炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【キバ外伝】シーン3:アッソナンツァ・少女と怪物【IXA:1997】

「…では、早速明日から始めてもらいたい」
「今日からでもいけますよ?」
「……その恰好で動き回る気かね?」
 嶋に指摘され、改めて時分の容姿を省みる。
 ボサボサ頭とよれよれの白衣は、贔屓目に見てもいい格好とはいえない。
「君のその意気はかうが、まずはそれをどうにかすべきだな」
 嶋が微苦笑し、ぽんと七弥の肩を叩いた。

 ・
 ・
 ・

 ―――そして、翌日。


「……よし、いくか」
 髪を切り、ワイシャツと綿パンというさっぱりとした姿の七弥が頬を叩いて気合を入れる。
 ラボに預けていた自分のバイクに久方ぶりに跨り、エンジンを空ぶかししながら一人思案する。
「だけど、行くったって当ても無いよな……」
 嶋から調査しろと言われたものの、手掛りは皆無といえた。
「まぁ、まずは聞き込みかな。今までの事件現場で目撃者を探してみよう」
 手渡された資料を頼りに、七弥は現在確認できる最後の事件現場へと向かった。

  *

 聞き込みで得られた情報は、資料に記されたそれとあまり大差なかった。
 念の為、2、3ヶ所で聞き込みをしてみたが、成果は芳しくない。
「……そりゃ、調査一日目でいきなり進展があるとも思えないけどさ」
 溜息混じりに呟く。

 目撃者…というよりは、異変の第一発見者の証言はほぼ一致していた。
「悲鳴に驚いて駆けつけた際には誰もおらず…現場には服だけが残されていた、か……」

  ―――きゃあぁぁぁぁぁっ

「悲鳴……そう悲鳴…………悲鳴!!?」
 不意に耳朶を打つ女性の悲鳴が、思考する七弥の意識を引っ張りあげる。
「くっ…! まさかホントに!?」
 大急ぎで相棒のスポーツバイクを叩き起こし、悲鳴の起こったであろう場所へと向かった。

  *

 悲鳴の主はすぐに見つかった。アスファルトの上にぺたりと座り込んで、顔面蒼白となった少女であった。
「大丈夫ですかっ!?」
 バイクを停めるのもそこそこに、七弥は少女に駆け寄る。彼女は「あ……あ…」と引きつった声しか出せずにいたが、自らの身を支える腕の強さに少しは安堵したのか、顔に血色が戻り、よろよろと右の人差し指を七弥の来た方角とは反対に向けた。
「怪…物…」
「怪物だって?」
 ひとまず彼女を手近にあったベンチに座らせ、七弥は示された方角へと走る。
 怪物、すなわちファンガイア。
 その可能性は、決して低いとはいえない。
 懐に忍ばせていたイクサナックルをとり、握り締める。

「―――ッ!」
 少し開けた場所に躍り出ると同時に、イクサナックルを構える。トリガーを引けば、電磁波の弾丸が瞬時に射出され、怪物に決定打とはいかないものの、牽制を与えることは可能だ。

「……あれ?」
 しかし、怪物の姿も、それがいたであろうことを示す痕跡すらない。

「おかーさーん、あのおじちゃん、なにしてるのー?」
「…こら、見ちゃいけませんっ」

 ……間抜けな姿を晒している事実に、七弥はひとしきり赤面した。

「…誰がおじちゃんだ」
 悔し紛れにそうとだけ呟いて、七弥は先ほどの少女のもとへ戻ることにした。

「ごめん、大丈夫だっ……うお!?」
 ベンチでうずくまっていた少女に声をかけた途端にしがみつかれる。かすかに震える体が、彼女に未だに恐怖がまとわりついていることを示していた。

「……うん、もう大丈夫。怖いのはいないから」
 あやすように、掌で背中をさする。するといくぶん安堵したのか、少女はふわりと体重を七弥に預けた。
「……送ってくよ」
 七弥の言葉に、彼女は少し恥ずかしそうに俯いたあと、こくりと頷いた。


  -つづく-

----------------------------------------------

劇中で七弥が乗っているバイクはホンダのX4と言う裏設定があったり。
こちらはイクサリオンのベース車となっているCBR1000RRの流れを汲んでいる機体で、97年に発売されたものです。

…いや、だからなんだ、ですが。


ごめんなさい、まだ当分変身しません(ぇ