その侵攻は、唐突であった。
いや、ひょっとしたら以前から兆候はあったのかもしれない。
しかし、それを知る術を、誰もが持ちえたわけではない。
ゆえに、唐突であった、としか評せないのだ。
そしてその侵攻は、ひょんなことから白日の下にさらされることになる……
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『だーかーらー! さっきから言ってるでしょーっ!? なんかすっごい数の艦隊が、地球に向かって来てるんだってばーっ!!!』
宇宙警察ご謹製の監視衛星のカメラに顔を近づけ、がなりたてる女性。
当然ながら衛星に通信機能なぞ付けられておらず、リアクションをとったところで彼女にそれがわかる由もないのだが、返事がないのを否定と捉えているらしく、がくがくとカメラを揺らしてわめいていた。
「……これが、10分前に送られた映像だ」
宇宙警察・地球署を預かる、ボスことドギー・クルーガーがジト汗を浮かべながら映像を見せる。
「これ……一応確認しますけど、宇宙空間ですよね?」
センちゃんこと江成仙一がこめかみを抑えながら問うと、ドギーは無論だ、と頷いた。
「まぁ、宇宙空間でも生存可能な異星人も珍しくはないけど……」
「でもどうみてもこのヒト……地球人……よねぇ?」
「彼女の正体はともかく……その“すごい数の艦隊”というのが気になるな……ボス、こっちのレーダーに反応は?」
ホージーこと戸増宝児の質問に、ドギーはグルル……と喉を鳴らし、首を横に振る。
「念のため、宇宙警察本部にも確認は取ってみたが、地球圏ならびに太陽系全域に、該当する船影は確認できなかったそうだ」
『あーもー、ラチがあかないっ! ちょっと聞いてる!? 聞いてるなら今すぐ! 百獣戦隊! ガオレンジャーの! みんなを集めなさーい!』
と、映像が変わる。カメラに近づきすぎたのか、鼻の頭しか映っていない。
『私は! ガオの巫女・テトム!! 彼らなら、きっと私のこと判ってくれるからーっ!!!』
四の五の言わずに呼びなさーい!!!
テトムなる巫女が、大口を開けて叫んだ。
BEGINNING to REGENDWAR
Episode:GAORAGER/戦士、集う!
都会の雑踏の中を、人並みを苦もせず通り過ぎていく若者の姿があった。
「……っん?」
ふと、頬を撫ぜる風に違和感を感じ、彼は視線を上に向ける。
ビルに添えつけられた巨大モニターを視界に収めた刹那、彼の表情が凍りついた。
『ガオレンジャー! 聞こえてる!?』
聞き覚えのある声に……喉奥?
『……近すぎた』
一瞬素に戻り、カメラから遠ざかる。咳払いをひとつする女性を、彼は……大神月麿(おおがみ・つくまろ)はよく知っていた。
「テ……テトムっ!?」
* * *
「みんな! 見たかアレ?」
再会の挨拶もそこそこに、集結した元ガオレンジャーの面々に声をかけるのは、ガオレッド・獅子 走(しし・かける)だ。
「アレ宇宙空間だってニュースで言ってたぜ? テトムの奴、無茶してるよなー……つか、巫女ってな人間を越えるシロモノか?」
「ガオズロックの中とはいえ、月面で寝てるっていうからなぁ、生身で宇宙空間とか朝飯前なのかも」
昼休み中の自衛隊基地から大慌てで飛び出してきたガオイエローこと鷲尾 岳が、窮屈な制服を緩めながら首をかしげ、すっかり海の男な風貌のガオブルー・鮫津 海が苦笑交じりに呟く。
「でも、テトムがいうものすごい数の艦隊っていったいなんだろうな? 宇宙警察のレーダーには反応がないってテレビは言ってたけど」
働いている牧場の牛が病気になったので、相談すべくたまたま走のもとを訪れていたガオブラック・牛込草太郎が心配そうな面持ちで口を開く。
「テトムの言うことだから間違いではないのだろう。さっきから厭な風も吹いてきている……この地球に、なにやらよからぬことが起ころうとしてるのは確かだ……と」
一人木の上にたたずんでいた月麿が新たな来訪者に気づいた。一息に跳び、その傍に降り立つ。
「きゃっ……な、なあんだ月麿じゃない。脅かさないでよぉ……」
「驚いた割には動きにスキが無いな。また腕を上げたんじゃないか、冴」
武道学校を無事卒業し、鹿児島の実家へ帰っていたガオホワイト・大河 冴だ。
「あのニュース見てから来たのか……にしちゃ早くないか?」
「今日はたまたま対外試合でこっちに来てたのよ……まさかそこでテトムの口の中見るとは思ってなかったけど」
冴の言葉に、岳がふと思い出したように呟く。
「そういや、俺も今日はたまたまこの近くの基地にいたんだよな……」
偶然にしちゃ出来すぎている気がする……と考え込む仕草をしてみせる。
「俺たちが、テトムの呼びかけに合わせられるかのように、みんな近くにいたってことか?」
まさか……と一笑しかける走だったが、不思議な出来事に立て続けに遭遇したガオレンジャーとしての戦いの記憶をたどると、あながちおかしい話でもない、と表情を引き締めた。
「本当にヤバいことになりかけてるのかもな……」
空を見上げ、来ているのかも今はわからない艦隊をにらみ付ける。と、空の真上から赤い火の玉が猛スピードで降りて……いや、落ちてくるのが見えた。
「!?」
「あれは……」
岳が航空自衛隊で鍛えた動体視力で火の玉の中に人影を見つけて絶句した。
「テトム!」
彼らを集め、ガオレンジャーを結成させた巫女が、隕石のように落っこちた。
* * *
「みんな、そろったわね」
曰く、大気圏を突入してきたらしい。真っ黒焦げのテトムが鼻を膨らませてガオレンジャーの面々を見る。
「……いや、大丈夫なのか、テトム?」
「何が?」
走の心配もどこ吹く風である。
「さすがガオの巫女だ、なんともないぜ……」
「いや納得しちゃダメだろ」
草太郎の呟きに海がツッコミを入れると、「はいそこうるさい!」とテトムの叱責がとんだ。
「あの後、宇宙警察……デカレンジャーの人と話せてね。例の艦隊が<ザンギャック>っていう宇宙帝国の者だって言うことがわかったわ」
ぞわり。
その単語を耳にしたとたん、ガオレンジャーの面々に悪寒が走った。
「その戦力は強大で、滅ぼされた星も多いって聞くわ。宇宙警察でもその動向を探ってたらしいんだけど、なかなかつかめなかったって」
「そんな連中が、地球に……」
何が目的か、などと野暮な質問はしない。
「今、デカレンジャーが迎撃体制を取っているわ。私たちも、戦いの準備を」
そう言って、テトムが再び彼らにガオジャケットとGフォンを手渡す。
「……この感じ、懐かしいな」
ジャケットに袖を通し、知らず走の表情が綻んだ。
「遊びじゃねえんだぞ、もーちょっとビシっとしろリーダー!」
岳の指摘を受け「わかってるさ」と口を尖らせる。
「まずは仲間を……スーパー戦隊の仲間を集めましょう」
事態は一刻を争うのだ。
「ああっ……いくぞ皆ァ!!!」
走……否、レッドの号令で、一斉にGフォンを掲げる。地球の精霊が、にわかに騒ぎ出す。
『ガオアクセス!!!』
――Summon, Spirit of the Earth!!!
パワーアニマルの心が目覚めるとき、自然の力と人の思いが一つになり、地球を守る6人の戦士が生まれるのだ。
「百獣戦隊!」
――ガオレンジャーッ!!!
6人の雄たけびに呼応するように、天空島から巨大な聖なる獣たちが降臨する。
「ガオライオン! みんな!!」
ここに集う、6人の戦士と、6体のパワーアニマル。
ガオレンジャーが再び起つ。
「よおっし……来るなら来てみろ、宇宙帝国ザンギャック! 俺が!俺たちが! スーパー戦隊が! お前たちを絶対に倒す!!!」
やる気マンマンだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
ガオレッドの雄たけびが、大地を震わせる。
それが、のちに<レジェンド大戦>と呼ばれる、大いなる戦いのゴングの代わりとなった。
-It continues to the LEGEND WAR-
久しぶりのレジェンド大戦SSシリーズ。
タイトルクリックして冒頭読んで「アレ、タイトル違くね?」と思わせたら俺の勝ちです(何
VSシリーズでも絡まなかった2作を絡めたのは、今回のネタの発端
「ザンギャックの第1次地球侵攻にいち早く気づいたのはどこの誰?」という疑問から。
真っ当に考えるなら地球全土をカバーし、監視機能も整っているであろうデカレンジャーなのですが、それより以前に月面在住の彼女が気づくんじゃないだろうか? ……ということで急遽彼女に起きて来てもらったのですw
おかげで(?)テトムがものすごいアレなキャラになってしまってますが、私の中ではテトムってだいたいこんなキャラだった記憶があるんですが……あれ?
さて、明日の執筆奏上! もレジェンド大戦SSでゴザイマス。
本作とリンクしたネタをすでに考案済みですので、どうぞお楽しみに~