炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

第1話・シーン1

 岡山県



 中国山地と瀬戸内海に囲まれた風土は、決して何かに特化したわけではないけれど…
 どこか穏やかな雰囲気を持つ、俺たちのふるさとだ。


「じゃけん、さっきから言うとろうが。女の子へのプレゼントならぜってぇこれじゃって」
 そう言って、俺―――赤津光流(アカツ・ヒカル)の眼前に土鈴を突きつけるのは、中学来の友人だ。
「…いや、イマドキ伝統工芸ってどーなのよ…」
「あ、おめぇ伝統工芸バカにしちゃんなや。時代の流れにあわせてちぃとずつ姿を変えていくのもあるんで。備前焼のビールジョッキなんかええ例じゃねぇか」
 自分の選択に間違いはないとばかりに頷く。体格のいい彼が小さな土鈴を持っているのはかなりアンバランスな絵ヅラで、ちょっと笑える。
「ってか、そもそもあの子も同じ岡山県民なんだけど?」
 他県の友人にお土産でっていうのならともかく、同郷に住んでる片想いの相手への誕生日プレゼントには到底向かないと思う。
「わかっとらんのぉ…岡山県民ですら最近滅多に触れられとらん伝統工芸じゃけん、ありがたみも増すってもんじゃって」


 …彼の名は吉備津 弾(キビツ・ダン)。
 岡山生まれの岡山育ち。『骨の髄まで岡山県民』を自称する愛県心(なんて言葉があるのなら)溢れる若者だ。
 俺たち世代の、イワユル“最近の若いもん”には珍しすぎるぐらいに故郷である岡山が好きで、『岡山検定』なる試験もあっさりと2級をパスしてしまうほどのフリーク…というか、ヲタクだ。


「わかってないんはアンタのほうだと思うんじゃけど?」
 力説するダンの後ろで、溜息混じりに呟く女性の声。
 俺たちの共通の友人、釘宮桃子(クギミヤ・モモコ)だ。
「あん?」
 聞き返すダンをスルーして、今度は視線を俺に向けるモモコ。
「大体ヒカルもヒカルよぉ。そもそもこんな女心もわかんないトーヘンボクに、女の子へのプレゼント探しを手伝わせるんが間違いってゆーの」
「む、聞き捨てならねぇな。わぇのドコが女心知らんってゆーんなら?」
「知っとるとでも言いたいん?」
 言い返すダンに冷たく突っ込みを入れるモモコ。中学時代からその構図は変わらない。
 強いて変わったところを上げれば… と、ここで言っちまうのはヤボかな?
「…仲良いなお前ら」
「「眼科行け!!」」
 お、ハモった。

 相変わらずな二人の姿を久々に見て、俺は安心したように笑う。
 ふと見上げた空は、冬独特の凛とした空気に満たされ、遥か高みで、晴れの国の太陽が穏やかな日差しを向けていた。


 -つづく-

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 赤津光流の名前を見かけてピンと来る…人は少ないだろうな…
 彼が主人公になってる「すいっち・おん!」もサボリまくりだもんw

 本作の主人公はダンで、ここでの光流(ヒカル)は狂言回し的ポジションを担っています。ホームズで言うところのワトスンとか。

 つーか俺岡山出身なのにダンたちが喋ってる岡山弁が正しいのかどうか自信がない…orz


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 ↑web拍手じゃ。岡山弁に関するツッコミも受け付けとるけん。