炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【レジェンド大戦】Episode:CAR-RANGER/今も元気だ信号野郎


 うららかな春の陽気が、頬をなでる。
 街行く人も、どこかほんわりとして、気を抜いたら居眠りをしてしまいそうな、そんな日和。

 町外れの交番には、陽光をものともしない、直立不動の警官がひとり居た。

「……」

 市民を守ろうと堅く引き締まった表情が凛々しい。
 が、悲しいかな。

「……誰も通らない」

 何が目的でこんなところに派出所を作ったのやら、人っ子一人通らない交番の前で、警官はひとり一心に……あるいは、少し物悲しげに佇んでいた。

「……通った」

 と、数日振りに眼前を通り過ぎる人影に見覚えがあったらしい。警官はむんず、とその肩を引っつかんで向き直らせた。

「やぁ、通りすがりの一般市民君!」
「……げ、シグナルマン……」

 露骨に顔をしかめてみせたのは、かつて激走戦隊カ―――レンジャーとして町内を守った、レッドレーサーこと、陣内恭介であった。



     AFTAR of LEGENDWAR
     Episode:CAR-RANGER/今も元気だ信号野郎



「ちっちっちっ……今の本官はシグナルマンではない! 堀須直成(ほりす・しぐなる)だ!」
「知ってるよ……その名前考えたの私だもの」

 げんなりした表情で恭介が呟く。

「というか、ちゃんと真面目に警察官やってたんだなァ」
「失敬な。本官は生まれたときから真面目な警官だぞ!」

 ふん、と胸を張る制服警官……シグナルマンと恭介が呼んだ彼は、かつてカーレンジャーと(勝手に)共に戦った、そのシグナルマン当人である。

「しっかし、あの<戦い>から随分経つけど、まだ元の姿に戻れてないみたいだな」

 シグナルマンはもともと、ポリス星出身のいわゆる異星人である。
 それゆえに姿かたちも地球人のそれとは違うのだが、先の<レジェンド大戦>において、全てのスーパー戦隊がその力を喪ったと同時期に、彼もまたシグナルマンとしての力を喪い、結果、地球人と同じような姿になってしまったのだ。

「うむ、いろいろ苦労も多いが、こうやって働き口を見つけてくれたカーレンジャーの諸君には感謝しているぞ!」
「まぁ、それは私たちというより、ガイナモたちのおかげだな。今度店に食べに行ってやれよ。喜ぶぞ?」

 力を失くし、愛機サイレンダーも大破し、帰るあても行くあてもないはぐれポリス星人となったシグナルマンを、かつて敵対していた宇宙暴走族<ボーゾック>の総長だったガイナモが、「これも何かの縁だ」と言って全面的にバックアップ。地球人(彼ら的には「チーキュ人」)としての身分と、仕事を都合してくれたのだ。

「そうしたいのは山々だが、あまり外食できるほど懐にに余裕もなくてなぁ……」
「不景気のあおりがこんなところにもか……」

 二人して地味に凹む。

「仕事といえば、一般市民。君はあの自動車会社を辞めたと聞いたが?」
「ああ。今私は役者をやってる。交通安全をテーマにした芝居を作っているところだ」

 恭介の言葉に、ほう! とシグナルマンが目を輝かせる。

「それは興味深いな! ぜひ、本官も参加を……」
「いやいやいや! そっちはそっちで警官の仕事って忙しいだろ? ここは私に任せておきなさいって!」

 交通安全体質のお前が出たら芝居が進まなくなる。という言葉をぎりぎりで飲み込む恭介である。そんな彼の内心なぞつゆしらず「そうまで言うなら……」と比較的素直にシグナルマンは引き下がった。

「で、だ。実際のところ仕事はどうだ? 同じ警官でもポリス星と地球じゃ随分違うんじゃないのか?」

 恭介が話題を変えるべく口を開く。

「そうでもないぞ。宇宙だろうがチーキュだろうが、ルール違反をするやつは居るからな。本官がそいつらを見つけた日にはちぎっては投げちぎっては投げと……」
「ちぎるな投げるな!」

 ひょっとしてこいつを警官にしたのは失敗だったのか。
 今更な後悔が恭介を苛んだ。

「ま、まぁ……こーやって人通りの少ない交番で立ってる分には平和なのかもな……」
「?」

 上司もその辺を見越して彼をここに立たせているのか知れない。

(上司、グッジョブ!)

 名も顔も知らないシグナルマンの上司に、恭介は心の中でサムズアップをした。

「……む、むむむ?」
「どーした、シグナルマン?」

 と、空を睨み付けて唸るシグナルマン。恭介が問うと、「アレを見ろ!」と空を指差した。

「な……なんじゃありゃ?」

 思わず目を疑う恭介の視線の先に――真紅の帆船が、空に浮かんでいた。

「お……おのれ……!」

 何かが琴線に触れたのか、シグナルマンが肩を震わせる。

「お、おいシグナルマン、何考えて……」

 イヤな予感がよぎった恭介がその肩を掴もうとして……手が空ぶる。

「本官の許可無くッ、海賊船がそんなところに碇を下ろすなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 いつの間にか自転車に飛び乗り、猛スピードで突っ走っていくシグナルマン。
 その制服姿はぐんぐんと遠ざかり……

「……相変わらずだなぁ、アイツ」

 無人の交番にひとり取り残された恭介が、ため息混じりに呟いた。



   -It continues to the GOKAIGER 1st EPISODE…-





 懲りずにレジェンド大戦SSシリーズ、今回はカーレンジャーをフィーチャー。

 ネタ元はもちろん「レジェンド大戦後のシグナルマンってどうなってんの?」という謎。

 もとがグランディオンヘッダーなゴセイナイトや、レムリア文明のプレシャス・黄金の剣たるズバーンはともかく、変身するわけでも変形するわけでもない彼は、力を喪ったらどうなっちゃうのか?
 ということへの自分なりの回答案。

 まぁ、「地球人に似た姿になっている」という、ある意味安直極まりないネタで恐縮です(滝汗

 ちなみに、容姿がどのようなものかは特に明示しておりませんので、皆様お好きに妄想なさってください(ぇ


 さて、レジェンドネタストックも残すところあと1つ……

 今後ネタが浮かぶといいんだがなぁ……執筆数稼ぎ的な意味で(ぇ