…変だ。
ここ数日、アイドルたちが妙によそよそしい。
僕、何かしたんだろうか?
…人は自覚せずに誰かを傷つけることだってありえなくも無いから、完全に清廉潔白だといえないのは事実だけど。
それにしたって、である。
「…じゃあ、…は、…ってことで」
「わっかりま… それ……ゃんには…」
「そこは私………て、きっと……」
ん?
応接用スペースでこそこそと話し声が聴こえる。小さすぎて内容までは聞き取れないけど、声から春香、やよい、律子と特定はできた。
「何かの相談かい?」
「うっひゃあ!?」
声をかけた途端、春香の大声が耳を劈く。
うう…春香、発声強くなったなぁ…
…じゃなくて。
「あーっと…ああ、そうそう。これから雑誌社さんとの打ち合わせがあるんでした~。行くわよ、やよい、春香!」
再び問いかけようとした僕の隙をぬって、律子が二人を引っ張ってすたすたと去ってしまった。
…なんなんだよ、一体…?
Producer's Birthday Short Story
ハプニング@サプライズ
―――数日後。
相変わらず彼女たちはよそよそしく…まぁ仕事に影響が出ないからまだ良いけど…本当に、僕は知らないうちに彼女たちに何かしたんじゃないかという感覚に陥ってしまう。
そんな中、今日は社長に外回りを言いつけられ、帰ってきたのは日もすっかり傾いた頃。
やれやれ、ここぞとばかりに色々押し付けてきたな社長…。まぁ、今日は担当アイドルの仕事もなかったからいいけどさ。
一息つきながら事務所の扉を開ける。
…あれ?
事務所内に入った僕を向かえたのは漆黒の闇だった。
「いや、さっき明かり点いてただろ…」
停電か? と思ってスイッチ盤を見ると、電源は生きているようだ。
亜美真美あたりがイタズラでもしたか? まったくしょーが無いな…
メインスイッチを入れ、照明がついた瞬間―――
パァン! パパァン!
けたたましい破裂音があたりを支配する。
「!?」
目が点になった僕の前に、クラッカーを構えた少女達の姿があった。
* * *
「えへへ…おどろいちゃいました?」
春香が笑いながら話しかける。
「今日、お誕生日ですよね? だから、みんなでプロデューサーさんのこと祝っちゃおうってことになって」
せーの、と春香の合図ののち、
『おめでとう、プロデューサー(さん)!!!』の声が、クラッカーの音以上に響いた。
「みんな…」
暖かいものが胸にこみ上げてくる。
…あれ?
なにか足りないような…
「さぁ、主役がいつまでもそんなところで突っ立ってないで。ささやかではあるが、ポーリーを始めようではないか」
…社長、なんかイントネーション変ですよ?
* * *
「んっふっふ~☆ じゃあ、出し物やりまーすっ」
「トップバッターは亜美と真美で手品やるよ、手品っ」
その一声から始まり、千早とあずささんのデュオで送るバースデーソングメドレー、真と美希のブレイクダンスに雪歩と春香の脱力漫才。やよいと律子の二人羽織が即席のステージで次々と披露されていく。
普段はファンに向けるべきであろう姿を、今僕のためだけに見せてくれている。
それがとても嬉しい。
でも、
やっぱり足りない。
それはもう、充分すぎるぐらいに分かっていて…
「さてっ」
と、春香がぱんっと手を叩いた。
「ここでプロデューサーさんに、プレゼントの進呈でーす!」
その言葉に小鳥さんと律子が何かを引っ張ってくる。
…引っ張ってくる?
「こ、これはまた随分と…」
人に渡すプレゼントにしてはかなり大きな箱が目の前に置かれる。
「きっと驚きますよ。なんたってプロデューサーさんがいま、一番望んでいるものがここにいるんですから♪」
…ん?
春香の言葉に違和感を感じる。
“ある”じゃなくて、“いる”…?
せーのっ、と両側からリボンを解く亜美と真美。次の瞬間、ごとごとと箱の内側から物音がして、やがて蓋が開かれた。
「っはあ!」
“それ”は飛び出した瞬間、大きく深呼吸した。
「まったくもおっ、いくらなんでも何時間も前からこんなとこ閉じ込めないでよっ!!!」
…春香の言うとおり、僕が今一番逢いたいと望んでいた人物が、そこにいた。
「…って、あら? プ、プロデューサー!?」
「伊織…」
うさちゃんセットのアクセサリーを身に付けた伊織が。
「……」
「……」
お互いに言葉を失う。
「ほら、伊織ちゃん」
やよいに背中を押され、伊織が僕の目の前に飛び込んでくる。
「えと、その…」
「ん…」
今更お互いに照れあう関係でもないのだが、こう改まると…ねぇ。
「伊織がプレゼント、と解釈していいのかな?」
「ちが…!……わ、なくも…ないかも…いや…その…」
おずおずと伊織が小さな包みを差し出す。
「これ、私から…」
中には重厚なデザインの腕時計。
見覚えがある。ブランド名こそ忘れたが、結構高価なものだったはずだ。
「いいのか? こんな、すごいの…」
「いいの。ちゃんと私のギャラで買ったんだし。それに…」
「誰でもない、アンタにあげるプレゼントなんだもの」
耳まで真っ赤になって、伊織がそう言って、
次の瞬間、僕は伊織を抱きしめていた。
「ちょっ、プロデューサー!?」
ほかのコたちがはやし立てる声やうろたえる社長の声が聞こえた気がしたが全て無視する。
ただ、伊織が
ただ、いとおしくて。
「も、もお…」
溜息混じりに呟きながら、伊織の腕が、僕の背中に回って、きゅっと締め付ける。
「…Happy Birthday」
伊織の柔らかなささやき声が、耳元で花ひらいた。
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あとがき
というわけで、私事ながら自分=プロデューサーの誕生日記念ですw
やっぱりというかフルメンバー登場と見せかけて結局伊織メインw
1万年と2千年前から愛してます。もちろん1万年と2千年後も。
思いがけずリクエストを賜って書いたけど…やっぱ0時ジャストには間に合わなかったか。
いかんせん、自己満足ネタになるから、公開しようか躊躇したのもあったし。
ま、書いたから公開したいってのは世の常人の常♪
そういえば、これで来月の雪歩を書き上げれば、アイマスキャラクター誕生日SS完全コンプリートになるんだよな。
自画自賛ながら、やるっ俺!
http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
↑web拍手だ。ぽちっとしてくれると作者が嬉しいぞ。な、伊織?