炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】紅蓮の剛刃:シーン14【紅蓮騎士篇】

シーン14~紅蓮騎士~




  “これから教えるのは、紅蓮騎士に伝わる最大にして最強の奥義だ”

  “だが、この技は初代ベガ以来、誰一人として会得することは出来なかったという”
  “もちろん、この私もだ”

  “迂闊に使おうとして命を落とした者も少なくないと聞く”
  “諸刃の剣と言うべき力だ”

  “できればこんな力…使わずに越したことは無い”

  “だが…”




「いけるのか紅蓮の、その秘奥義ってのは?」
 紅牙の問いに、斬は首を横に振った。
「正直、分からない。俺自身、使うのは初めてなんだ」
「だ、大丈夫なの? こんな時にぶっつけ本番だなんてさ」
 天翔の焦り交じりの声がこぼれる。
「…やれるさ」

 自信があるかどうかと問われれば、答えはノーになるだろう。

 斬自身、奥義の概要を聞いただけであり、難易度の高さも、紅蓮騎士の歴史が証明していた。
 しかし…



  “斬。お前はいずれ、この奥義を必要とする時が来るだろう”

  “お前の、もっとも大切なもののために”

  “その時は思い出せ……”




「暁、一橋。今一度…俺に力を貸して欲しい」
 エウルディーテから目を逸らすことなく言葉を紡ぐ斬。
「奥義の完全発動には時間がかかるんだ。それまで…」
「盾になれってんだな。上等だ」
 にやりと笑って、紅牙が応える。
「あたしたちはあんたのエスコート役なの。その秘奥義とやらで、とっととお嬢ちゃんを助けてあげなさいな」
 ひらりと魔導筆を振るって、天翔も笑った。
「…恩に着る」
「礼なら終わってからにしな。…今度酒でも奢ってくれよ」
 紅牙の軽口に、斬は小さく笑う。
「ああ、考えておく」

 ぶぅん、と魔戒斧が円を描き、魔界から鎧を召んだ。


 ―――ムダだよっ
 醜悪な巨体からこぼれる可愛らしい声。

 ―――どんなことしたって、あたしはやっつけられないもん。
 ―――斬はぁ、あたしに殺されて、あたしといっしょになるの。

 ―――邪魔するゴミふたつも、死んじゃえ。

 硬質化した触手が振り下ろされる。

「だらぁっ!」
「はっ!」
 斬を狙うそれを阻むは、朱い槍と筆から迸る光の壁。
「わりぃが、そのゴミともうちょっと遊んでくれや」
「言っとくけど、あたしらタフだよっ!」
 二人の強い瞳が、きっとエウルディーテをにらみつけた。
「紅蓮の! 俺たちのことは気にするな!」
「さっきも言ったけど、お嬢ちゃんを助けることだけ考えてなさい!」

 その言葉に斬は大きく頷き、静かに目を閉じた。

 ・
 ・
 ・


  “魔戒騎士の強さは、武の強さのみに非ず”

  “その心の強さこそ、真の魔戒騎士の力なり”

  “お前の守りたいものへの強い想いが、必ず奥義を可能にする”




  “父さんは…そう信じている”




「…………」
 大きく深呼吸をする。
 鎧の向こう側では、エウルディーテの容赦ない攻撃が浴びせられているはずだ。
 そしてその攻撃から、紅牙が、天翔が斬を守っている。


 …どれだけの時が流れただろう。

 7年間、あるいはこの日の為に己が身を鍛えてきたのかもしれない。
 そう、全てはかなみを…

 守りたいものを、愛するものを救うために。

 かっ、と目を見開く。
「…いくぞ、ヴィスタ、火影!」
 かなみへの想いを全身に滾らせ、斬が、ベガが吼える。




「疾走(はし)れ…“真なる烈火炎装”!!!」
 斬の左手で、握り締められていた魔導火のライターが砕かれた。



  -つづく-


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 ついに紅蓮騎士秘奥義が発現する!

 次回、クライマックス!