「暑い……」
「暑いですねぇ……」
ジョーがカイラギと斬り合いを始める少し前……
ピンク色の大気を飛び越えた、二人の女宇宙海賊の姿が地表にあった。
「外からの見た目は、わたくしのふるさとに似ていたので気候はそれなりに温暖だと思っていたのですが……」
「温暖ってレベルじゃないわよもう……」
じりじりと照りつける陽光に、額に滲んだ汗をぬぐう。ルカ・ミルフィとアイム・ド・ファミーユの二人が降り立ったのは、ガット星。
その華やかな外観に反し、地表の実に9割が砂塵に覆われた砂漠の星である。
「折角レンジャーキー見つけても、ここ脱出できなきゃあたしたち日干しになっちゃうわ……」
「せめてガレオンと一緒に別の星に不時着しているはずのマーベラスさんと連絡が取れればよかったのですが……」
バルバンによって敷かれているらしい妨害電波はここでも猛威を振るい、互いに連絡もできない。
到着早々に見つけ出したギンガピンクのレンジャーキーを取り落としかけ、ぎゅっと握り締めながら、アイムがため息をついた。
「ともかく、どっかで体休めるところを探すわよ。砂漠ならどこかしらにオアシスがあったっていいもの」
「そうですね……」
とは言うものの、すでにガット星に到着してから結構な時間は経っていたが、オアシスらしき場所はなかなか見つからず、それらしき気配を感じても、蜃気楼が生み出した幻でしかなかった。
「まァいったわね……」
「……あら? ルカさん、あれを!」
ふと何かを見つけたらしいアイムが、ルカの上着の袖を引く。「あっちです!」と指を指す方角へ、しかめっ面になりながら目を凝らすと、砂漠の色に良く似た、しかし明らかに自然物ではない塊を見つけた。
「なにあれ……遺跡かなんか?」
「遺跡、ですか?」
「ん。昔、トレジャーハントの真似事もしててね。似たようなのにもぐりこんだことはあったからさ……」
しかし……とルカが首をかしげる。
自分が知っているギンガ星系の情報が確かであれば、知的生命体による文明などは築かれていないはずだ。そこに文明の名残といえる遺跡が存在するというのは流石に不自然に過ぎる。
「……どうかしました?」
「あ、ううん。なんでも」
アイムの問いかけに我に返る。気になるのは確かだが、これ以上炎天下に妹分を晒しては置けない、と思い直し、ルカは「行きましょ」とアイムを促した。
「とりあえず、日よけにはなると思うわ」
・
・
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「……ふぅ、どうにかひと心地つきましたね」
「まぁね……」
遺跡の中……日陰に入り、安堵の息を漏らすアイム。対してルカは周囲の警戒に余念がない。
「うかつに壁とか触んないようにね。こーいうところは何処にトラップがあるか……あ゛」
そう言って踏み出したルカの左足が、妙な手ごたえ……ならぬ脚応えを感じる。
「どうかしました?」
「……アイム」
「はい?」
嫌な予感が全身に警鐘を鳴らす。背後から妙な轟音も聞こえてきて、それは確信だと本能が告げた。
「走ってぇぇぇぇぇぇっ!!!」
ルカの絶叫がこだました瞬間、二人のすぐ後ろで壁が吹き飛び、巨大な鉄球が姿を現す。
アイムの手を引っつかみ、脱兎の如くルカが駆け出した。
・
・
・
遺跡中を走り回り、どうにか巨大鉄球をやりすごしたルカたちはへたり込んで肩で息を整えていた。
「……考えてみれば、あたしら変身できるんだし、それであのデカブツぶっ壊せばよかったわね……」
「ま、まああの時はどちらも慌てていましたから……」
不覚だわ……とうなだれるルカに、とりあえずフォローするアイムである。「ありがと」と微苦笑しつつ立ち上がり、辺りを見回す。
「どこまで走ってきちゃったのやら。ただの日よけにするつもりが……まいったわ」
「マッピングのヒマもありませんでしたものねぇ……とりあえず、入り口まで戻りましょう?」
「んー……それもいいんだけど」
言いよどむルカに首をかしげるアイム。
「もうちょっと奥まで行ってみましょ! あんだけ大仰なトラップがあるんだし、お宝の一つや二つ転がってそうだわ」
「え、ええ……?」
ここは止めるべきなのだろうが、瞳の奥にザギンマークを光らせているルカには今何を言っても無駄かもしれない。わくわくしながら奥へと進むルカに、アイムは苦笑しながら同行する。
「……ふふ、うかつな女海賊だこと。私と同じ匂いがしてたのは正解だったわね?」
「!?」
不意に聞こえる、ねちっこさを感じさせる女の声。刹那、ありとあらゆる壁面、床面、天井から包帯のような布が一斉に飛び出し、アイムとルカを絡めとった。
「っなに!?」
「きゃあっ!?」
なす術もなく縛り上げられ、宙吊りになる二人。そんな彼女たちを嘲笑いながら、妖艶なシルエットが姿を見せる。
「あんた……さっきの!」
「ハァイ、お二方。一応自己紹介しておいてあげるわ。宇宙海賊バルバンが呪皇……ヨルドよ。あんたたちの持ってるレンジャーキー……貰いに来たわ」
「……何のことかしら?」
「誤魔化すのがヘタクソねぇ……既にあんたたちがギンガマンのレンジャーキーを持っていることくらい、知っているのよ?」
ヨルドと名乗った女の、掲げた手のひらから青白い炎が出現し、その奥でレンジャーキーを見つけて喜ぶルカたちの映像が浮かび上がった。
「まぁ、覗き見とは、あまりいいご趣味ではありませんね」
「言ってなさいな。欲しいものを得るために手段は選ばないのが海賊であり、この私なのよ」
アイムの指摘に言い返し、手にした杖が鈍く光らせる。それに呼応して、ルカたちを締め付ける包帯たちがその力を増した。
「っぐ……なるほど。あんたのその力で、この遺跡を操ってるってトコね?」
「ふふん……それを知ったところでどうにかなるって言うのかしら?」
「どうにかなる? 違うわね……」
不敵に笑うルカが両手首を、くんっ、と曲げる。その手の中にあったワイヤーがぴんと張り、その先に繋がれていたゴーカイサーベルを二振り連れてくる。
「アイム、頭下げてッ!」
「は、はいっ!?」
ルカに言われて頭を引っ込めたアイムの頭上でサーベルの切っ先が飛び交い、二人を絡め取っていた包帯をずたずたに切り裂く。戒めが解けた二人が、美麗に着地を決め、未だ身体にまとわり突いていた包帯を剥ぎ取った。
「な、何……!?」
「どうにかするのが私ってこと。伊達に、女だてらに海賊やっちゃいないのよ! いくわよアイム!」
「はいっ!」
二人がモバイレーツに自らのレンジャーキーをセットする。
「「豪快チェンジ!!」」
-GO―――――KAIGER!-
「ちぃッ……!」
歯噛みするヨルドに、二人の女海賊が立ちはだかる。
「あたしらをおちょくったこと……全力で後悔させたげるわ!」
「ええ、派手に参りましょう!」
ゴーカイサーベルと、ゴーカイガン。その切っ先と銃口がヨルドを睨みつけた。
-つづく-
さて、これでマベちゃんvsダイバー以外の対戦カードが出揃いまして。
本来であればここで3シーン書ききったので次のローテに回るところなんですが……
うん、やっぱやっとくか。