シーン14~紅蓮騎士~
“これから教えるのは、紅蓮騎士に伝わる最大にして最強の奥義だ”
“だが、この技は初代ベガ以来、誰一人として会得することは出来なかったという”
“もちろん、この私もだ”
“迂闊に使おうとして命を落とした者も少なくないと聞く”
“諸刃の剣と言うべき力だ”
“できればこんな力…使わずに越したことは無い”
“だが…”
「いけるのか紅蓮の、その秘奥義ってのは?」
紅牙の問いに、斬は首を横に振った。
「正直、分からない。俺自身、使うのは初めてなんだ」
「だ、大丈夫なの? こんな時にぶっつけ本番だなんてさ」
天翔の焦り交じりの声がこぼれる。
「…やれるさ」
自信があるかどうかと問われれば、答えはノーになるだろう。
斬自身、奥義の概要を聞いただけであり、難易度の高さも、紅蓮騎士の歴史が証明していた。
しかし…
“斬。お前はいずれ、この奥義を必要とする時が来るだろう”
“お前の、もっとも大切なもののために”
“その時は思い出せ……”
「暁、一橋。今一度…俺に力を貸して欲しい」
エウルディーテから目を逸らすことなく言葉を紡ぐ斬。
「奥義の完全発動には時間がかかるんだ。それまで…」
「盾になれってんだな。上等だ」
にやりと笑って、紅牙が応える。
「あたしたちはあんたのエスコート役なの。その秘奥義とやらで、とっととお嬢ちゃんを助けてあげなさいな」
ひらりと魔導筆を振るって、天翔も笑った。
「…恩に着る」
「礼なら終わってからにしな。…今度酒でも奢ってくれよ」
紅牙の軽口に、斬は小さく笑う。
「ああ、考えておく」
ぶぅん、と魔戒斧が円を描き、魔界から鎧を召んだ。
―――ムダだよっ
醜悪な巨体からこぼれる可愛らしい声。
―――どんなことしたって、あたしはやっつけられないもん。
―――斬はぁ、あたしに殺されて、あたしといっしょになるの。
―――邪魔するゴミふたつも、死んじゃえ。
硬質化した触手が振り下ろされる。
「だらぁっ!」
「はっ!」
斬を狙うそれを阻むは、朱い槍と筆から迸る光の壁。
「わりぃが、そのゴミともうちょっと遊んでくれや」
「言っとくけど、あたしらタフだよっ!」
二人の強い瞳が、きっとエウルディーテをにらみつけた。
「紅蓮の! 俺たちのことは気にするな!」
「さっきも言ったけど、お嬢ちゃんを助けることだけ考えてなさい!」
その言葉に斬は大きく頷き、静かに目を閉じた。
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“魔戒騎士の強さは、武の強さのみに非ず”
“その心の強さこそ、真の魔戒騎士の力なり”
“お前の守りたいものへの強い想いが、必ず奥義を可能にする”
“父さんは…そう信じている”
「…………」
大きく深呼吸をする。
鎧の向こう側では、エウルディーテの容赦ない攻撃が浴びせられているはずだ。
そしてその攻撃から、紅牙が、天翔が斬を守っている。
…どれだけの時が流れただろう。
7年間、あるいはこの日の為に己が身を鍛えてきたのかもしれない。
そう、全てはかなみを…
守りたいものを、愛するものを救うために。
かっ、と目を見開く。
「…いくぞ、ヴィスタ、火影!」
かなみへの想いを全身に滾らせ、斬が、ベガが吼える。
「疾走(はし)れ…“真なる烈火炎装”!!!」
斬の左手で、握り締められていた魔導火のライターが砕かれた。
-つづく-
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ついに紅蓮騎士秘奥義が発現する!
次回、クライマックス!