太陽が真上から照りつける昼時。人気のない裏路地に転がったトーテムポールのようなものに、斧の刃が重々しく振り下ろされる。
…が、深々と食い込んだものの、斬られるでもなく折られるでもなく、刃が離れた後は、傷一つ着いていなかった。
「…ふぅ」
<ゲート>と化していたトーテムポールから<陰我>だけを斬り、グレーのオーバーコートを着た男……焔群斬(ほむら・ざん)が一息つく。
彼ら―――<魔戒騎士>と呼ばれる者たちが行う<仕事>のひとつだ。
彼ら―――<魔戒騎士>と呼ばれる者たちが行う<仕事>のひとつだ。
「さて、次へ行こう」
斧をコートの内側へ滑り込ませると、それは音もなく消え…否、コートの中へと入っていった。
『そうね……あら?』
「どうした?」
「どうした?」
左手に巻かれたチェーンの先で、ぶらぶらとゆれながらブレスレットトップ…<魔導具ヴィスタ>が口を開く。
『変ね……ゲートの気配が途絶えたわ?』
「なんだって?」
「なんだって?」
自分に課せられた今日のノルマを思い出す。一月前から<サバック>…魔戒騎士による武術大会のようなもの…が始まり、主だった魔戒騎士はそれに出場しているため、いつもより多い割り振りだったはずだ。
『そうね。その数…いいえ、それどころじゃないわ。他の騎士に課せられているはずの分の気配もまったく感じられないもの』
「誰かが調子よくて一気につぶしたとか?」
『ありえないわね。一つ一つのゲートの場所が離れすぎているわ。いくら魔界道を使ったとしても複数のゲートをほぼ同時に撃破するなんて不可能よ』
『そうね。その数…いいえ、それどころじゃないわ。他の騎士に課せられているはずの分の気配もまったく感じられないもの』
「誰かが調子よくて一気につぶしたとか?」
『ありえないわね。一つ一つのゲートの場所が離れすぎているわ。いくら魔界道を使ったとしても複数のゲートをほぼ同時に撃破するなんて不可能よ』
それもそうだな…と呟き、踵を返す。
「一度番犬所に戻ろう。なにか情報が入ってるかもしれない」
『そうね』
『そうね』
手近にあった壁に手をかざし、魔界道へ続く扉を開くと、その姿はふっと壁の向こうに消えた。
*
<番犬所>……東西南北に分かたれた魔戒騎士の「管轄」を取り仕切る、企業で言うところの事務所のような場所である。
斬が所属するのは、そのうちの南の管轄だ。
斬が所属するのは、そのうちの南の管轄だ。
「よぉ」
「紅牙…それに、神薙もか」
「紅牙…それに、神薙もか」
はたして番犬所に到着した斬が目にしたのは、同僚の魔戒騎士二人であった。
<来ましたね、焔群斬>
テーブルでチェスの駒を転がしていた純白の少女がこつこつと斬のそばに歩み寄る。南の番犬所を預かる神官・スーニャである。
<此度の事態、そこの暁紅牙、ならびに神薙あかねから既に聞き及んでいます。ゲートの気配が消失した…違いありませんね?>
スーニャの言葉にうなづく斬。
<先だって、東の番犬所から連絡がありました。あちらでも1週間ほど前に同様の事態が発生し、その後……“緑青騎士”が現れたと>
『緑青騎士?』
「知ってるの、リルヴァ?」
あかねが、パートナーの魔導具に問いただす。
『どこの管轄にも属さない、根無し草の魔戒騎士。時々思い出したようにふらりと現れては、ホラーを狩って…愉しむ。ただそれだけの男よ』
「狩って愉しむ?」
「知ってるの、リルヴァ?」
あかねが、パートナーの魔導具に問いただす。
『どこの管轄にも属さない、根無し草の魔戒騎士。時々思い出したようにふらりと現れては、ホラーを狩って…愉しむ。ただそれだけの男よ』
「狩って愉しむ?」
<そう。あなた方のように“守りし者”としての自覚に欠ける…いえ、絶無と言っていいでしょう。魔戒騎士の暗部を一人に集約したような男、それが緑青騎士・咎牙>
「トガ…」
「なるほど。文字通りの戦闘狂ってヤツか」
腕組みをして、紅牙が唸った。
「なるほど。文字通りの戦闘狂ってヤツか」
腕組みをして、紅牙が唸った。
「そのときの東の管轄と同じことが起きたということは…」
『今度は南の管轄に、そのトガが現れた、ということじゃの』
ため息混じりに紅牙のパートナー、魔導具シヴァが呟いた。
『今度は南の管轄に、そのトガが現れた、ということじゃの』
ため息混じりに紅牙のパートナー、魔導具シヴァが呟いた。
<咎牙は、戦いを邪魔されることを最も嫌うと聞きます。事実、東の管轄でも咎牙とホラーの戦いに加勢しようとした金剛騎士・殴牙が攻撃され、重傷を負っています>
「何、律がか!?」
「知り合いか、紅牙?」
「おう、行きつけの酒屋の二代目だ。……つか、大丈夫なのかあいつは?」
「知り合いか、紅牙?」
「おう、行きつけの酒屋の二代目だ。……つか、大丈夫なのかあいつは?」
紅牙の問いかけにスーニャはこくんとうなづいた。
<速やかな治療で、現在は快方に向かいつつあるとのことです>
その言葉に、ほっと安堵の表情を浮かべる紅牙。
「…それで、俺達はどうすればいい?」
斬がスーニャに問いかける。
斬がスーニャに問いかける。
<こちらから手を出しさえしなければ無害ですが、管轄をむやみに荒らされるのも好ましくありません。そこで……>
一呼吸おいて、スーニャが口を開いた。
<……緑青騎士・咎牙を、討伐します>
-つづく-
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紅牙は、律の母親が経営している造り酒屋の常連という設定。
スーニャという神官は、「紅蓮の剛刃」で神官職を解かれたエウルディーテの後任です。
スーニャという神官は、「紅蓮の剛刃」で神官職を解かれたエウルディーテの後任です。
さて、早速物語が動いておりますが、次は渦中のトガのターン。
…の予定。
…の予定。
物語を作りながら、簡単な骨組みしかなかった咎牙に新たな設定がちょこちょことできております。いいことだw
ともあれ、お楽しみに。