その日も、七弥らイクサ開発チームの面々は研究と改良に勤しんでいた。
「…………」
と、そんな彼等を見る、ちょっと低めの視線。
と、そんな彼等を見る、ちょっと低めの視線。
「ん……?」
七弥がそれに気付く。10歳前後の女の子が、ドアの隙間から開発ルームをじっと見つめていた。
七弥がそれに気付く。10歳前後の女の子が、ドアの隙間から開発ルームをじっと見つめていた。
「どうしたの? 迷子かな?」
そう問いかけると、女の子はびくっと身体を震わせ、廊下の奥に引っ込む。
「…逃げなくても」
そんなに怖いかな、俺?
自分の容姿を確認する。ここ数日徹夜が続いてるから、ちょっとひどい恰好になっているのかもしれない。自覚は無いが。
そう問いかけると、女の子はびくっと身体を震わせ、廊下の奥に引っ込む。
「…逃げなくても」
そんなに怖いかな、俺?
自分の容姿を確認する。ここ数日徹夜が続いてるから、ちょっとひどい恰好になっているのかもしれない。自覚は無いが。
「どないしたんや、七弥?」
休憩にと二つのマグカップにコーヒーを淹れてきた茂原が、軽く凹む七夜に声をかける。
「いや、なんか小さな女の子が来てたから、迷子かなって…」
「ンなアホな。迷子でコドモがこんなとこ来るかいな。誰かの子供さんとちゃうのん?」
あほらし、と角砂糖を放り込みながら茂原が大げさに溜息をつく。
「いやいや、ウチのメンバー全員独身だろ?」
「…それもそーか」
休憩にと二つのマグカップにコーヒーを淹れてきた茂原が、軽く凹む七夜に声をかける。
「いや、なんか小さな女の子が来てたから、迷子かなって…」
「ンなアホな。迷子でコドモがこんなとこ来るかいな。誰かの子供さんとちゃうのん?」
あほらし、と角砂糖を放り込みながら茂原が大げさに溜息をつく。
「いやいや、ウチのメンバー全員独身だろ?」
「…それもそーか」
じゃあ何者? わかった、座敷わらしだ! なんでやねん。
休憩ついでに他愛ない会話を続ける2人。
「……あれは私の知り合いの子だよ。麻生博士の孫娘だ」
「へえ…麻生博士の。……って!?」
「……あれは私の知り合いの子だよ。麻生博士の孫娘だ」
「へえ…麻生博士の。……って!?」
いつのまにか、背広姿の中年男性が現れていた。
「こっ、これは嶋会長!!」
2人して慌てて立ち上がる。彼らが所属する<素晴らしき青空の会>の会長、嶋護氏本人であった。
「いや、休憩中だったのならそのままで構わんよ。…ところで、弓道七弥くんは誰かな?」
「俺…ですけど」
名前を呼ばれて七弥が答える。嶋はああと頷き、七弥の全身をなめるように視た。
「…あの?」
「ああ、すまない。少し話があってね。この近くに喫茶店があるから…そこでいいかな?」
なぜここでしないのか、多少の疑問はあったが、とりあえず七弥は頷いた。
「こっ、これは嶋会長!!」
2人して慌てて立ち上がる。彼らが所属する<素晴らしき青空の会>の会長、嶋護氏本人であった。
「いや、休憩中だったのならそのままで構わんよ。…ところで、弓道七弥くんは誰かな?」
「俺…ですけど」
名前を呼ばれて七弥が答える。嶋はああと頷き、七弥の全身をなめるように視た。
「…あの?」
「ああ、すまない。少し話があってね。この近くに喫茶店があるから…そこでいいかな?」
なぜここでしないのか、多少の疑問はあったが、とりあえず七弥は頷いた。
*
嶋が指定した喫茶店<カフェ・マルダムール>はすぐに見つかった。カウベルを鳴らしながら戸をあけると、穏やかな表情の男性が迎えてくれた。この喫茶店のマスターだろう。
「弓道くん、ここだ」
隅のほうの席から嶋が声をかける。
「注文は?」
マスターからの問いに、返答に詰まる。コーヒーはインスタントしか飲んだことが無い七弥だ。それほど詳しくない。
「ええと……あ、嶋会長と同じものを」
「ん、エスプレッソね」
楽しそうにカウンターに戻るマスターを見送った後、嶋が口を開いた。
「さて、本題に入ろう」
「弓道くん、ここだ」
隅のほうの席から嶋が声をかける。
「注文は?」
マスターからの問いに、返答に詰まる。コーヒーはインスタントしか飲んだことが無い七弥だ。それほど詳しくない。
「ええと……あ、嶋会長と同じものを」
「ん、エスプレッソね」
楽しそうにカウンターに戻るマスターを見送った後、嶋が口を開いた。
「さて、本題に入ろう」
*
「……ファンガイア、ですか?」
「正しくは、その疑いがある、という限りだが」
そう言いながら、嶋は鞄から幾つかの新聞記事のスクラップを差し出した。
「…これは、行方不明の記事?」
スクラップにはクリップに留められた各被害者の詳細なデータが示されている。
性別はもとより、年齢、職種等はバラバラで、共通項は見出せそうにも無い。
「いや、共通点はある。行方不明者が消えたと思われる周辺で、本人が直前まで来ていた服がそのままの状態で打ち捨てられているのが見つかっているんだ」
「それって…!」
七弥は、ファンガイアと遭遇したことはないが、その特性と、襲われた人間の末路を知識として知っていた。
「ファンガイアは、人間の命…ライフエナジーを好み、それを吸われた人間はその存在ごと消えてなくなる」
それは文字通り、髪の毛一本、血の1滴の残さずだ。
「ファンガイアの手口をそのまま真似るような犯罪がない、とまでは言い切れないが…」
言いよどむ嶋。それもそのはず、ファンガイアは過去10年近く、その活動を沈静化させており、新たに発見された例はないのだ。
「とはいえ、ファンガイアの生態は未だ謎に包まれている。急に現れないとも限らないのもまた事実だ」
そこで…と、嶋がエスプレッソを口に含んだ後、重々しく飲み込んだ。
「キミを一時的に、イクサの正装着者として任命する。この事件の真相を調べ、ファンガイアによるものであれば、ただちにそれを殲滅して欲しい」
「…ええっ!?」
七弥の目が驚きに見開かれる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「役不足かな?」
「そんな! もったいないくらいですよ。…でも、俺はあくまで開発チームの人間ですよ。いくらテスト装着者やっていたからって……。青空の会には、戦士としての鍛錬を積んでる人が多いと聞きます。その人たちの方が適任ではないでしょうか?」
事実、ロールアウト当時装着者をつとめていいた紅音也をはじめとして、イクサの装着を前提に鍛錬を続けている戦士及び、その候補生は数人いる。七弥自身も全員ではないが、何人かと面識がある。そんな彼等を差し置いて自分が正装着者などと…。
「理由はある。イクサはまだ開発途中だ。運用中にトラブルが起こる可能性があることは否定できないだろう? その時、装着者がイクサのことに精通している者ならば対処が可能だ。それに、きみは半年以上、イクサを装着し続けている。今我々の中では、もっともイクサを知る人物と言っても過言ではない」
「ですが…」
「実地に勝るテストもないだろう?」
嶋が目を光らせる。
「……俺は実験台みたいなものですか?」
「…ふ、ハッキリと言うね。……それもある」
七弥は嶋をじっと見つめた。その瞳の奥にあるであろう真意は、そのダークブラウンに阻まれ、見抜くことは出来ない。
「正しくは、その疑いがある、という限りだが」
そう言いながら、嶋は鞄から幾つかの新聞記事のスクラップを差し出した。
「…これは、行方不明の記事?」
スクラップにはクリップに留められた各被害者の詳細なデータが示されている。
性別はもとより、年齢、職種等はバラバラで、共通項は見出せそうにも無い。
「いや、共通点はある。行方不明者が消えたと思われる周辺で、本人が直前まで来ていた服がそのままの状態で打ち捨てられているのが見つかっているんだ」
「それって…!」
七弥は、ファンガイアと遭遇したことはないが、その特性と、襲われた人間の末路を知識として知っていた。
「ファンガイアは、人間の命…ライフエナジーを好み、それを吸われた人間はその存在ごと消えてなくなる」
それは文字通り、髪の毛一本、血の1滴の残さずだ。
「ファンガイアの手口をそのまま真似るような犯罪がない、とまでは言い切れないが…」
言いよどむ嶋。それもそのはず、ファンガイアは過去10年近く、その活動を沈静化させており、新たに発見された例はないのだ。
「とはいえ、ファンガイアの生態は未だ謎に包まれている。急に現れないとも限らないのもまた事実だ」
そこで…と、嶋がエスプレッソを口に含んだ後、重々しく飲み込んだ。
「キミを一時的に、イクサの正装着者として任命する。この事件の真相を調べ、ファンガイアによるものであれば、ただちにそれを殲滅して欲しい」
「…ええっ!?」
七弥の目が驚きに見開かれる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「役不足かな?」
「そんな! もったいないくらいですよ。…でも、俺はあくまで開発チームの人間ですよ。いくらテスト装着者やっていたからって……。青空の会には、戦士としての鍛錬を積んでる人が多いと聞きます。その人たちの方が適任ではないでしょうか?」
事実、ロールアウト当時装着者をつとめていいた紅音也をはじめとして、イクサの装着を前提に鍛錬を続けている戦士及び、その候補生は数人いる。七弥自身も全員ではないが、何人かと面識がある。そんな彼等を差し置いて自分が正装着者などと…。
「理由はある。イクサはまだ開発途中だ。運用中にトラブルが起こる可能性があることは否定できないだろう? その時、装着者がイクサのことに精通している者ならば対処が可能だ。それに、きみは半年以上、イクサを装着し続けている。今我々の中では、もっともイクサを知る人物と言っても過言ではない」
「ですが…」
「実地に勝るテストもないだろう?」
嶋が目を光らせる。
「……俺は実験台みたいなものですか?」
「…ふ、ハッキリと言うね。……それもある」
七弥は嶋をじっと見つめた。その瞳の奥にあるであろう真意は、そのダークブラウンに阻まれ、見抜くことは出来ない。
「…はい、お待たせ」
マスターがエスプレッソを七弥の前に置いた。趣深い香りが鼻腔をくすぐる。
「……わかりました。俺で何処までやれるかわかりませんが……その仕事、お引き受けしまう」
「きみならそう言うと思っていた」
嶋が僅かな笑みを浮かべた。
「よろしく頼むよ」
七弥は頷いてそれに応え、エスプレッソを口に運ぶ。
「きみならそう言うと思っていた」
嶋が僅かな笑みを浮かべた。
「よろしく頼むよ」
七弥は頷いてそれに応え、エスプレッソを口に運ぶ。
「……あ、美味しい」
「そう、よかった」
七弥の口をついて出た言葉に、マスターがにっこりと微笑んだ。
「そう、よかった」
七弥の口をついて出た言葉に、マスターがにっこりと微笑んだ。
-つづく-
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わーん、思ってたよりちょっと長くなったー(滝汗
でもブツ切って2シーンに分けるよりマシだと思うー(何
でもブツ切って2シーンに分けるよりマシだと思うー(何
そしてこっそりモディアリーニの姉ちゃんが出演。渡も頑張って出そうと思うよ。