、そんな通じ合ってるのよ」
 弾かれるようにエウルディーテが宙を舞う。木の葉のように跳ねた少女の体は、斬の下に降り立ち、その胸板にすがった。


「…私だって、貴方を愛しているのに」
 想いを、吐露する。
「知ってる? 私…貴方が生まれたときから、ずっと、ずーっと…愛しているのよ。…貴方のことを、貴方のことだけを」
 涙が頬を伝い、斬のコートを僅かに濡らす。斬はエウルディーテの肩にそっと手を置くと、やんわりとその体を引き剥がした。
「……俺が愛しているのは、かなみだけだ」
 その想いは7年前から少しも変わってはいない。

「…あんたじゃない」
 その一言が、エウルディーテの視界をブラックアウトさせた。
「…そ、んな…」
『滑稽だわね。あんたの想いなんか、斬もかなみちゃんも知ったこっちゃなかった、ってことよ』
 ヴィスタが言葉のトゲを突き刺した。

「…うるさい…うるさいうるさい!」
 エウルディーテが激昂し、ぎりっと歯を軋ませる。
「…私は斬を愛しているの……誰にも渡さない…他の誰かものになるくらいなら…」
 ポケットから何かを取り出す。…それは短剣だった。
「…それは…!」
『貴方…!何を考えているの!?』

「そうよ…誰かのものになる前に…永遠に私のものにすればいいの! 貴方の命を、私が奪って永遠にワタクシノモノニスルノ!!!」
 エウルディーテの手に握られた短剣…それは、ホラー・ヴァイアラァスを封じた短剣に他ならなかった。
 彼女の手が大きく振りあがる。その刃は吸い込まれるように胸元に突き立てられ―――




「アハハはハハハハハはははははハはっ!!!?!?!?!」

 エウルディーテの狂った笑い声が、番犬所に響き渡った。



  -つづく-

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 これにて第2場のエンドマーク。
 第3場はほぼ全編バトルシーンの予定。
 …きついなぁ(汗


 さておき、ちょいと個人的なスケジュールの都合で9月中旬あたりまで執筆活動をほぼ全面的にストップします。

 ほぼ、と書いたのは8月と9月に予定されている真と小鳥さんの誕生日記念SSはかっちり書くためです(ぉ

 それ以外の執筆はお休みです。
 続きを期待されてる方々には申し訳ないですが、ご了承をば。