「クレオ!エレガンス!医療チームを指揮して全ての患者を城の特別処置室へ!施錠してこの女を近づけさせないように!」
「は、はいっ!」
ヒメノの凛とした声が泉の水面を揺らし、二人が背筋を正してそれに応える。てきぱきと患者たちは搬送され、やがてその場にはヒメノとエンプサの二人だけとなった。
「…この私の頬を張るなんて…元女王の癖にやってくれるじゃあないの…!」
「元?私はいつでもこの国の…イシャバーナの女王、ヒメノ・ランよ!」
大振りの剣…オージャカリバーを振るい、その切っ先をエンプサへと向けるヒメノ。
「フン…今や王の鎧すら纏えぬ只の剣を後生大事に抱えて…せめてもの慈悲で生かしておいてあげたものを…この女王エンプサの厚意を無碍にするなど!」
「女王?あなたが?あなたはただ命を弄ぶだけの俗物!私も、イシャバーナの民も…だれもあなたを女王などとは認めないわ!」
そんな"我儘"は、この私が許さない!とヒメノがカリバーを振り下ろす。その斬撃を、エンプサは手にしていたメスで受け止めた。
「認めない、じゃあないのよ…今の私こそ、イシャバーナの女王!その証が…ここにあるのだから!」
メスを振りぬき、ヒメノが圧され大きくたたらを踏む。顔を上げたヒメノの視線の先には、エンプサがメスより持ち替えた、王者の証たる剣の柄。そしてその腰に着けたベルトの存在に、様子を窺っていた祢音が目を見開いた。
「デザイアドライバー!じゃあ、あの女の人がプレイヤー?」
-Come and Kick it!-
黄色いレバースイッチを弾き、冷たい視線でヒメノを見据えながら、エンプサが刀身のない王者の剣をドライバーへとセットする。
「…王鎧武装」
-KAMAKIRI OHGER!-
「我が名は、仮面ライダーゴルドギーツ!全ての美と医療の頂点に立つ女王である!」
黄色い鎧をまとった自称・女医にして自称・女王が、高らかに宣する。
「…嘘、金ピカのギーツ!?」
その顔を覆う鈍い金色の狐面に、祢音が絶句した。
*
「はあっ!」
「くっ!」
ゴルドギーツが振り下ろす鎌…キングズウエポンの鎌モードである…をオージャカリバーで受け止め、いなすヒメノ。ドレスの裾が翻るほどに軽やかな体さばきが、衝撃を最小限に抑えてはいたものの、その猛攻に生身の細腕は今にも悲鳴をあげそうになっている。
「だめ!このままじゃ…!」
隠れていた木の陰から飛び出し、祢音はビートバックルをデザイアドライバーへとセットした。
「変身!」
仮面ライダーナーゴ・ビートフォームへと転じ、両者の間に割って入りながら手元に出現したビートアックスを勢い良く振り下ろす。その軌跡はオージャカリバーとキングズウエポンの切っ先をかすめ、地面を大きく爆ぜさせた。
「何ッ!?」
「あなた!ライダーの癖に生身の人相手にするとか何考えてるのッ!?」
ヒメノをかばうように前に立ち、ナーゴがゴルドギーツと対峙する。
「自分が女王だと証明するためよ?他に何があるっていうの?」
「…はあ?」
言っている言葉の意味が理解できず、ナーゴの仮面の奥で祢音の目が点になる。
「と、とにかく!ええと…あなた!ここは私が何とかするから今すぐここを離れて!」
「嫌!イシャバーナ女王として、これは引くわけにはいかない戦いなの!」
「ええっ!?」
今度はヒメノの言い分に目を点にする祢音である。大層な剣を持っているとはいえ、方や生身の人間、方や重装備の仮面ライダーである。その戦力差は歴然であると言えた。しかしヒメノは退かないのだ。再びカリバーを構え、スカートが跳ねた。
「ああっもう!こっちじゃこの人守りながらはしんどいし…これで!」
ファンタジーバックルをドライバーにセットし直し、再度両者の間に割って入る。
「ちょっとおとなしくしなさい二人とも!」
足元に特殊空間…サークルフィールドを展開し、そこから出現したファンタジーエフェクトで両者の攻撃を逸らす。
「ちょっ、何なのそれ!?っていうか貴女何者なの!?あいつと同じような変身したけど…そこのエセ女王の仲間!?」
「だれがエセ女王よ!」
「いや仲間じゃなくて…いや同じ仮面ライダーだけど…直接関係はないというか…」
なんともかしましくなってしまった戦場で、無軌道に武器を振り回すゴルドギーツとヒメノの攻撃に挟まれ、ナーゴはエフェクトで防戦一方になってしまう。
「…いい加減にしなさーい!」
-FANTASY STRIKE!-
思わず必殺シークエンスを発動させてしまい、ファンタジーエフェクトが二人をまとめて吹き飛ばしてしまう。すぐに我に返り、ナーゴは飛ばされたヒメノをどうにか受け止めた。
「…あら、ありがとう?」
「え、あ、ど、どういたしまして…?」
結果的にお姫様抱っこのような体勢になってしまい、視線がバッチリ合った祢音とヒメノがぎこちないやりとりを交わす。
「…なんなのよ、あんたのそれ…何のバックル?私知らないわよそんなの…!」
と、遠く離れてしまっていたゴルドギーツが低い声を挙げながら二人に狐面を向けた。
「え?そりゃまぁ、ちょっと特別なバックルだし…?」
「律儀に答えなくていいわよあんな奴に!」
ファンタジーバックルの出どころを説明しようとした祢音の仮面を、ヒメノがカリバーの刀身ではたいた。
「…気に入らないわね。私の知らないバックルがあるなんて…そんなの…欲しくなっちゃうじゃないの…!」
じっとりと呟きながら、ゴルドギーツの手がバックルホルダーに収めた紅いバックルへと延びる。
「あれって…ブーストバックル?ちょっ、あれ使われたら手が付けられなくならない!?」
かつて、最強クラスのギーツナインですらその威力に変身解除を余儀なくされるほどのダメージを与えたことのあるバックルの存在に気づき、祢音のこめかみに嫌な汗が伝う。
(せめてこの人を安全なところまで…!)
どうにか隙を見て離脱しようと考えたナーゴの足元で、強烈な振動が発生した。
「ええっ!?何なに?今度はなんなの!?」
テンパるナーゴの足元の地面が隆起し、舗装されたそれが大きく裂ける。
「すこピ!」
「え?」
弾むヒメノの声に振り返ると、巨大なサソリがそのハサミを二人に向けていた。
「ヒメノさまぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「セバスチャン!」
「なにあれ?え?おっきなサソリ?っていうか中からおじさんの声した!?何それ怖っ!?」
ヒメノがすこピと呼ぶ巨大サソリは、そのハサミでヒメノとナーゴを捕まえると勢いよく地面に潜り込み、その場を離脱するのだった…
-つづく-
というわけで本作オリジナル仮面ライダー二人目!はい、コバルギーツの時点でお察しの方もいたでしょうが、こいつもギーツだよ!(爆
ちなみに金色のマスクと言えばナーゴもそうなんですが、色味としてはゴルドドライブをイメージしてます。ナーゴと並べたらちゃんと違いがわかる色だと思ってください(適当
今更ブーストバックルお出しされてもファンタジーならどうにかなるんじゃね?と思われるかもですが、ブジンソードのタイクーンが併用した際にギーツナインを変身解除にまでは追い込んでるので侮るなかれではあるんですよね。あの時の戦闘はまぁいろいろ事情はあったにせよですが。