炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【シンケンSS】幕間/閑話・逢瀬日和-でえとびより-<後編>【緑×黄】

「ふぅん、いい感じじゃない」
「ほほぉ…あの千明がそれなりにことはをエスコートしているとはなァ…」

 いつしか流ノ介も興味津々で二人の様子を窺っていた。

「ま、男の子ってのは得てして女の子にイイトコ見て欲しいのよ。無意識にしろ、ね」

 さぁ、映画も終わったわけだけど、このまま終わらすつもりなんて無いわよね、千明?

 茉子がにやりとイタズラっぽく笑みを浮かべた。


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「ん……」

 さて、その千明である。
 映画も視終わり、腹もこなれた。
 …これから、どうすべきなのか?

 折角だから、もう少し一緒にいたい。

 偽らざる、千明の思いである。
 が、そのためにどうすればいいのか。色恋沙汰に関してはあまり聡くない千明にとって、それは期末試験の難問に等しかった。

「どしたん?」

 考え込む千明に、ことはが声をかける。

「あ、いや…その……」

 言いよどむ千明。と、泳がせた視線が、見慣れた景色を捉えた。

「あ、そうだ」
「?」

 ほら、と指をさす千明。

「まだ時間もあるしさ、もうちょっと遊ばねえ?」


 ・
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「ゲーセンかぁ…ま、デートスポットしちゃポピュラーだわな」
「…そうなのか?」
 千明たちを尾行中の源太と丈瑠である。
「まぁ、好みは分かれるだろうがな。ことはの場合は…まぁ、あのコの場合何処連れてっても喜びそうだけどよ」
「それは…言えてるな」
 やがて、自動ドアの向こうに消えた二人を追い、丈瑠たちもゲームセンターへと向かった。


 ・
 ・
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「ここ、千明はよく来るん?」
「あぁ。格ゲーとかで遊んでるぜ」
「格ゲー…?」
 聞きなれない言葉に疑問符を浮かべることは。
「まぁ、ちょっとことはには難しいかもな…」
 ちょっと失礼なことを呟きつつ、千明がきょろきょろと辺りを見回す。

「…お」
 と、その視線が隅っこのほうで停まる。

「へぇ、懐かしいな。あの筐体まだあったんだ」
「?」
 千明が見つけたのは、いわゆる体感型…プレイヤーが身体を動かすことで進行するタイプのものだ。
「これもゲームなん?」
「おう。この刀型のコントローラーを握って、画面に向かって振っていくんだよ」
 へぇ…とことはが興味を示す。
「やってみるか?」
「うんっ」
 ニコニコ笑顔でことはがコントローラーを手にする。コインをセットすると、軽快な和風メロディが流れ、ゲームが始まった。

   *

「わっ、わわ」
 おっかなびっくりという表現がしっくりくるだろうか。しっかりとコントローラーを握ったまま、動く映像を凝視する。
「ほらことは、敵だ! 斬れ!」
「あ、う、うん!」
 千明の声に、慌ててコントローラーを振るうが、センサーによって再現された軌跡はみごとに逸れ、敵キャラクターに反撃を許してしまう。
「うぅ…」
「がんばれことはー。侍が刀の扱いで遅れ取るわけにはいかねーぞ」
「そ、そんなこと言うたってぇ…わ!」
 おたおたと慌てながらコントローラーを振るうことは。その様子が可愛らしくも可笑しく、千明が笑みを漏らす。

 …と

「!?」

 その視線が、凍りつく。

「やあっ! あ、や、と、とお!」

 一心不乱にゲームに興じることは。だんだんその動きが激しさを増すと、それに合わせ、ワンピースの裾がひらひらと揺れる。

「こ、ことは…」
「ごめん、いま手、離せへん!」
「お、おう…」

 見えてはいけないものが見えそうで、千明は踵を返し、目を閉じた。

   *

「千明すごい! うちより点数高かったよ~」
「…お、おう…」

 ことはの後にプレイした千明は、危なげなく点数を稼ぎ、ことはの5倍以上のスコアをたたき出した。

「ゲームで勝ってもなァ…」
「?」

 ものすごく複雑な顔をする千明であった。


「…あ、なぁ千明、あれなに?」
「ん?」

 と、ことはが千明の袖を引っ張る。

「ああ、クレーンゲームか」
「くれーんげーむ?」
 小さなマスコット人形がごろごろ入っているガラス張りの筐体に近づく。
「このクレーンを操作して、好きな人形とかを取るんだよ」
「千明、得意?」
「んー」
 基本的に格ゲーメインで遊んできた千明である。手放しで得意とは言えなかった。
「ま、やってみるか」
 ふと、中に入っていたマスコットの一つを見つけて、プレイ意欲をかきたてられる。コインを入れ、アームを動かすボタンにそっと手を添えた。

「…………」

 すぅ、と深呼吸。可能な限り、アームの動きに集中する。
 やがて、ゲームセンター特有の喧騒すらも耳に届かなくなり、目の前のアームと、目標とするマスコットだけが、千明の視界に残った。

「そこだ!」


   *


「千明すごいすごい!」
「へへ、まーな!」
 ほら、と手渡すのは猿をモチーフにしたマスコットストラップ。
「ええの?」
「欲しそうな顔してて『ええの?』もねーだろ?」
 千明がそう言うと、ことはが嬉しそうに顔をほころばせた。


 ・
 ・
 ・


「いい感じね~」
「傍から見たら恋人同士にしか見えねーな。ん」
「どことなくぎこちなさが残っているようにも見えるがな…」
「それが若さと言うものかもしれません、殿」

 二人の様子を窺う、8の瞳。

 大きめのぬいぐるみを扱う巨大クレーンゲーム筐体の陰から、丈瑠たちが顔を出していた。

「あ、手、つないだ」
「今のはことはからか…意外と大胆だな」
「ことはの場合、大胆と言うより単に天然な気もしますが…」
「それにしてもこっからじゃ声聴こえねえな、もうちょっと近づこうぜ」
「わ、バカ押すな!」

 身を乗り出そうとする源太に押され、4人の体がバランスを崩す。

「わ、た、た、と…!」

 一番下にいた流ノ介がなんとか踏ん張るが…

「…あれ? 殿様に…みんな!?」

「「「「うわああああっ!!?」」」」

 運悪くことはに見つかってしまい、それに驚いた流ノ介を起点に、4人が仲良くひっくり返ってしまった。


「……何やってんだよお前ら」

 コントかっつーの。と千明が呆れ声で呟いた。



   * * *



「…ゴメンね、千明」
「なにがよ、ねえさん?」

 帰路に着く6人。ぼんやりと歩く千明に、茉子が小さく頭を下げた。

「ホラ、なんかみんなで遊ぶ形になっちゃって、デート台無しにしちゃったし」
「気にしてねえよ。丈瑠のマヌケ面拝むことも出来たしな」
 ケラケラと笑う。あの後、ことはの提案でゲームセンターで遊ぶことになった丈瑠らは、先ほどことはがチャレンジした刀ゲームでのスコアアタックに興じたのだが…

「……納得いかん」
「と、殿…所詮ゲームですから、ね?」

 丈瑠がまさかの最下位という結果に終わっていたのだ。

「次は実戦で丈瑠にあのツラさせてやるぜ」
 ぐっと、拳に決意を込めて握り締める。

「……ま、がんばんなさい」
「おう! …あ、そうだ」

 千明がポケットから何かを取り出し、茉子に手渡す。

「…これ…?」

 亀をモチーフにしたマスコットストラップだった。

「まぁ、アレだ。今日のお礼っつーか」

 安物で悪いけど。
 そう言って、バツが悪そうに鼻の頭をかく。

「随分殊勝じゃない」
「いいだろ、たまには」
 茶化す茉子に、憮然と返す千明。

「…………ありがとな、ねえさん」
 千明がふわりと笑う。
「……」
 その笑顔に、茉子はつい見とれて―――


「千明ー、茉子ちゃーん。置いてくよー?」

 遠くから聞こえることはの声にはっと我に返る。

「っと、わーったわーった!」

 それに大声で千明が応える。

「行こうぜ、ねえさん」
「え? あ、う、うん…」

 早足でことはを追いかける千明を、小走りに追いかける茉子。


(…気のせい、よね?)

 一瞬、自らに起こった感情について自問する。

「うん、気のせい気のせい!」
「何が?」
「なんでもない!」

 首をかしげる千明を無視して、茉子はつかつかと歩を進める。




 傾いた陽の鮮やかさが、目に染みた。



   -了-



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 なんだこのギッチギチなまでの詰め込み感(ぇ

 千明と言えばゲーセン。ゲーセンで侍に関係しそうなものといえば…

 というわけで、今はもう現役を退いているであろうこの筐体に出張ってもらいました。


 当方も何度かプレイ経験がありますが、相性が悪いのか2面止まり…orz

 たとえ本編でなにも描かれてなくても、同一画面内に二人きりでいるだけで妄想をかきたてられるこの二人。
 今後もきっかけがあればネタにしていこうと思いますw


 シンケンジャー幕間・千明とことはの初デート、まずはこれまで(ナレ調で