炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【オリジナル】GERBERA STRAIGHT!<前編>

 熱いんだか冷たいのかよくわからない突風が吹きぬけ、傍らの少女のスカートを翻らせる。

 …白か。

「って、なに冷静に見てらっしゃるんですの!」

 激昂した<相方>がぶんぶんと手刀を振り回す。
 ふつうならただのチョップで終わるんだろうが、こいつの場合文字通り“斬れる”から始末に終えない。よってひょいひょいと躱す。

「…まったく、身体能力皆無なくせに、逃げ足だけはレベルアップして…」

 がるる…と歯噛みしながら吼える。黙っていればおしとやかなお嬢様然としているのに台無しだ。

「…心にもないことを言わないでくださいます?」
「人の心を読むな」

 ……それはさておき。


「っていうか、ほんとにここでいいのか、お菊よ」
「“お菊”って呼ばないでくださいまし! 私(わたくし)のことは“ガーベラ”と呼ぶようにと、常から申しているでしょう!」

 …いや、お前が金髪碧眼だってんならともかく、墨色髪に黒眼の典型的な和風少女じゃあなぁ……

「似合わんから却下だ。つか、そんなことより…」
「……場所はここであっているはずですわ。律儀に再三メールが来て日時をきっちり指定してきましたもの」

 とは言うものの、約束の時間をとうに過ぎ、すでに彼女も苛立ち始めている。


「……やれやれ。なんで俺がこんな厄介ごとに…」

 本日72回目のため息をつきつつ、俺は今回のきっかけとなるいきさつをつらつらと思い出した。




    GERBERA STRAIGHT!




 俺の曽祖父の実家は、いわゆる骨董品屋を営んでいる。
 店内はもとより、蔵にもさまざまな“いわくつき”の品物がごろごろしているのだ。…もっとも、偽者や贋作の類も多いのだが。

 高1の春休みに蔵の片づけを手伝う羽目になってしまい、いやいやながら蔵の中身を運んでいるさなか、俺は……出会ってしまった。

 今でも思う。冗談だと。

 蔵の奥底に眠っていた日本刀…かの新撰組一番隊組長・沖田総司が愛用していたという銘刀・菊一文字

 興味本位で鞘から抜いたとたん、それは目の前でひかりだし―――少女の姿となったのだ。


 ……いや、冗談を言っているわけでも、幻覚を見たわけでもない。
 いま俺の隣にいるそいつがまさにそれなのだ。

 自らを<菊一文字の化身>と名乗り、刀を抜いた俺をパートナーとして、一人暮らししているアパートにまで着いてきてしまった(ひいじいさんにはなんとかごまかした)。

 そして聞き及んだ、衝撃の事実。

 <彼女>以外にも人(主に少女らしい)に姿を変えた剣が数多くいること。
 ン百年の周期で、その剣同士の戦いがあること。

 そして、パートナーに選ばれてしまった俺は、その戦いに参加しなければならないこと……。


「……って、ンなアホな!」

「なんですの、いきなり大声出して?」

 …っと、いけね。思わず回想シーンに突っ込みいれてしまった。
 しかしなぁ……剣が女の子に化けて、戦って戦って戦い抜いてだぁ?

 三流のラノベだってあつかわねえ様な安直な展開だ。

 …というか、それに巻き込まれる一般人の身にもなってくれ。
 ヘタ打ったら銃刀法違反でお手手が後ろに回っちまうし。

「まぁ、いまんとこ戦いの場所がこーいう人気のないところなのがありがたいところだな」
 町の中だったりした日には、ほかの人を巻き込まない自信がない。

 既に何度か戦って、辛くも勝利を収めている俺たちだが、そのつど現場はトンでもないことになっている。これが街中で…想像したくもないな。

「……! 来ましたわよ」

 ふと、彼女の声が緊張を帯びる。一昔の特撮ものでさんざん使っていたような石切り場の入り口から、ふたつの人影。

「…よぉ、総太」
 片方の男が声をかける。異様なまでになれなれしいが、これでも初対面は数日前だ。
「存外早かったな、あんたらとやるのも」
「おお、まったくやで」
 からからと関西訛りの男が笑う。
「そっちも久しぶりだな、こてっちゃん
「こ、こてっちゃん言うな! 私は<虎鉄>だ!」
 顔を真っ赤にしてゴスロリのちびっ子が叫んだ。
「…お互い、名前で苦労しますわねぇ」
 同情したのか、お菊がため息をついた。

 今回の相手はこの二人……<高瀬淳司>と<虎鉄>か。

 この戦い…<ブレード・ワルツ>とか言うらしい…や、剣をパートナーにしている先輩格ということもあって、いろいろ相談したりとかで、それなりな間柄にはなっていたのだが…

 まぁ、同じ境遇な以上、いずれ文字通り「剣を交える」ことにはなるとわかっていたのだ。安易な情は敗北につながる。

 そして、敗北は……


「…さて、それじゃそろったところで、始めようか」
「……あれ? あんさんら怒ってへんの?」

 高瀬がきょとんとした目でこちらを見やる。

「そりゃ、遅れてきたことに対してか?」
「そうや。俺ァてっきりそれでいらいらして、勝負こっちのペースにもってけると思うたんやけどなァ…」
 ぶつくさと呟く高瀬。…まさかこいつ、巌流島の戦いの武蔵でも再現したかったのか?

「…まあええわ。実力で勝ったほうがおもろいしな」
「じゃあわざと遅れるな! 時間通りにいけなくて私がどんなにそわそわしたことか!」

 <虎鉄>のチョップが高瀬の側頭部に決まり、ぴゅーと鮮血が跳ねた。

「…コントは終わったか?」
「誰がコントか!」

 …いちばんイライラしてるのこてっちゃんの方だなこりゃ。

「そんじゃ、始めよか」
 絆創膏で側頭部の傷をふさぎながら、高瀬は人を食ったようなニコニコ笑顔で前に出る。
「…おう」
 俺もそれにならい、傍らのお菊の前に立った。

「<虎鉄>!!!」
 高瀬が叫び、<虎鉄>の頭に右手をかざす。
「<菊一文字>!!!」
 俺の右手が、お菊の胸元に伸びる。

 と、二人の少女の体がぼう、と輝きだし、その体から刀の柄が顕れる。

「んっ……」
 柄に手をやり、引き抜くと、お菊が艶かしい声を上げる。最初は戸惑ったが、さすがにもう慣れた。

「おりゃあっ!」
「…は!」
 切っ先が抜かれると同時に、お菊、虎鉄ともに少女としての姿が掻き消える。本来の姿に戻ったのだ。
 それに伴い、自らの体に力がみなぎる。<ブレード・ワルツ>のパートナーは、剣を抜くと一時的に身体能力が常人以上に上がるのだ。

「<ブレード・ワルツ>……開始だぁっ!」

 高瀬の声が合図となり、俺たちは地面を蹴った。



   -つづく-


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 ……ノリでモノ書くもんじゃないよなぁ…と言いつつ。またも新作。一応読みきり。

 でも前後編。

 それもこれもみんなディケイドのせいだ…っ!(ぉ


 ありがちといえばありがちな擬人化ネタ。名のある剣が少女に化身して、パートナーとともに戦うとか何とか。

 当然ながら、エクスカリバーとかアンサラーとかもエントリーされてる中、なぜか主人公のパートナーは菊一文字

 ええ、好きでとも。レッドフレーム(そっちかい


 というか、劇中でお菊お菊言われてるけど、考えてみればこれ、オレのリアルあだ名のひとつなんだよなぁ・・・(他には菊ちゃん、きっくんなど)。

 さて、後半戦にはガーベラことお菊の隠された秘密が明らかになったりならなかったりどっちやねんと。