12月も半ばを過ぎ、町中のクリスマスカラーはさらにその濃さを増していく。
我らが795プロの事務所もご多分に漏れず、小型のクリスマスツリーが立ち、窓をキラキラのモールが縁取っている。
「…そういえば、イブって雪歩の誕生日なんだよな」
僕の呟きに、ツリーに飾り付けをしていた雪歩がはい、と小さく頷いた。
「折角だから、何かしないとな…」
そう言うと、彼女は首をぷるぷると横に振った。
「い、いえ…いいんですよ。ほら、クリスマスイベントとかもあって忙しいじゃないですか」
「いや、それでも…」
「いいですって…。プロデューサーは、クリスマスのお仕事のことだけ考えてください」
珍しく語調の強い彼女に、僕は「あぁ…」と返すことしか出来なかった。
Yukiho's Birthday Short Story
雪空の下、歩み寄って
12月24日―――クリスマス・イヴ。
エンターテイメントを提供する側にとっては、これ以上ない稼ぎ時であり…
「プロデューサーさんっ、早く出発しましょう!」
僕も例外に漏れず、朝から春香を連れてイベントへ参加しなければならない。
「ああ…ゴメン…っと、雪歩見なかったか?」
「え? 雪歩ならもう出ましたよ? 律子さんが連れてってたじゃないですか」
あ、そうだっけ…。
「もぅ、しっかりしてくださいよ。ほら、私たちも出ないと送れちゃいますよっ」
「わ、わかったわかった」
* * *
春香を送る車内で、溜息がこだまする。
それが自分のものであると気付くのに、少々時間がかかってしまった。
「…元気ありませんね、プロデューサーさん?」
当然というか、春香に気付かれてしまう。
「そう、かな…?」
つい虚勢を張ってしまう。あんまり弱気な姿は、見せたくない。
「あ、分かった。雪歩のことでしょ! そうですよね!?」
…一瞬で見抜かれた。
「…まぁ、ね」
ここまできたら隠すのも逆にカッコがつかない。
先日の雪歩との会話をかいつまんで説明する。
「…うーん。雪歩らしいって言えば、雪歩らしいですよねぇ…」
「まぁな。でも…」
「そうですね、だからこそ、ちゃんと祝ってあげたいですよね」
クリスマスと誕生日が同じ日。
一見、ロマンチックではあれど。
それが必ずしも、本人にとっていいこととは限らない…と思う。
「…プロデューサーさん。ちょっと提案があるんですけど…?」
ルームミラー越しに、春香がにぱっと笑った。
* * *
「…じゃ、これで準備は万端ですねっ!」
「ああ。…何から何まで有難うな、春香」
僕の言葉に、春香がいえいえと返す。
イベントの後、事務所に戻った僕たちは雪歩のためのプレゼントを用意していたのだ。
「さて、それじゃ後はこれを届けて…っと、雪歩はどうしてる?」
「はい、メールで例の場所に呼び出してますよ。1時間ほど前に♪」
…って、ちょっと長すぎじゃないか?
「うわ、雪まで降ってるし。こりゃ急がないとな…」
春香から渡された包みを受け取り、僕は事務所を飛び出す。
「がんばってくださいねーっ♪」
背中に春香の声援を受けて。
* * *
雪歩が佇んでいる。待ち合わせ場所に指定した噴水前で。
クリスマス用のイルミネーションが施され、跳ねる飛沫が宝石のようにきらめいている。
溜息をついたのか、大きな白いもやが雪歩から生まれた。
「…お待たせ」
駆け寄る僕を見つけ、雪歩は少し驚いたような顔をした。メールを出したのは春香だから、彼女が来ると思っていたのだろう。
「プロデューサー…?」
「ごめん、寒い中待たせて」
白い息を弾ませ、僕は頭を下げる。
「いえ、そんな…」
合点の行かないような表情。
「これ…渡そうと思ってさ」
少し大きめのカートンボックスには、デコレーション用のリボンがちょこんと乗っかっている。
「開けてみて、くれるかな?」
「は、はい…」
そっと蓋を開く雪歩の瞳が、驚きに見開かれる。
「…ぁ」
「ケーキ作りとか、初めてだったから結構苦労したよ。春香が手伝ってくれなきゃ、間に合わなかったかもな」
雪歩が前に好きだって言ってた、抹茶のケーキ。
そして、その上にはマジパンのメッセージボード。チョコレートで記されているのは
-Happy Birthday-
「これ…」
雪歩が言葉を失う。
「クリスマスより、祝いたいものがあったんだよ」
僕がそう言うと、雪歩の瞳から涙の粒が零れ落ちた。
「っえ!? ぼ、僕なんかヘンなこと言ったかな!?」
泣かせた? 泣かせたのか!?
「ちが…違います…」
雪歩がふるふると首を横に振る。
「嬉しくて…とても…嬉しくて…その…」
目じりに涙を浮かべながら、雪歩がふわりと微笑んだ。
「…そっか」
予想以上に喜んでもらえたようだ。
やってみて正解だったな。改めて春香に感謝だ。
「じゃ、行こうか」
「…え?」
差し出した僕の手に、再び雪歩が首をかしげる。
「事務所。みんな待ってるんだ」
「みんな…?」
そう、みんなで。
「雪歩の誕生日を祝うためにね」
ツリーも靴下も撤去して。
クリスマスじゃなく、雪歩の誕生日のためだけに。
今日の主役は、サンタクロースでも、プレゼントを待つ子供でもない。
―――君だよ、雪歩。
「お手をどうぞ。お嬢さん」
「あ…はいっ」
笑顔で頷いて、雪歩が僕の手をとる。
降り積もった新雪に、事務所へと戻る僕と雪歩の足跡が続いていった。
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あとがき
クリスマスと誕生日がカブるって、子供の頃は結構羨ましいと思ってたんです。
でも、今思うとまとめて祝われそうでかなり不憫。
…これが歳を取ったということでしょうか社長(何
THE IDOLM@STER誕生日記念SSシリーズもこの雪歩編を以ってラスト。
思えば2月の千早から始まり、途中で社長や小鳥さんの誕生日を知り…
遠くまで来たものです。
拙い文章に付き合っていただき、多謝でございます。
今後も(ペースは格段に下がるでしょうが)アイマスSSは書いていく所存ですので
なにとぞよろしくお願いします~
さしあたっては、すぐにクリスマスSSをやります。お楽しみに。
http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
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