炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】紅蓮の剛刃:シーン15【紅蓮騎士篇】

シーン15~灼熱なる想い/真なる烈火炎装~


 小さく破裂音が響く。

 一呼吸おいて、ベガの左腕を中心に紅蓮の炎が一気に噴出した。

「ぐぅ…っ」
 魔導火の炎は、時に蛇のようにのた打ち回り、時に嵐の如く荒れ狂ったようにベガの鎧を駆け巡っていく。

「すご…炎が…踊ってるみたい…」
 その荒々しくも美しい様に、一時目を奪われる天翔。
「余所見してンな! くるぞ!」
 そんな彼女に紅牙の檄が飛んだ。


  ―――邪魔!邪魔!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔~~~~~ッ!!!


 エウルディーテが我武者羅に攻撃を繰り返す。巨躯のいたるところからの触手と、禍々しい爪を擁した豪腕が、雨霰とばかりに叩きこまれる。

「ンのやろぉ…手当たり次第ブチかましやがってからにぃ…!」
 無数の衝撃が、鎧越しにも伝わってくる。

  ―――死んじゃえ!死んじゃえ!死んじゃえ!!!

「!」
 振り下ろされた両の豪腕を、朱狼槍で受け止める。が、勢い付いた衝撃と、その重みで紅牙の足が地面に沈んでしまった。
『いかんっ、縫い付けられてしもうた!』
 焦るシヴァの声。
「紅牙!」
 天翔が魔戒筆を繰り、光弾を飛ばす。紅牙を押さえつける腕に立て続けに命中したが、かすり傷どころか揺れもしない。

  ―――まずはアンタからね、赤銅騎士・朱狼。

 可愛らしくも残酷な声が響き…

 次の瞬間、無数の触手が朱狼の身体をメッタ打ちにした。

「ぐ…ふ…」
「紅牙ァ!」
 天翔の悲痛な声がこだまする。
 やがて腕の戒めが解かれると、紅牙はゆっくりと倒れ、同時に朱狼の鎧も魔界へと還っていった。

「紅牙…紅牙ぁっ!」
『まだ死んじゃおらん、安心せい天翔』
 駆け寄る天翔に、シヴァが声をかける。
「…とはいえ…ちいとばかりキツいなこりゃあよ…」
 ギリッと歯噛みして、紅牙が呟いた。

  ―――無駄なことするからぁ…命を粗末にしちゃうんだよぉ…

 鈍い音をたててエウルディーテが哂う。

  ―――あたしと斬の間に、割り込もうなんてことするからぁ…
  ―――ただの人間風情がさぁ…

 そう言いながら、触手をより集め、ひときわ大きな触手を生み出す。

「逃げろ…天翔…!」
 搾り出すように、紅牙が言う。
「ヤだね。アンタを見殺しにするぐらいなら、ここで一緒に死んだ方がマシさ!」
 天翔がぴしゃり、と返した。

  ―――ふうん…それじゃあ…

 触手がゆっくりと上を向き…

  ―――いっしょに死なせてあげる!

 唸りを上げて振り下ろされた。

「―――!!!」
 紅牙と天翔に戦慄が走る。


 が、その攻撃が紅牙たちに届くことは無かった。
「…?」

  ―――なんで、邪魔するのよ?

「…斬!」
 ベガが、紅蓮斧で触手を受け止めていた。
「二人は…やらせない!」
 仮面の瞳がエウルディーテを睨みつける。

  ―――じゃあ、斬が最初に死んでくれる?

「…いいや」

  ―――わがままだなぁ。まぁ、どっちでもいいんだけどねぇ…

「…誰も死なせない。俺も死なない」
 ベガの鎧には、未だ魔導火の炎が暴れまわっている。それに伴う苦痛は想像を絶していただろう。
「お前を倒して、かなみを取り戻す。それで終わりだ!」
 だが、彼は負けない。

 胸に抱く、想いがある限り。

  ―――なにそれ
  ―――私をやっつけれると思ってるの?
  ―――斬はただの人間じゃない。

「ああ、そうだ」
 守りたいものがある。救いたい人がいる。

愛する人の為に闘いたいと願う、一人の人間だ…」
 だから、決して負けない。

「我が名は…紅蓮騎士ベガ!」



  「いや…焔群 斬だぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」



 斬の雄叫びと同時に、ベガの鎧が咆哮をあげる。その轟きが、鎧のソウルメタルを震わせ、奇跡を呼んだ。

『これ…は…ソウルメタルが、共鳴している?』
 ヴィスタが驚きの声を漏らす。
 ベガの鎧が、紅蓮斧が、力強く唸りを上げている。それに伴い、さっきまで暴れていた炎が急に動きを止めた。

 魔導火が、静かに鎧に、斧に浸透していく…

「覇ァっ!!!」

 再び斬が吼えた。次の瞬間、ベガの鎧が燃え上がり、触手が瞬時に燃え…いや、“焼滅”した。

「…こいつぁ…すげぇ」
 その姿を目の当たりにした紅牙が感嘆の声を漏らす。
「まるで…炎の鎧…」
 天翔が目を丸くしてそう言った。


 そう、まさに炎の鎧だった。
 今このとき、斬は“真なる烈火炎装”を会得したのだ。


  ―――だから何?だから何? 何をしたって斬は死ぬの!私が殺すの!

 エウルディーテが金切り声で叫んだ。再び全身から無数の触手を顕し、斬を狙う。
「…ッは!」
 ベガが燃え盛る紅蓮斧を振り回す。触手はベガの鎧に届くことなく、灰と化した。

「今度こそ…かなみを返してもらう!」
 手綱を引き、それに応えた火影が跳躍する。

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
 ベガと火影が、一つの巨大な炎となり、エウルディーテに飛び込んだ。

  ―――死んで!死んで!死んでよ!死んでよぉっ!!!

 攻撃の手を緩めないエウルディーテ。しかし、触手も、腕も、斬が振るう斧の前に切り裂かれ、燃え尽きていく。

「こ・れ・で…終わりだぁぁぁぁぁぁッ!!!」
 紅蓮の剛刃が唸りを上げ、あの強靭な装甲ごと、エウルディーテを両断した。



  ―――嘘! 嘘! 信じない! わたしそんなの信じない! 私が…私が…



 その声を最後に、エウルディーテの存在が掻き消えたのが、紅牙たちにも感じられた。

「終わった…ようだな」
 上体を起こしながら、紅牙が呟く。
 やがて、あたりを包んでいた熱気が薄れる。さっきまでエウルディーテが居た場所には、鎧を返還した斬と、その腕に抱かれた少女の姿があった。

「やっと…取り戻せた…」
 斬が穏やかな表情を見せる。
『エウルディーテの気配は…もう感じられないわね。斬、早く血清を!』
「あぁ…!」
 小瓶を取り出し、中の血清を口に含む。斬は眠る少女の顔に自らの顔を近づけ…

 ゆっくりと、口付けた。





「…んっ」
 ほどなくして、少女の口から声がこぼれた。聞き覚えのあるエウルディーテのそれではなく、少女本来の声だ。

 そして、少女が目を開く。
 その視界には、泣いている様な、笑っている様な、青年の顔。
 見覚えのない顔のはずだった。だが、彼女には分かった。今目の前にいるのが、誰なのか。


「…ざん、くん…」
 7年ぶりに。
 少女が、青年の名を呼んだ。

「おはよ、かなみ」
 7年ぶりに。
 斬が、少女の名を呼んだ。




  -つづく-


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  決・着!

 さて、本編はいよいよエピローグを残すのみ。
 もうちょいとばかり、お付き合いくださいませ。



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